第33話 出陣


「中佐殿、本当に良かったのですか?」


「魔族の件か?」


「はい。魔族に関しては私も団長殿も怪しいと思っております」


「確かにホフマン大尉やメノンさんの言う通り怪しいが、それ以上に魔族が味方するとなればそれは何にも変え難い価値になる。異論があるなら言ってくれてもいい」


「いえ、そんなことを魔族の前では言い難いですね……」


 そもそも魔族と協力するのはこの国ではなくオレの部隊だ。上には内緒なので、このことがバレたら多分オレは解雇される。それに魔族の戦力はオレの部隊で独占した方がいいしな。


「サクラ中将ちゅうじょ……サクラ殿、今回の件は魔族の総意ですか?」


「いや、俺の独断。と言っても魔王には許可もらってるし、ギガスの野郎がやらかしてリリアーヌがめんどくさくて……」


 リリアーヌ様ならまぁ、と言ったところか。サクラ中将への忠誠心で有名だが、少々目に余るところがある。ギガス中将様多分大したやらかしはしてなさそうだな……。


「それとな、ウォルターわかるか? リリアーヌの弟の。あいつ結構使えるんだよね。俺とタッグ組んでた時の任務を俺無しでこなしてるしさぁ」


 はて。現在進行中で勃発している戦争の火種を作った時のことだろうか。確かにサクラ中将とウォルターくんはタッグを組んでたな。二人の目的は確か、「王族を使ってより戦争を激化する」だったか。リリアーヌ様自体要領の良い方だし、その弟であるウォルターくんも優秀と言われても不思議はない。


「そ、そうなんですか。そのリリアーヌと言うのは?」


「あ、あぁ~。リリアーヌってのは俺の副官なんだが、そうだな、危険度はB~Aって所かな。種族は吸血鬼だ」


「ここは魔王領では無いんですよ!」と目で訴えると「すまんすまん。この情報お前の手柄にして良いから」と、目配せが返ってきた。


「ホフマン大尉、今のメモしてください。全世界会議サミットに提出すれば金が貰えます」


「わ、わかりました」


 同席していたホフマン大尉にメモをさせると全世界会議に送るように命令する。すると当然この部屋にはサクラ中将と2人になるわけで……。


「いや、ごめんね。すっかり忘れてたよ」


「いいですけど、今この会話も誰かに聞かれているかも知れませんよ? 現に壁の向こうから気配しますし……」


「結界張ってるから平気っしょ。じゃあとりあえず俺は退散するわ。あと数時間で出陣でしょ。俺も手勢連れて行くから」


「わ、分かりました」


 ◇


 そう言ってサクラ中将が連れてきたのはオレの同僚と言ってもいいジュリアとアルフレッド、それと上官のリリアーヌ様。

 少数精鋭にも程がある……。しかし、まぁ理にかなってはいる。上にはバレてはいけないので、少数の方が助かるのだ。それに……。


「安心しろ、俺たちが勝たせてやるよ、この戦争。あぁ、ちなみにチクったやつは殺すから、気をつけてね。あぁ、でもちゃんと戦死扱いしてあげるらそこも安心して欲しいね」


 サクラ中将のこの言葉で上にチクろうという輩は減っただろう。まぁ、流石と言ったところか。


「ではこれより進軍を開始する。本隊は先攻隊として、道を切り開くことが任務だ。つまり、この戦争の一番槍だ。この国にいるからには出世欲の無いものはいないと思う。ここで大手柄立てれば出世出来るぞ! 行くぞぉ!」


「うぉーー!」

「行くぜぇ!!」

「やったるぞ!」


 サクラ中将ほどでは無いが、中々いい士気の上昇具合だ。


「そんじゃあ俺たちは先にアガヌボンとアワキムの戦の視察に行ってくるから、ゆっくり来てくれていい。行くぞ」


「「御意」」


 そう言ってサクラ中将たち一行は飛んで行った。それにしてもジュリアとアルフレッドは分かるがリリアーヌ様、あなた「御意」なんて言うような人じゃないでしょうよ。なんて呑気なこと考えていると、「少数精鋭って感じだな……」「あんな威圧感あるやつら敵に回したくないな……」等の言葉があちこちから聞こえてくる。


「諸君! 魔族が居て不安かと思うが、彼らを信用したオレを信用してくれ! 頼む」


 オレがそう言うと、一瞬の静寂の後、「うぉぉぉぉー!」と言う雄叫びが聞こえてきた。横にいたメノンさんからは「やるじゃないか」と肩をビシバシ叩かれた。ちょっと痛い。


 士気を高めたところで、人数分揃えたに乗って行軍を開始する。バトルホースとは、馬の魔物だ。普通の馬よりも速く丈夫で戦闘にも役立つ。わざわざ魔王領から群れごと捕まえてきたのだ。

 一応この群れ自体オレの傘下になったのでオレに反抗することは無い、多分。この魔物を使う利点は他にもある。我々には魔法兵が一割強しかおらず、魔法兵を失えばそれ即ち負けを意味する。その魔法兵の機動力等を底上げするにもちょうどいい装備なのだ、バトルホースは。


「うぉ、なんだこれ! 装備着たまま乗ると練習の時と違う……」

「ふ、振り落とされるぅ」

「ひっ、スピード緩めませんか!」

 ……まぁ乗りこなせればの話ではあるが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る