闘え!饂飩男(ウドンマン)!

ケロ王

第1話 戦え!ウドンマン!

時は20XX年、世紀末の波は日本列島を覆い尽くしていた。

突如現れた黒カビ団によって、人々はカビの生えたうどんを食べる生活を余儀なくされていた。


宇曇萬うどんまんも彼らの暴虐に耐え忍んで生きている人間の一人であった。


「ヒャッハー! お前らのうどん、全部カビさせてやるぜぇ!」


黒カビ団構成員のモヒカン男が、黒カビを周囲にばらまく。


「うわーん、僕のうどんがカビちゃったよぉ」

「くそ、またうどんがカビだらけに……」


人々の悲痛な声を聞きながら、萬は蹲りながら、こっそりとうどんを食べていた。

しかし、めんつゆの臭いが彼らにバレないはずがなかった。


「おいおい、こいつ普通にうどんを喰ってやがるぜ!」

「なんだと? 死刑じゃ! キャハハハハ!」


カビの生えていないうどんを食べた罪でモヒカン男たちの暴行を受ける萬。

耐え忍ぼうと体を庇っていたが、多勢に無勢であった。

徐々に意識が遠のいていき、ついに彼の意識は暗闇へと落ちていった。



萬の意識が戻り、あたりを見回すと手術室のような場所だった。


「目が覚めたかの」


「お前は……?!」


萬は老人に向かって身構えた。


「ワシの名は丸亀博士まるかめひろしだ。死にかけていたお主を拾って、新しい肉体に転生させてあげたのだぞ。ちっとは感謝せんかい!」


「俺を……ありがとうございます」


慌てて頭を下げようとしたが老人に止められた。

目が覚めてすぐだったため、何やら頭が揺れる感じがした。

自分の状況がわからず不安になっていると、丸亀が姿見を持ってきてくれた。


「な、なんだこれは?!」


萬は鏡に映った自分の姿に動揺した。

それもそのはず、彼の姿は首から下こそ寸胴ながらも手足があったが、頭がドンブリになっていたからである。


恐る恐る、頭のどんぶりの中を見ると、中にはうどんとめんつゆ、そして油揚げが2枚入っていた。


「きつねうどん……?!」


「何を言うか! たぬきうどんじゃ!」


どうやら、丸亀は関西系だったらしい。

しかし、今の萬にとって、そんなことはどうでも良かった。


「なんですか、この体は!」


萬は丸亀に詰め寄る。

しかし、彼は涼しい顔をしたままであった。


「お主は、これから正義の味方、ウドンマンとして、黒カビ団と戦う宿命を背負うのだ!」


「勝手に決めんな!」


「まあまあ、良いではないか。お主も黒カビ団に殺されたのだろう? 恨みを晴らしたいと思わないか?」


「思う! ……わかった。俺は黒カビ団を倒すために戦うことにするよ!」


彼の決意に丸亀は顔を綻ばせた。


「うむうむ、その意気じゃ。ワシも後方から支援するから、安心して戦うのじゃ!」


この日、俺は宇曇萬という一人の男から、正義の味方、ウドンマンへと転生したのだった。



それから数日後、相変わらず、黒カビ団はうどんにカビをばらまくという暴挙に出ていた。


「きゃー、やめて。うどんがカビまみれになってしまう……」


一人の女性が黒カビ団に襲われていた。

その時、突如として彼女を守るように一人の男が立ちふさがった。


「ああん? テメェは誰だ?!」


「俺の名は、正義の味方、ウドンマンだ!」


彼の名乗りにモヒカン男たちは一瞬怯んだ。

ほんの一瞬だけだったが……。


「ええい、俺たちの邪魔をするなら死刑だ! やっちまえ!」


一斉に襲い掛かるモヒカン男たち。

しかし、ウドンマンは静かに麺を両手に持つと振り回した。


「ウドンクラッシュ!」


「ぎゃ!」

「うわぁ!」


先頭の数人が鞭のように振り回されるうどんによって吹き飛ばされる。


「くそ、怯むな! 囲め!」


モヒカン男たちが彼を囲むように展開する。


「メンツユシャワー!」


しかし、ウドンマンの頭から吹き上がったアツアツのメンツユが降り注ぐと、それを浴びたモヒカン男たちが苦しみ悶える。


「あちぃよぉ!」

「うわぁ、やめろぉ!」


あっという間に号令をかけていたリーダーと思しき男を残して全滅する。


「あとは貴様だけか……」


「ふん、こいつらを一緒にされちゃ困るぜ。なんてったって、俺は猫舌じゃねぇからよぉ!」


そう言って、ウドンマンに襲い掛かるモヒカンリーダーだが、彼は両手に持った小瓶をリーダーに向ける。


「七味サイクロン!」


