第13話 認識
「というわけで、とりあえず占術業ギルドに行ってみようと思う。案内してくれるか?」
「もちろんだよテルヒコ!!俺達のギルドの専任占い師になってくれるのか!?」
「お前、マジで人の話を聞けよ」
ごんと、ザインの頭を小突く。こいつは人の発言を好意的に受け取り過ぎて、時々腹が立ってくる。おかげでどんどん言葉遣いに遠慮が無くなるんだが、嬉しそうにしてるからもうこれでいいんじゃないかな。
度々出て来る、こいつの悪意の無いお調子者な側面は嫌いじゃないんだが、普通にイラつく。女共は可愛いと言ってるが、理解はできても同意はしません。
「お前のせいで家に帰れないから、帰る方法を自力で探すしか無いって言ってんだろ?色々探索しても怪しまれない立場が必要だから、占い師を検討してみようって言ってんだ。分かったか?」
「君なら、きっと最高位の占い師に認定されるに違いない!帰ったら君の歓迎会を兼ねて、大宴会を開こう!」
暢気すぎる言葉が気に障るので、もう一回頭にチョップをかましておく。……痛くなかったんだろうが、余計に嬉しそうに笑いやがるのだった。
「その認定制度が全く分からないのが不安なんだがな……」
そもそも自分じゃできてるかも不安なんだから仕方ない。これまで上手くいってただけで、今後も上手くいくかは保証が無い。そもそも占いに100%確実なんて無いし、100%確実な未来はどんな占い師も導き出す事ができないって先生は言ってたしな。
今の所この世界に関しての事は100%当たってるけど。うおー!先生に相談してえぇぇぇぇ!!何で俺はまともに習ったことも無い占いを駆使しながら生きる流れになってんだー!?失敗した時命までは失わない仕事だからだー!!
そう、生きてればなんとかなるよね。うん。
脳内で悶絶してる内に、占術業ギルドに到着してしまったらしくザインの足が止まった。ついでにその建物を発見してしまった俺の思考も止まった。
「ここが占術業ギルドだよ」
ザインが指し示した建物は、いかにもな奇抜なデザインをしていた。一言で言おう。紫色の巨大な水晶玉だ。石を彫刻して作った巨大な座布団の上に、2階建ての建物より少し大きいくらいの色の薄い紫水晶がどどんと乗っかっている。その周りには金でできた星型や太陽の彫刻がふわふわと浮かんでいて、地球儀の周りを囲んでる緯度尺みたいな輪も水晶を囲んで浮かんでおり、緩い速度で動いてるように見えた。
ご丁寧に、窓も扉も全て同じ色の水晶でできているように見える。
ヒュゥ~~~♪ファンタズィ~~~~~♪
こんなもん絶対に現実に無理だろ。魔法があるからできるんだろうが、頭おかしい建築物だわ。座布団部分は彫刻として、その後ドでかい水晶を魔法で生成して?それをくり抜いたのかなぁ~?あはははは
深く考えるのはやめよう。
そう思って紫水晶の扉を開けようとした瞬間、扉が内向きに勝手に開いた。
次の瞬間目に飛び込んできたのは、扉から奥の受付までの道の左右にズラーーーーっと整列した様々な格好のギルド職員、あるいは占い師っぽい連中だった。
一様にうつむいたまま、胸に手を当てている。
「っ!?」
思わず息を飲んだ。後でゲップ出そう。
整列した連中の中から1人が抜けだし、ゆっくりと歩み寄ってくる。いかにも占い師といった風体の、黒いローブのお
整列した連中は一言も発しない。その異様な光景に、ザインも閉口して固まってしまった。
お婆さまは、俺の前まで変わらぬテンポで来ると、少し顔を上げて俺に話しかけてきた。
「貴方が来ることは、神に聞いて知っていたよ。測れぬ者よ。異郷の民で、異郷に帰る為に占い師になる事を考えているんだろう?皆、貴方に興味津々でね。さあ、こちらにおいでなさい。あぁ、お前は……どうしようかね」
と、乗り込もうとしたザインを制止した。俺に対しては”貴方”で、ザインに対しては”お前”という所からも、異郷の民に対しての扱いが重い事が分かる。
「まあ……、いいかね。お前もついてきなさい」
