第36話 内通者

「む、どういうことだ、殿」


「陛下! そのような者に耳を貸す必要など……」


「静まれ」


 たしかにこのウォルター殿は最近、この国の中枢に加わった者ではあるが、その頭脳は他の追随を許さぬほどに優れている。特に、他者の内面を見る力に、だ。彼のお陰で最近は武力派の貴族を政治派に鞍替えさせたりと、色々助かっているのだ。


「ウォルター殿、詳しく聞かせて欲しい」


「簡単な話です。どちらの肩を持てば自分の支持が上がるかお考えなのでしょう? 保守的な思考をお持ちならば答えは一択です。戦争を続けましょう」


「待て待て。なぜ保守的思考であれば戦争を続けることになる? 戦争を続けることも、和平を結ぶ事も、どちらにも長所と短所があると考えるが」


「たしかにどちらも一長一短ですね。しかし……」


 そう言いながら人差し指を顎にあてながら思考する仕草を見せたウォルターだが、こやつ、何を考えている? 「ぅーん、思ったよりゼルドナが、ハロルドさんが強いなぁ」……は? 何を言っているのだ? ゼルドナ? 傭兵国家の事だろうか。なぜ今?


「いいや。えっと、理由ですよね。和平を結べば協商組と同盟組の立場は今までと同じ、イーブンな関係のままですね。でも、この戦争に勝てば立場は大きく変わる。協商の三国が同盟三国の上に立ち、支配する未来がやってくるのですっ! そして……」


「少し待たれよ」


「……チッ。なんですか」


「貴殿の言っていることは矛盾しているのではなかろうか? 陛下が保守的思考の持ち主であるならば、立場の変わらぬ和平を選ぶべきだと、私は愚考するな。それがどうだろう? 貴殿は、保守的であるなら勝つかすら分からぬ戦争をした方がいいともうすでは無いか。何故だ?」


 ふむ。終戦派の若造、なかなか良いタイミング指すな。


「簡単なことですよ。この戦争に勝ち以外の選択肢がないから、です。そもそもここで和平を結んだところで、魔王軍に消されて終わりですよ。そうなる前に、同盟軍を下に着けて魔王軍と戦う準備をする必要があると言っているではありませ――」


「それこそ愚かな考えではないか。ウォルター殿。何故だ? ここで和平を結び両軍共に戦力を温存させた方がよかろう? なぜ戦力を消耗させる方に話を運びたがるのだ」


「……」


「どうした! ぐうの音も出ないのか!?」


「話しは以上ですかぁ?」


 なっ。こやつ、話を聞く気すらないぞ! 脚を机の上で組み、耳くそを息で吹き飛ばす等行儀が悪すぎる……!!


「きっ、貴様ぁ」


「てか、人の話しは最後まで聞けよ、いいか? 船頭多くして船山に登る、だ。和平を結んで兵力を温存しても指揮する者が多すぎると方向性が合わん。だから同盟を下に着けて、我々が指揮すれば良いと言っているのに。なんで分かんねぇんだよ。脳みそ鶏か? 帰りてぇよ」


「決したな。我々ギルガキアは戦争を続ける。異論はあるか?」


 ◇

 side:ハロルド


「おいおい、マジかよ! アッハハハ! おもろすぎる」


「……」


 暴れてんなぁ、ウォルターくん。てか、サクラ中将笑いすぎでは?


「な、何があったのですか?」


「あぁ、イラヌスティムくん。実はね、人間側に潜ませた内通者がさぁ、大暴れしてんの、おもろくね?」


「は、はぁ。内通者は普通、大人しくしているものでは?」


「だろ? なのに、大暴れしてっからおもろいんじゃん!」


「よ、よく分からない……」


 ふん、人間なんぞにサクラ様のお考えがわかるわけがなかろう。っとそれよりも……。


「レテンテを通行する許可が降りたんで、行きますよ」


「おう。いよいよ、女神アイツへの復讐の第一幕だな」

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不死者転生、魔王の右腕 ルーシー @Ryutoooooooo

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