第38話 感謝の形

(どうしよう……いつ渡そう)


椎奈との楽しいショッピングを終え家に帰ったのは良かったのだがプレゼントを渡すタイミングを完全に逃してしまってどうしようか迷っていた


(そもそも本当に渡しても大丈夫なんだろうか?それなりに親しくなっているとは思うが…いやでもなー……)


『仁くん?どうかしました?』


『うぉ!』


考え事に夢中になりすぎて洗い物を終えて俺に近づいてきていた椎奈に全く気づかなかった


『そこまで驚かれるとこっちまで驚いてしまいますよ。それで?どうしたのです?ご飯を食べ終えてからずっと何か悩んでいるようでしたが、具合が悪いのなら早く行ってくださいね?』


『いや、別に体調が悪いってわけじゃないんだ。ただ…ちょっとな』


『そうなのですか?……私は仁くんに隠し事をせず全てを話せなんて言いません。…………私だって怖くて言えないこともあります。でも、だからこそ仁くんが何かに悩んでいるなら力になりたいです。』


……ほんと俺は情けない、自分のくだらない気持ちで椎奈を不安にさせて暗い顔までさせるなんて


『すまん椎奈、そんなに思い詰めないでくれ、嫌なことがあって思い詰めていたとかそんなんじゃないんだ。ただ自分に自信が持てなくてな。でも椎奈にはちゃんと向き合っていきたいからな、ええ〜、椎奈さん!』


『は、はい!』


俺がちゃんと話すために姿勢をよくして座ったら椎奈もあわせて綺麗に座り直して聞く姿勢を整えてくれる


『えっと、普段から世話をしてもらったり多くのことを任せてしまって申し訳ありません!』


こんな真面目に人に何かをあげたりドッキリでプレゼントを渡したりするなどほぼ縁遠い人生なため、とてつもなくテンパって変な喋り方と内容になっている、椎奈は俺の言い分に異議申し立てはありそうだが静かに聞いてくれている


『その日頃のお礼というかなんと言うか、俺の自己満足になってしまうんだが、これを受け取ってもらえないか?』


『へぁぇ?』


今の話の流れからプレゼントが出てくるとは思っていなかったのか肩透かしを喰らいましたと言いたげな顔で椎奈が固まってしまった。少しして回復したが何が起こったか分からず慌てふためいている。めっさ可愛い

テンパった姿を見せたのが恥ずかしかったのか少し顔を赤らめながら俺を睨んでいる…………ごめん


『んん!えっと色々言いたいことがあります。』


さっきの静止とテンパリはなかったことに


『……聞いてます?』


『も、勿論です』


『ならいいですが、まず、仁くんのお世話はしっかりと話して決まったことなのになぜいきなりあのようなことを?』


話…と言うよりほぼ強制だったと思う気持ちを奥深くにしまい椎奈の質問に答える


『えっと、こんなふうに誰かに隠れてプレゼントを用意したり渡したりするのは初めてで…ちょっと焦りました。』


人にプレゼントを渡すのが初めてと言うのがちょっと恥ずかしくて目を瞑って答えるが椎奈からの返答がない、呆れられているのかと思って椎奈の方を見るとなぜか両頬を押さえて何がぶつぶつ言っている


『仁くんの、初めてのプレゼント…………これは……』


『椎奈さん?おーい』


『はっ!……なんでもありません。なるほど、そう言うことでしたら今回は許しちゃいます。ですが、今後そういったことを言うのは無しですよ?私もやりたくてやっいるんですからね?』


『か、かしこまりました』


今回はなぜかお許しをもらったが……次はないよ?と言ったらプレッシャーを感じるのは気のせいだと思いたい


🔸

あれからお許しを頂いたと思ったのだがその後少しお説教があり、今は渡したプレゼント?日頃の感謝?を持ってソワソワしている椎奈とソファーに座っている


『開けないのか?』


『開けてもいいんですか?』


『お、おう』


俺の言葉に素早く反応してずいっ!と俺の目を覗き込むように寄ってくる。椎奈の圧力に負けて少しのけぞってしまう


(ヤッベ、やっぱり家に帰ってから開けてもらうべきだったか?目の前で開けられるのずっごい緊張する。)


そう思ったのも後の祭りで、椎奈はすでに箱を開けていた


『これは……』


そこには白を基調とした細かな金色の装飾があしらわれたかんざしと櫛があった。椎奈の髪はとっても綺麗な黒なのでそれも合わさって目を引いた。確かにいきなりどう言ったアクセサリー系のものを渡すのはどうかとも思ったがなぜかこれ以外考えられなかった


椎奈は箱を開けた瞬間からまたしても固まってしまったが、今度は思考が停止しているのではなく、むしろ何か考えているのか、みるみると顔を赤くしていき最終的に耳まで真っ赤になっている


『……じじじ、仁くん、こ、これ!』


『いや、色々見ていたらそのセットが目に入って、確かに初めてのプレゼントでアクセってちょっと重いかもと思ったけど、嫌じゃなかったら受け取ってもらえるか?』


『そ!それは勿論受け取ります!で、でも。こ、これ意味……』


『ん?意味?』


『い、いえ!知らないのならいいのです!気にしないでください、ね!』


『そ、そうか?わかったよ。でも喜んでもらえたようで良かったよ』


『嬉しいに決まってるじゃないですか、とっても綺麗です。』


簪と櫛に目を落とし慈しむようにそれらを見ている、そしてあることに気づいて簪と櫛が入っていた箱に紛れていたものを見つけて手に取る


『ノックスちゃん?』


出てきたのはノックスそっくりの猫のキーホルダーだった。てか、あのショッピングモール偶然だとは思うがノックスみたいな猫のグッズ多いな


『それはおまけだ、鍵渡しただろ?無くさないようにつけとくといい』


『仁くん、本当にありがとうございます!全部大切にします!』


そう言って笑う椎奈の顔は今日一番輝いていた。

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