「はっ」
さすがのザインも他所のお偉いさんの前ではいつもの調子は出ないらしい。背筋を伸ばして、まるで兵士か騎士だ。
お婆さまのゆったりとした歩みに合わせながら水晶の色の濃淡で彩色された階段を上がり、2階に上がるとそこは暗い紫が基調の空間になっていて、正面に大きな通路があった。その通路の左右には小部屋が並んでいるらしく、均等にドアが配置されていた。ドアだけは様々な色の鉱石でできているらしく、色にばらつきがある。
「この辺りのは占い用の個室さ。ギルドに所属すると、ここを一室借りる事ができるようになる。まぁ、貴方には必要ないかもしれないけどね。さ、こっちだよ」
と、お婆さまは通路を真っすぐ進んでいく。ザインは2階に上がったのが初めてなのか、背筋を伸ばしながらも目は忙しく動き回っていた。
奥のひと際大きなクラック水晶でできた扉の前まで来ると、その奥から何かを感じた。言葉に表せられない感覚だ。近いのは、”圧”といった感じだろうか。
「この部屋は、占い師の適性を測る部屋でね。さあ、押して入っておくれ」
言われるままに水晶の扉に手をかけ、ゆっくりと押す。万が一ダンジョンの時みたいな事が起きたら、この豪勢な扉を弁償する事になりかねないからな。慎重にだ。
部屋の内装は……何もなかった。ただ、壁によく分からない文様が刻まれている。
壁の文様以外は窓も何もない部屋だ。
「さあ、何が見えるかね?」
???????????何がって、何が?圧は感じるが、何も見えない。
「部屋」
と、答える。いや、そうとしか言えなくない?って正直に思ったわけなんですが。
「………ふむ。そうかね。異郷の民には見えないのか……」
お婆さまは、壁に向かって何か頷きながらそう呟いた。
「……テルヒコには見えていないのか?」
ザインが落ち着かない様子で聞いてきた。なんとなく、ザインには何かが見えてるんだろうって事は分かった。
「何が見えてる?」
「……俺には、そこに天使がいるように見える」
ザインがそう言って一か所を指さした瞬間、まるで元々そこにいたかのように大きな翼の天使が現れた。これまで見えなかったのが不思議な程、ハッキリと。
翼から舞う羽が俺の腕に当たって落ちるのまで見えた。
天使は俺と視線が合うと、何故か謎の拍手を始めた。
「これは……そうか。貴方は、今天使がいると聞いて見えるようになったのかね?」
「あぁ……そうだと思う」
「なるほど、分かったよ。貴方には、この部屋がどういう部屋なのかを伝えた方が良さそうだね。ここには、普段は見えない様々な高位の存在を一時的に呼び出す魔法陣が記されていてね。試験の度に来てもらっているのさ。ここに入った瞬間に試験は始まって終わる。見えている存在が話せる存在で、それ以外の存在とは話す事ができないって事が分かるのさ。それが適性検査なんだよ」
部屋に入るだけで適性が分かるって事か。となると、俺の適性は天使?
「ところが、貴方は最初は見えなかったのに”そこに居ると分かった”瞬間に見えるようになったね。珍しい事だけど、時々あるんだよ。そこに”いる”と分からないと、見えないって事がね。だから、今回は特別にここにどんな存在がいるのか一通り紹介してみようか。まずは、入口近くから土の精霊、風の精霊……」
言われた途端、土色の塊と、薄緑色の鳥が現れる。
「おぉっ……!!」
思わず声が漏れた。そこにいるって分かるだけで、まるで見える物が違うなんて!
「妖花アルラウネ、大罪の悪魔ベルフェ、雷神カトゥマトール、雪の王女メリル……」
その後、お婆さまの口からそこに呼び出された全ての存在の名が明かされ、結果として俺は”認識した全ての存在を見る事ができた”のだった。
迷宮伝説の占い師~20代半ばで自給自足生活しようと思ったら、異世界で伝説の占い師と評された俺~ イレヴンス @elevens
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