小瓶から吹き出た七味唐辛子が嵐となってリーダーに襲い掛かる。


「辛ぇぇ! 目がぁ! 目がぁぁぁ!」


七味唐辛子を全身に受けたリーダーは地面をのたうち回る。


「お嬢さん、こちらをどうぞ」


女性に向き直ると、彼は一杯のかけうどんを差し出した。

それはカビ一つ生えていないきれいなうどんであった。


「あ、ありがとうございます!」


感涙にむせびながら、うどんをすする女性を見守る。


「うどんの平和は守られた!」


「ふん、雑魚をいくら倒しても変わらぬわ! 吾輩が貴様をカビだらけにしてやるわ!」


「何者だ?!」


「我が名は黒カビ男爵。黒カビ団、四天王の一人よ! ウドンマンよ! おとなしくカビてしまえ!」


男爵はウドンマンに黒い塊を投げつける。

それは彼の目の前で爆発すると、周囲に黒カビ(Lv2)をばらまいた。


「ふはは、この黒カビは、これまでの物とは違う! いかに貴様とて太刀打ちできまいて!」


「バカな! 俺のうどんがカビまみれに……。ぐっ」


彼のうどんがカビまみれになったことで、力を出せなくなり、地面にうずくまる。

そんな彼を勝ち誇ったように男爵が見下ろしていた。


「くははは、貴様は所詮その程度! 今度こそ、死ねぇぇぇい!」


彼の頭上に男爵の巨大な腕が振り下ろされようとしたとき、彼の近くを飛んでいたドローンから声が聞こえた。


「ウドンマン! 替え玉だ!」


ドローンから射出された替え玉は、カビまみれになったうどんと入れ替わるようにドンブリの中に収まった。

それによって力を取り戻したウドンマンは男爵の腕を受け止める。


「なにぃぃぃ! バカな!」


「ふっ、正義の前に悪は滅びるのみ、だ!」


男爵を弾き飛ばし、態勢を立て直す。


「ふん、だが何度やっても同じことだ! くらえ!」


そう言って、再び黒い塊を投げつけた。

彼の目の前で爆発した塊は、先ほどと同じように黒カビを撒き散らす。


「ふん、効かぬわ!」


「バカな! カビていないだと?!」


カビ爆弾が効かなかったことに焦る男爵だったが、さらに煽るようにドローンから声が聞こえてきた。


「ふぉふぉふぉ、追加した替え玉の塩分濃度は25%。お前程度のカビでは手も足も出まい!」


「ぐぬぬ、くそぉ! ならば、叩き潰すのみ!」


再び、その剛腕で叩き潰そうとする男爵だったが、力を取り戻したウドンマンの敵ではなかった。


「くらえ! テトラサイクロン!」


ウドンマンのドンブリから飛び出たうどんが男爵を締め上げ、無数の揚げ玉が身体を打ち抜き、めんつゆが男爵の身体を焼いた。


「ぐあああ、馬鹿な! 黒カビよ永遠なれ! うぉぉぉぉ!」


断末魔の叫びを上げて男爵は力尽きた。


「やった!」


勝利を確信したウドンマン。


「ふん、思い上がるなよ。ウドンマンよ!」


「何奴!」


「我が名は黒カビ団総帥、黒カビ公爵であるぞ! そして、こいつらは黒カビ四天王、黒カビ侯爵、黒カビ伯爵、黒カビ子爵だ!」


そして、黒カビ子爵が一歩前に出る。


「黒カビ男爵。ヤツは四天王最弱……。我らの面汚しよ。そんなヤツに勝ったくらいでいい気になるなよ!」


「貴様程度、我らの敵ではない! だが、今はせいぜい勝利の美酒に酔うがいいわ! ふはははは! では、再び相まみえようぞ!」


そう言って黒カビ公爵と四天王は消えていった。


突然現れた強大すぎる敵に、ウドンマンは絶望していた。


「安心しろウドンマンよ! ワシらにも対抗策はまだまだある! 正義が悪に負けることなどあってはならんのだ!」


丸亀の言葉に勇気づけられたウドンマンは静かに立ち上がる。


そして、再び女性に向き直ると、一杯のかけうどんを差し出した。


「お嬢さん、もう一杯いかがですか?」


「あ、ありがとうございます!」


そう言って、女性はうどんをすする。


しかし、すぐに女性はうどんを吐き出してしまった。


「ぺっぺっぺ。このうどん、しょっぱすぎるんですけど!」


黒カビに対抗するために塩分を上げすぎた弊害だった。


「すみません、作り直すので勘弁してください!」


そう言って頭を下げる。

その勢いでドンブリの中のめんつゆは全てこぼれ落ちてしまった。


「あっ!」



戦えウドンマン! 日本の平和は彼の両肩に掛かっている!

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