ヤドムシのけんきゅう 第二話

***



「先生、息子は助かるんでしょうか」

 洋介は、病院のベッドで手足を拘束されている我が子に視線を移した。

 太一は数分おきに激しいけいれんを繰り返しては、時折ゲラゲラと笑いはじめる。額は赤や紫色、黄色のまだら模様に染まって、いびつな形に盛り上がっていた。目を凝らすと、なにか細長いものが、皮膚の下でひっきりなしにうごめいていた。


 最初に太一の異変に気がついたのは里恵だった。高熱を出した太一の額を触ったとたん突然うろたえはじめ、がどうだとかいい出した。そんな虫は聞いたこともなかったが、よくよく彼女の話を聞くと寄生虫の一種だというので、救急を呼んだ。

 ところが里恵は、いますぐ自分の実家へ連れていくと言いだした。お祓いをしなければ治らない、地元の霊媒師でなければならないと言って聞かなかったのだ。

 言い争っている内に救急隊が到着し、なかば無理やり救急車に押し込む形で病院に搬送されて今に至る。


 妻の里恵は数日間泣き続けていたが、いまは太一のベッドの横に座って、放心したようにどこかを見つめていた。一睡もせずに、ずっと太一につきっきりだった。

「なんとも申し上げられない状態です。いま、こうして生きていること自体が奇妙なほどで。とはいえ……」

 医者は歯切れの悪い返事を返す。無理もない話だ。太一の脳はすべて寄生虫に食い尽くされていたのだ。なのに、太一は生きている。

 検査結果は父親である洋介だけに伝えられた。里恵の精神状態はどう見ても正常ではなかったからだ。


 洋介は何度も治療をやめようと里恵を説得したが、彼女がうなずくことはなかった。というのも、太一は何日かに一度くらいは意識を取り戻すことがある。そんな時は、普通に会話が成立するのだ。それはまぎれもなく太一自身の人格だった。

「いつか治療方法が見つかるかもしれないじゃない」

 里恵は口癖のように繰り返す。たしかに栄養さえ与えていれば、体だけは生きていられる。しかし、「それ」はもう決して太一ではない。このままではいけない、そうは思うが、しかし――。


 ふいに、一度も太一から目を離さなかった里恵が、こちらを振り返る。

「ねえ、この子、焼いてみたらおいしそうじゃない?」


里恵の額には二つ、大きなデキモノがはえていた。

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