第1話 初音の誕生日パーティー

 「初音様、目を開けてください。」

初音が閉じていた目をふわりと開けると、そこには自分じゃない自分がいた。

 「美緒、ほんとに私? 私じゃないみたいよ。」

初音はメイクの力に驚いていた。


 妖界では十三歳から大人の仲間入りをする。今日、九月十日。初音の十三歳の誕生日。誕生と後継者を祝う盛大なパーティーが行われる。

 月夜家には、後継者が初音の他に居ないので、必然的に初音が後継者となる。 


 「ささ、次は振袖に着替えますよ。」

美緒の指示に従って、メイドがどんどん振袖を着せていく。初音の瞳の色に合わせて振袖も空色だ。

「出来ましたよ。」

透明感のある白い肌に空色が映えて、上品で可憐な雰囲気を纏っている。

 

 憧れの母に近づけた気がして、嬉しかった。母は、綺麗で礼儀正しく、みんなを笑顔にできる心を持っている。


 母はいつも忙しくて、母との思い出はほとんど無い。

 

 でも、小さな頃は父と母と三人で笑っていた記憶が、朧げにある。幸せな記憶は思い出そうとしても、思い出せない。


 父はいない。父のことを聞いても、誰一人として答えてくれた人なんていなかった。みんな首を振るだけ。口を固く閉ざす。


 初音の周りにずっといてくれているのは、美緒をはじめとするメイド達、執事達だけ。それだけ信頼している。

 特に幼馴染の執事、碧とは何でも話せる間柄である。

「初音様、お誕生日おめでとうございます。」

今日も一番に祝いの言葉を述べてくれた。

 だが、幼かった頃の碧はもういないと思うと、寂しい。今は、主人と執事という立場でしか関わる事しかできない。

 

 「初音様、パーティー会場に移動しましょう。今日の主役はあなた様なのですから。とても美しいですよ。」

美緒をはじめとするメイドや執事も、

「華麗です。」

「華やかです。」

などと声をかけてくれる。初音には、温かいその優しさが嬉しかった。


 緊張がほぐれた初音は、会場へ入場した。

御三家や、親戚、たくさんの妖達が初音にお祝いの言葉を、口にしていく。

 

 すぐに、天音が姿を見せた。

「誕生日おめでとう、初音。」

皆が揃ったのを確認して、目配せをすると、彼女はメイドから宝石箱を受け取った。

 そして、天音に手渡した。

 ほろり。初音の瞳から涙が溢れ出た。その涙は、何よりも輝いていた。

「お母様、ありがとう。」

 宝石箱から出てきたのは、ネックレスだった。サファイアの周りを、銀が月のように眩く輝いている。デザインは代々受け継がれていて、由緒のあるデザインだ。

 とうとう自分も大人の仲間入りをしたのだと思うと、誇らしい気分になった。

 皆、表情は歓喜に溢れている。

 

 しかし、幸せな瞬間は一瞬だった。

 邪悪な気配が押し寄せた。

 姿を現した、玉藻前が。その姿は妖の血の色に染まっていた。

「久しいのう、天音」

その顔は邪悪で彩られている。

 

 会場は緊迫感に包まれた。


 すぐに天音を筆頭に対応を始めた。

「力のある者は、応戦しろ!」

「治癒のできる者は怪我人の手当てを!」

が、会場は血の海となってしまった。


 初音はどうしたらいいのか分からず、戸惑った。


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