最終話 これからも水泳続けます!

「いやーすごかったねー! 舞ちゃん、19位だっけ?」

「たぶん? そうだと思います……」

「たぶんって……、も~自信持ちなよ!」


ビシバシと肩を叩いてくるのは水菜先輩。

記録会が終わった後はみんなテンションが高めだ。


「まいまーい! 私ね、35人中15位だった!」

「えっ、あかりんすごっ! というか、お疲れさまっ」

「それはまいまいもでしょー。海、行く?」

「うん!」


会場の近くにきれいな海があるって聞いていたからそこに行くことにした。


男子の二人はよくわかんないんだけど、決勝戦的なところまで行ったらしい。


あとで来るかなぁ……。


「朱里ちゃんの快進撃はすごかったよね。舞ちゃんも見てたっけ?」

「あ、はい! 確か3人抜きだったとか……?」

「あれさーあたし、自分でも自覚なくって。そんなに抜いてたっけ?」

「「抜いてたね」」


見事に私と水菜先輩の声が被ってまた笑いが溢れた。

と、そう言って笑っているところで誰かの声が後ろで響いた。


「……遅れました。すいません」


「「海崎君(海くん)⁉」」


「と、晴琉先輩、ですね」


忘れられていた晴琉先輩、少し悲しそう。


「ここで集まるって聞いていたから、急いできたんだ。決勝戦が意外と長くて」

「あの、結果は……?」


気になって聞いてみると、晴琉先輩がううん、と首を振る。


「ダメだった。勝ったのは……」


そう言って、隣に目線を移す晴琉先輩に、私も隣に目線を移した。



「「「ナギ君(海崎君)(海くん)!!??」」」


チューモクを浴びた本人は気まずそうに頭を下げる。

そして賞状を見せた。


そこに書かれているのは紛れもなく1位という数字。

晴琉先輩は2位とかかれている。


というか、二人とも同じところにエントリーしてたんだ……!

「渚に負けたのか……」とため息をつく晴琉先輩、かなり悔しそう。

「いやー二人ともさすがって感じ。晴琉はともかく、海くんもねー……」


すごすぎて笑いも出ない。恐るべし……波夜中……。



「っていう報告は以上ってことにしてさ、さっ、海行こ―っ!」

「はいっ!」


―――


「きれい……」


その絶景は少し走ったところにあった。

暗くなっていく空に反発するように、太陽が強く、強く煌めいていて。


「舞」


その声に、ハッと振り返る。


「ナギ君……。ねぇ、私さ。勝ったんだ。勝てたの」


何に、と言わなかった。でも、きっとナギ君は気づいたはずだ。

もうね、あの時の私はいないよ。

乗り越えたんだよ。


ねぇ、ナギ君はどんな風に思ってるの?

私と同じように嬉しいって思ってくれてる?


「舞、あのさ、前途中で中断しちゃったけど。あの時言いたかったこと、言うから」


そう言ったナギ君は静かに波を見つめて、それから少しだけ私の方を向いた。


「ありがとう。……舞。おかげで今、こうして笑っていられるし。まぁ、……よく頑張ったよ」


「っ……⁉」


ぐしゃぐしゃと私の髪を位いじってくるその手が。


――昔と、変わらない。


何も言えない、言葉が出ない。


この景色を見ていたかったのに、涙が邪魔して見れないよ。

ナギ君にありがとうって、ごめんねって言いたいのに、しゃくりあげるせいでしゃべれない。


「ナ、ギ君っ、ありがと、う」


「別にオレは何もしてねーし。……そろそろ向こう戻るか?」


私は静かにうなずく。


どこまでも続いている地平線。

暗闇の中で輝く太陽。


「舞ちゃーん、海くーん! 写真撮るよっ!」


その水菜先輩の声に私達も走り出す。


「じゃーいっくよー! 3,2,1っ!」


となりにいるあかりんが。

うしろに立つナギ君が。

カメラを持つ水菜先輩が。

その隣にいる晴琉先輩が。


最高の笑顔で笑った。


笑いが絶えない水泳部は。




――これからもずっと続いていく。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こちら、水泳部ですが何か? ほしレモン @hoshi_lemon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