第22話 いざ、記録会へ!
当日の12時ごろ。
午前の部が終わり、お昼休憩に入っている今、もうすぐ午後の部に入ろうとしている。
「はー緊張したー! やっぱり何回やっても慣れないねえ……」
「お疲れ様です、水菜先輩。あっ、差し入れ食べますか?」
「あたし持ってきます!」
ばたりと控室で横になっている水菜先輩。
先輩はもう、自分の記録を取り終わっているから運動着に着替えている。
そんな水菜先輩に、あかりんが大きいクーラーボックスを持ってくる。
この中には、もちろん昨日作った、ゼリーやはちみつレモンたちが!
「ありがとー二人とも。いやぁ、3位かぁ……」
「3位でも十分です! というか、20人中の3位はすごすぎますよ……!!」
記録会なんだけど、一応総合記録は出るんだよね。
1位がよかったという水菜先輩、きっと次は本当にそうしてくるんだろうなぁ……。
私が出るのは平泳ぎ100メートル。
平泳ぎ100メートルに出る人は確か全員で、40人。40人中、何位になれるかな。
というか、1組5人だから、まずはそこで上に行かないと総合でも順位は下だ。
「はちみつレモンもおいしそう! 本当は今すぐ食べたいけど……あの二人がそろってからね」
今、男子軍2人は競技真っ最中。
応援も行きたいけど、私たちはこれから競技なんだよなぁ……。
「はい、そうしましょう。私たちもまだありますしね……うーなんか急に緊張してきた!」
「ねー! ヤバい、まいまいがそう言うからあたしまで緊張してきちゃったじゃーん!」
「大丈夫、今まで通り、だよ!」
あーうー、と変な声を出すあかりんに、水菜先輩がすかさずフォロー。
今まで通りかぁ。
絶対無理なヤツじゃん……。
私、水森舞、本番で必ずと言っていいほど失敗を繰り返してきたからなぁ……かなり心配だ。
不安しかないけど、今までの練習を出し切れば……!
『女子平泳ぎ50メートル、自由形100メートル、その種目に該当する生徒は直ちに西側の競泳スペースにお集まりください。繰り返します――』
「よし、行ってらっしゃい、舞ちゃん! 朱里ちゃん!」
水菜先輩に背中を押されて、私も上に羽織っていたジャージを脱ぐ。
そのかわりにラッシュガードを羽織って……控室を出た。
「じゃあね、頑張って、あかりん!」
「そっちこそね! 1位取って賞状もらってきてね?」
「う、うん!」
あかりんと別れて、私も召集がかかった場所に向かう。
もう1組目が始まってる。
私は8組中4組目。真ん中だ。
さっきからずっと心臓が騒がしい。
アップのときに泳いだ時は違和感がなかったから、きっと今も大丈夫なはず。
ドクン、ドクン、ドクン。
そろそろ出番だ。大丈夫かな。
最下位だったらどうしよう。
「舞! 全部やりきってこいよ!」
「え……?」
ナギ君?
ハッと観客席の方を振り返れば、そこには自分の記録を取り終えたナギ君がいた。
昨日、スクールから帰る時に。
――『見ててやるよ、記録会』
って言ってくれた。
あの時は冗談だと思っていたけど。
なんでかな。急に目頭が熱くなる。
胸がきゅうっと痛くなって、ドキドキ心臓が高鳴る。
ねえ、なんでだろう。
すっごく嬉しくて、嬉しくて、視界が潤むんだ。
『では、次は4組目です。準備をしてください』
アナウンスが聞こえて、私はグイッと目をこする。
周りの子と同じように立ち上がり、プールのふちに足をかけた。
飛び込み型のスタート。
今まで学校ではあんまり練習できなかったけどね。
私、これ、得意だったんだ!
ピイイッ!
スタートのホイッスルが鳴って、私はそれと同時に床をけった。
ばっしゃん!
大きな水しぶきを上げて、水の中に入る。
大きく、腕は大きく動かす。
足の裏でしっかり水をつかんで、それを押し出して。
顔を出す、水をける。顔を出す、水をける。
水の中でも聞こえるほどの歓声が、観客席の方から聞こえてくる。
成長したんだよ、私。
頑張ったんだよ、私。
ぶつかった。何度も、何度も。
辛かったよ、苦しかったよ。
自分を見失う時もあった。
だけどね。
でもそのたびに手を差し伸べてくれた仲間たちを、信じてるから――!
カランカラン、とあと25メートルの合図である鐘が鳴った。
1回目、2回目、3回目?
まだ私は25メートル泳ぎ切っていないから、鐘が鳴らない。
もうすでに3回鐘が鳴っているから、私は最高でも4位?
見えた!
壁を、手でタッチしてすぐさまターンする。
それと同時に、カランカランと鐘が鳴った。と、間髪入れずにまた鐘が鳴る。
私と5位の人の差はかなりの僅差だ。
でも焦らない。大丈夫。
――私、昨日みんなと約束したんだ。
総合順位で上位50%に入ったら、絶対海に行こうって。
誘われたんじゃない。私から誘ったんだ。
もうあの時点で、昨日の時点で――私は、もう昔の私じゃない!
乗り越えたんだ。乗り越えたんだよ。
だから、次はその先に――!
手をのばす。
トン、と壁に手が当たる感覚がして、水の中から顔を上げる。
ゴーグルを外して、周りを見るとちょうど隣の人がゴールしたところだった。
4位。
私は水の中から出て、観客席を見渡す。
――もう何も、妨げるものはなかった。
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