第34話 カンカゲンの戦い


「サクラ殿、戦況はどうです?」


「んー、アワキム有利ってところか。アガヌボンのイラヌスティムの軍も善戦しているが、アガヌボンのやつら裏切り始めた。まるで関ヶ原の戦いだな。見たことないけど」


 関ヶ原……聞いた事は無いが、なにかの文献にあるのだろうか。アワキムとアガヌボンの戦場となっているのは丘や山に囲まれた盆地、カンカゲン。その山のうちのひとつから視察しているが、アガヌボンに所属している傭兵同士で戦いが始まってしまっている。


「こりゃすぐ決着がついちまう。しれっとアガヌボンに加勢してアワキムを蹴散らすぞ」


 サクラ中将の提案にのり、オレ達はバトルホースを引き連れてアガヌボンの本陣に向かっていった。



「な、何奴!」


「我々は傭兵国家ゼルドナの者だ。この戦にて貴殿らアガヌボンに加勢するためにやってきた」


「ほ、本当か!?」


「嘘は言わん。なぁ、中佐殿?」


 口を開けば嘘八百。まぁ、ものは言いようってところだろうか。本当にサクラ中将はよく分からん。それにイラヌスティムを見た時に「乱髪天衝脇立兜だ……」と呟いていたし、よくわからん。


「えぇ。もとより我々の目的はこの先、列強諸国の戦争に介入すること。そこでお願いがある」


「……聞きましょう」


「安心してくれ、協商の味方をする。このままフェンリアを叩くぞ」


「……恩に着る」


 元々アワキムの目的は同盟側の援護、アガヌボンは協商側の援護だ。

 オレ達はアガヌボンに付くから、間接的に協商の味方となる。


 中将、最初は同盟側に付いてアガヌボン叩こうとしてたのに、「戦況が芳しくなくてさぁ。協商側の戦力削ぎすぎて押され気味なんだよ。同盟側は勇者も出してきてるし。弱い方に加担して戦いを長引かせればいいだけだしさ」などと言っていた。本当は同盟側につこうとしてたのに、この戦場見たら、「こんなん、西軍に付くしかないっしょ」とか言って急遽予定変更したんだよな……。結局のところ、どっちに付いてどっちに転んでも中将的にはどうでもいいっぽいな。


「し、しかし見たところ貴殿らの軍……隊は五百前後と見受けるが……、平気なのだろうか」


「安心してください。これより後から大軍の応援が来ます。……まぁ、そんなの待たずとも殲滅して見せますが」


「よく言ったぞ中佐!」

「ハロルドやるじゃねぇか!」

「大手柄取ってやるぜぇ!」


 オレの一言で何故か士気が上昇したのは良い誤算だ。まぁ、こいつらの立てる手柄なんてないだろうが。だって一人鼻息を荒くしてる人いるし。

 そう思いつつ、鼻息を荒くしながら珍しく填めたダントレットで拳を合わせているの上官を見る。


「お、鼻息荒くするなんて、リリアーヌやる気満々じゃん」


「なんと言ってもレベリングのチャンスですから」


「そうか。それもそろそろ900台にのりそうだし、張り切るか。人間の経験値は美味いからな」


 この場で最高戦力とも言えるであろう二人がやる気なのは嬉しいですね。それに比べてオレの同僚たちは……。


「どうしますか? ジュリアさん」


「あの二人がなんですよぉ? 私らの出る幕なんてないわぁ」


「そうですよね、僕、元人間だからこういうのはちょっと」


「あらぁ? アルフレッドぉ、手柄、立てたくなぁい? 中将の役に立ちたくなぁい?」


「……。ハロルド、人間の兵を十人程度貸してくれ。やる事が出来た」


 あーあ。ジュリアやっちまったな。アルフレッドのやつ、普段は温厚な癖に沸点があまり高くないしキレるとめんどくさいんですよねぇ。


「ホフマン大尉、手柄を欲しがっている者を数名選んで彼の下について下さい。全体はオレが指揮します」


「あ、あぁ。と言っても五百人規模の大隊に加えて、ガルダワルド全隊だぞ? 一人で指揮できるのか?」


「五百人程度でしたら動かしたことあるので平気です。それにメノンさんもいるのでガルダワルドはメノンさんに任せますし。それに彼らが暴れたらオレ達の出る幕なんてないですしね」


 魔王軍に在籍する数十の種族の混合部隊を指揮した時に比べればさすがに楽だろう。中将の紹介でアトラナート様から受けた教えがここで役に立つとは。「あのアラクネ達やべぇよ」と言っていたサクラ中将の気持ちが理解出来た気がした。


「そ、そうか。よし、おめぇら俺に続け」


「「応!」」


 ホフマン達のために少しゆっくり目に行軍し始めたサクラ中将達の後ろを追うホフマン達を見送ったあと、オレたちは戦いに参戦すること無く、只々サクラ中将達による蹂躙を眺めるだけだった。


「それにしても蹂躙って感じですな……。流石魔族って感じで」


「サクラ殿曰く、人間は下等生物だからこんなん容易い、と。大隊を率いている身としては精進したい限りです」


「ですがその魔族に救われたんです。文句は言えませんな」


 そう言うイラヌスティムの視線の先には、天に届かんとする程の死体ひとの山の上に座るサクラ中将だった。


「貴殿の同盟相手は圧巻の一言であるな。自己の利益の為ならば相手が魔族であろうと使ってしまう貴殿に心打たれた。是非とも貴殿の一団に入れて頂きたい」


「もとよりそのつもりです。このまま進軍しましょう」

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