第3章 八面ダイスと絵本のシール 1

 初めてのグループワークから、早一週間が経った。

 葉っぱ集めを兼ねたグループワーク。孝慈は和歌子に話を聞いて手っ取り早く済ませると言っていたものの、僕たちは何度も街を歩いた。

 未来写真の対象者になりうる人は、先生の件以来見つかっていない。

 和歌子が消えてしまう期限である、歌扇野の夏祭りまでは、あと十三日。

 そして先ほど、今日の調査も終わって、家に帰ってきたのが夕方。昼間聞こえていた蝉の喧騒はいつの間にか消えていて、窓の外はだいぶ暗くなっている。

 自室で机に向かいながら、携帯で「座敷わらしのおまじない」「歌高 七不思議」「歌扇野 座敷わらし」と、キーワードを変えつつ検索を繰り返して、ため息をつく。

 ふと、孝慈に図書館で二人の時に言われたことを思い出していた。

 彼が話していた、座敷わらしのおまじない。

 ネットで調べてみたが、めぼしい情報は無い。今どきそういう古くさい噂話は語られないのだろうか。

 それに――。

 僕は調べるのをやめると、勉強机の一番下の引き出しを開けて、その物体を取り出した。

 それは、正八面体のかたちをした、サイコロを模した小物入れ。中学のとき、美術の授業でつくったものだ。

 その一つの面には、鉛筆で描かれた、とある人物のスケッチがある。

 それを見て、もう一つ思い出すこと。

 おまじない以外に、孝慈が言っていたこと。

『だって、絶対好きだって、松野』

『何か、心当たりは無いのかよ? お前が忘れてるだけで、子供のころに一度会ってたとか』

 彼が言うには、松野が僕のことを気になっていて、もしかしたら過去の記憶にその理由があるかも、と。

 松野と僕は昔どこかで会っているかもしれないと。そもそも、松野が僕のことを好きだという前提がおかしいけど。

 心当たりなんて、ない。

 だけど、――あの時。陸上。

 一つだけ、あった。それは松野のことでも、幼い頃のことでもなく。

 僕の記憶に焼き付いているのは、中学時代に同じ部活だった、星野ほしの鈴夏すずかのことだった。


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クローバーが君の夏を結ぶから 夏野りら @might_yukiri

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