恋愛小説の影の恋
ろくねこ
第1話【恋愛小説は序章に入る。】
男なら人生で1度は美しい女性とお付き合いをしてみたいと思うのは当然だろう。
例えばテレビで見る身麗しい女優やアイドル、身近なところで言えば職場の憧れの美人先輩や学校の美少女などがそれにあたる。
しかし現実はそう上手くいく訳もなく、「偶然人気アイドルと幼馴染である」や「学校の1番人気の美少女が実は俺に気があった」なんて展開はありやしない。
結局全ては物語の中の幻想に過ぎず、そんな事を現実で考えていても無駄な事に変わりは無い。
と、そんな理想論を嫌っている俺の学校にも例に漏れず完璧な美少女という人物は存在する。
それが今、自分の席に座り友人に囲まれながら楽しそうに話に花を咲かせている茶髪美少女の「平崎ひらさき 彩香あやか」である。
成績優秀、運動神経抜群、そして温厚な性格に生徒会副会長と、教師からの信頼も厚い完璧な模範生徒をそのまま書き写した感じだ。
そんな人がもちろん男子達にモテない訳もなく、入学して半年で学年問わずうちの学校の半数近くの男子生徒が告白をし、、無事玉砕していった。
勇敢にも立ち向かい散っていった男子生徒たちには敬意を表しながら流石の完璧美少女だなという感想を抱いたのである。
と、ここで疑問が出るとすれば「そんな美少女に対しての俺の気持ちは一体どうなのか」という所だろうが、その解答は「特にどうってことない」だ。
これは別に見栄を張っている訳ではなく、本当に平崎に対しての恋愛感情というものは一切無く、どちらかと言うと完璧さへの感心の方が高いのである。
「…やっぱり人気者だよな平崎さん…。」
自分の机で腕に顔の重さを全て支えながら教室の中を見渡していると、俺の前の椅子に逆で座りながら背後の平崎の方を見つめているイケメンがボソッと呟いた。
この金髪のイケメンは「神崎かんざき 暁斗あきと」、当然と言わんばかりに勉学、運動が出来皆が羨むイケメンでありながら俺のような人付き合いの下手な奴にも優しく接する人柄も持ち合わせている。
平崎さんに並び学校内では2人は美男美女有能コンビと呼ばれ、1年生ながらに異例の生徒会長、副会長当選という偉業を成し遂げた凄いやつである。
普通の物語であれば暁斗のような主人公キャラと呼ばれる人物は美少女になびかないというのが一般的なのだろうが、彼は普通に平崎 彩香に惚れている。
「お前ずっとそればっかり言ってるよな。そんなに気になるなら遊びに誘うやら何気ない雑談やらしてみたら良いじゃないか。」
「そんな事してもし平崎さんに嫌われでもしたらどうするんだ…。『なんか急に話しかけてきた。キモ…』って思われて避けたらそれこそまずいだろ。」
「お前に限ってそんなことある訳ないだろ。もしそんな事を思うのであれば会長がお前と分かってから副会長に立候補する訳ないし、何より普段からもっと避けてくるだろ。」
「…いや、あの何事にも熱心な平崎さんの事だから仕事だと割り切って我慢をしているのかもしれない…。」
と、こいつは顔も性格も良く、女子からキャーキャー言われているのに何故か自己肯定感が低く平崎の事に対してもなかなか踏み込めていない。
こちらとしてみれこの顔でなんでも出来て何故こんなになよなよしているのかも不思議で仕方が無いのだが、こいつの優しさはこの謙虚さから来ているのだろう。
「神崎くん、この間の会議で決まった件についてなんだけどあんまり分からない所があったから聞いてもいいかな?」
暁斗と雑談をしている時に突如優しく綺麗な声が耳に入ってきたので、その声の方向に目線を動かすと綺麗に伸びたロングの茶髪を揺らしながら平崎が机の横に立っていた。
「ひ…平崎さん!!…えっと、ん、ぅん!!…どこが分からないのかな。」
平崎の声を聞いた暁斗は机に突っ伏した状態からものすごい速度で飛び起き咳払いをした後に生徒会長モードに入った。
あまりに素早い動きで急に動いた為、平崎は少し驚いた様な表情をしていたが、流石の切り替えですぐさま2人は平崎の手にある資料を見ながら話を始めた。
しかし改めて2人が並んでいる所を見ると、圧倒的な顔面偏差値の高さによってここは自分とは違う世界なのかと錯覚をしてしまうほどだ。
そうして2人は5分にも満たないような時間の間、ずっと資料に目を落としながら真剣に話し合いをしていそうなので、俺は余っている時間にこの輝いている光景の真正面で小説を読み始めた。
「…よくこの眩しいのを目の前にして当然の様に本を読み始めれるよね。」
俺が手の中の本に目線を落としていると、横からまた新しい声で俺に対してそのような言葉が飛んできた。
俺がその声の方向に視線を向けると、少し小柄で白髪の少女が少し呆れたかのような表情をしながらこちらに向かって歩いてきた。
彼女の名前は「夜咲よさき 楓かえで」、他の女子や平崎と比べて比較的小柄な体型をしており、俗に言う「小動物系」とやらに分類される感じである。
体で比較すると、平崎より少し長いくらいの白髪を下ろしており、大人しくていつも若干気だるげでなんともミステリアスな雰囲気を醸し出している。
「別に直接見なければ特にどうってことも無いからな。というか普段から見ているからある程度の慣れでどうにかなるのさ。」
「それに慣れるまでに一体どれくらいのダメージを負ったのか。…まぁ確かにずっと食らってれば慣れるものか。」
俺の横にある椅子に座った夢咲はそのまま机にぐで〜っと溶けるように突っ伏してこっちの方向に顔が向くようにして目を瞑っている。
こうして見てみてもかなり顔も良くモテるような感じもするのだが、何しろいつも隣にいるのがあの平崎である為あまり男子からの注目を浴びていないというのが現状だ。
『キーンコーンカーンコーン』
「あ、チャイムだ、それじゃあ私達はそろそろ行くね。神崎くん質問聞いてくれてありがとう。」
休憩時間終了のチャイムが鳴るのと同時に、暁斗と話していた平崎は夜咲を引き連れながら自分たちの対角方向の席に戻って行った。
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