25. 王国を守るために
ウォーマス帝国が進軍してきたという知らせを聞いた僕は、すぐに防衛戦のための準備を始めた。
国王は僕達を最前線に出すつもりは無いようだから、直接戦うことは無いだろう。
しかし準備を疎かにすれば、痛い目に遭う。
だから魔法が使えない時に備えて剣を磨いていく。
冒険者だったときは毎日していたことだから、これくらいはすぐに終わる。
問題はソフィアが武器を持っていないことだ。
「武器が無いなら、戦場には行かない方が良い」
「私ひとりで待っているのは嫌なの。
だから……急いで作ってもらってみるわ」
「間に合わなかったら、僕の予備を貸すよ」
武器というのは、その人の体格に合わせて作られることが多い。
安い汎用品も売られているけど、Bランク以上の冒険者で汎用品を使っている人は居なかった。
それくらい、自分に合わせて作ってもらう武器というのは大切だ。
少し前に汎用品で魔物と戦ったことはあるけど、普段の武器の方が何倍も戦いやすかった。
幸いにも僕の剣はパーティーを追い出された時に奪われずに済んだから、こうして持ってくることが出来ている。
流石に罪の疑いで拘束された時は没収されたけど、そのあとにちゃんと返してもらった。
流石の帝国も、そこまでの人でなしではないんだよね。
「予備もあるのね。
でも、私に扱えるかしら?」
「これと全く同じだから、外で振ってみていいよ」
そう口にして剣を手渡すと、ソフィアは危うく落としそうになっていた。
鞘に入れたまま渡して正解だったようだ。
「剣ってこんなに重いのね……」
「僕の体格に合わせているから、仕方ないよ」
「そんなに力持ちに見えないのに、力持ちなのね」
「それって褒めてる? それとも馬鹿にしてる?」
「褒めているに決まっているじゃない。
どんな鍛え方をすれば、体格を変えずに力を付けられるのかしら?」
これは僕だけに限った話ではないんだけど、身体が出せる力は魔物を倒せば倒すだけ強くなると言われている。
だから冒険者はひたすら強い魔物を倒すことを目指して鍛錬する。
強い魔物ほど、倒した時に得られる力が大きくなるからだ。
魔力もまた、魔物を倒すことで増やすことが出来る。
けれど、その成長具合には個人差があって、当然のように限界だって存在している。
複数人で倒した時は誰に力が入るのかよく分かっていない。
倒した人だけに入る説。
倒した人と家族に入る説。
倒した人と倒した人の恋人に入る説。
戦いに参加した全員に入る説。
色々言われているけど、僕の予想は少し違う。
倒した人が戦っていた時に仲間と考えている人に均等に入っている気がするんだ。
理由は簡単で、ある日から突然僕だけ力が伸びなくなったからだ。
一人で魔物を倒した時は力が増えていたから、成長が頭打ちになったわけでは無い。
ただ、冒険者パーティーのメンバーから仲間だと思われなくなった。それだけだ。
その日から、僕は元仲間の二人に力を抜かれ、残りの一人には魔力量を抜かれた。
……思い出したら悲しくなりそうだ。
「……そういうわけだから、僕が魔物を倒せばソフィアの力にもなるはずだよ。
一緒に行動しているという前提ではあるけど」
「私も仲間だと思っているから、一緒に成長できるということで良いのかしら?」
「うん、そうなるね。
農業の勉強をしに行くんだから、魔物を倒すことになるとは思えないけど」
「そうだったわ……。
でも、お父さんから言われているの。
魔物とは必ず、場合によっては人と戦うことになるって……」
そう口にするソフィアは不安そうな表情を浮かべている。
これから戦争になるかもしれない事では物怖じしていなかったのに、町の中で襲われることを考えたら心配になっているらしい。
デザイア王国で暮らしていたら、街中で襲われる事なんて想像出来ないのだろう。
「帝国もそうだったけど、デザイア王国みたいに全員で協力するような事は無いから、油断していると襲われることだってある。
その時は、相手を斬っても正当防衛で済まされるから、戦うしか選択肢が無いんだよ」
「他国って恐ろしいのね……」
「デザイア王国が特別なんだよ。
ここは本当に過ごしやすくて気に入っているよ」
僕は冒険者として、ウォーマス帝国以外で活動していた時もある。
だから他国の事情も少しは知っているつもりだけど、どの国でも街中は安全ではなかった。
唯一安全とされているホテルの部屋の中であっても、鍵を壊される事もあるらしく、寝るときは必ずドアと窓を凍り付かせていた。
デザイア王国で他人を襲う人が居ないのは、そうするだけの余裕が無いからだと思うけど、皆仲がいいから、生活に余裕が出来ても変わらないと思う。
でも、ウォーマス帝国に攻め込まれて占領地になったら、どうなるか分からない。
「うれしいわ。ありがとう。
武器はここで作ってもらっているから、進捗を聞いてみるわね」
そう口にしたソフィアが入っていった部屋は、いかにも鍛冶屋としか言えない様相を呈していた。
質素な印象の王家だけど、こういったところは手を抜いていないらしく、専属の鍛冶職人の姿がある。
「今日はディルクさんなのね。
私の剣、進捗はどうかしら?」
「陛下に言われて大急ぎで進めたので、あと一時間くらいで完成しますよ」
「分かったわ。ありがとう」
短いやり取りを終え、扉を閉めるソフィア。
それから二階に戻ると、廊下の窓の外が真っ白に染まっているところが目に入った。
どうやら、少し早めの砂嵐が訪れたらしい。
水しか作れない無能と追放された少年は、砂漠の国で開拓はじめました 水空 葵 @Mizusora
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