第35話 協商の動向

 ◇

 side:ハイアット


「実は我々もその結論に至って居たのだ、レテンテの使者よ。出来れば三国の首脳で話がしたい。そちらの皇帝にも伝えてくれぬか?」


「かしこまりました!」


 ―――――


「やはり、レテンテも同じ結論に至っておりましたか」


 使者が謁見の間を出ていくと、第二宰相であるロッドが口を開いた。


「で、あるな。しかし問題はギルガキアだな。彼の国にも使者を送ろう。早急な会議が必要だ」


「かしこまりました。私にお任せ下さい」


「頼んだぞ、ロッド」


 第一宰相リシュリューが殺されてしまった今、一番に頼れるのは第二宰相、か。対魔王特別議会のメンバーもロッドに任せてしまっているし、頭のキレる貴族共は何を考えているのかわからんから、信用出来る優秀な人材が足りないでは無いか。


「ギルガキアは水星マーキュリーを招聘済み。我々はマルスだけでなくテルースまでも失った。この国にはもう勇者の資格を持つ者もいない。真の勇者もやられてしまった。にもかかわらず相手側は勇者の投入を続ける。その上このような大戦にまで発展させられてしまった。よもやここまでなのだろうか……」


 そう思った時……いや、思ってしまった時無礼にも扉を勢いよく開けた輩が入ってきた。


「陛下!」


「何事だ、余は疲れているのだ」


「そ、それが!」


「早う申せ。時間の無――」


「――アワキムがアガヌボンの手に落ちました!」


 そうか、アガヌボンがアワキムに勝利したか。ユーサエィが遂に……は?


「ア、アガヌボンがユーサエィを討ち取ったと? お前はそう言っているのか?」


「左様でございます! ゼルドナがアガヌボンに加勢しアワキムを打ち倒しました! 現在、我々協商に加勢するため、レテンテにて通行の許可を要求しております!」


 あのゼルドナを味方につけるとは。あの和讒者、やれば出来るでは無いか。


「ククク。よろしい、魔王との戦いはこの戦争を終わらせてからだ」


 ◇


「このまま魔王が攻めてきたらそれこそ四面楚歌ですぞ、ハイアット王」


「だからそうなる前にこの戦を終わらせると言っておろう? レテンテ帝よ」


「戦じゃ戦ぁ~」


「「少し黙ってくれ、ギルガキア皇」」


 使者を通じてこの二国とアポを取り、貴重な転移の魔石でギルガキアまでやってきたものの、この惨状とは……。

 水星が戦場に出たことで戦況は激変し、現在では戦場には押せ押せムードがやってきているらしい。この波に乗らない手はないというのに……。


「まぁ、貴公がその考えを曲げぬと言うならそれでも構わない。どちらにしよ、四面楚歌になるのはハイアットだけなのでな。もしそうなったら我々レテンテは戦力などの提供はしかねるぞ」


「なっ。アワキムサイドが怖いからと戦力の提供を要求してきたクセに逆の立場になると、非協力的なのだな、レテンテは」


「人は誰しも自分が可愛い。保守的になるのも道理であろう?」


「そうであるか。まぁい。余は戦を続けるぞ。敵国と和解したいのであれば勝手にしておけ」


 そう言い、余は会議室を後にし、自国に戻った。


 ◇

 side:ギルガキア


「ふぅ、アホを演じるのも疲れるというものであるな」


「実際陛下の頭は弱いではありませんか」


「うるさいのぅ。それが分かっておるから頭脳戦には消極的なのじゃ」


「まぁ、それが最善手とも言えますが、あれは……クスッ」


「し、仕方ないであろう!? ハイアット王もレテンテ帝も頭が良い! まともに張り合えるわけがない!」


「そうですか。それで? どちらに付くんですか? 終戦派、 続行派のふたつがありますが。まぁ、陛下が終戦を選べばハイアットも終戦側に移行するでしょうね。水星マーキュリー様のお陰で戦線が復活したと言っても過言ではないですし」


「それに関しては余も思考中だ。国の今後を占うことでもあるし、出来れば皆で話し合って決めたい」


「ふふっ、それでこそ我らが王です」




 ――――


「今こそ好機ですぞ!? どうすればここで引くという選択肢が浮かびましょう!」


「この件は十中八九魔族が絡んでいる! ここは人族で協力して共通の敵まぞくを倒しましょうぞ!」


 ふむ、やはり別れてしまったか。どちらの言い分もよくわかるのだが…… 。


「ここで同盟諸国と協力したとて、彼らを信じられますか? 答えは否! 奴らを打ち破り、取り込み、戦力として使うのが最善手!」


「奴らとの戦いで戦力を消耗しては元も子もなかろう? これだから感情で動く若者たちは……」


「耄碌してんのか、クソジジイども!」


「何!? 皇太子夫妻が暗殺された今、もし同盟諸国に負ければこの国は終わるのだぞ!?」


 むっ。こうなったら収拾がつかないな。

 続行を支持する若者貴族、終戦を支持するベテラン貴族。そこに名門貴族も新興貴族も関係なく、皆が意見を出し合っているのはいいことではあるが、このままでは……。

 どちらに味方すれば余の支持が上がるか……。


「その思考が、既に陛下の答えではありませんか」


「む、どういうことだ、殿」

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