ヤドムシのけんきゅう

環境

ヤドムシのけんきゅう 第一話

「ヤドムシのけんきゅう」   三年二組 野田島 太一


【このテーマをえらんだきっかけ】


 ぼくは虫がすきです。つかまえた虫を育てるのも、ころすのもすきです。理由は楽しいからです。

 ミミズはじょうぎを使って二センチメートルずつに切りました。頭の部分だけが生きのこって、ほかはぜんぶ死んでしまいました。生きのこった頭のほうをしいくしてみましたが、三日後に死んでしまいました。ショウリョウバッタはつかまえると、口から茶色くてくさい水を出します。これは、バッタが食べた草と「いえき」とがまざったものなんだそうです。虫でもびっくりしてゲロをはくことがあるなんて、おもしろいです。

 お父さんとお母さんは、ぼくがどんな虫をころしてもおこります。でも、おばあちゃんはおこりません。虫をころすのも学びの一つで、生きていくなかでひつような場合もあるからなんだそうです。

 そんなおばあちゃんが、ぜったいにさわってはいけないと言っていた虫がいました。おばあちゃんは「ヤドムシ」とよびます。

「ヤドムシはころすんでねえど。ころせばモッコサタマシトラエルデ」

というのが、おばあちゃんの口グセでした。おばあちゃんの話す言葉は「なまり」というそうです。わからない言葉が多いので、お母さんに「ほんやく」してもらいます。でも、おかあさんは「モッコサタマシトラエルデ」の意味を教えてくれませんでした。とにかく虫はころしちゃいけないのよと言われました。

 ぼくは「モッコサタマシトラエルデ」がなにか、何ひきころしたら「モッコサタマシトラエルデ」になるのかを知るため、ヤドムシをしいくしてみることにしました。


【ヤドムシのとくちょう】 

生息場所:石の下や草むらのかげ、しめった土の近く

体長:やく五センチメートルから十五センチメートルの間

色・形:うすいピンク色。タコの足とにていて、細長い。頭からは四本のしょっ角がのびている。

感しょく:しめっていてやわらかい。

足の数:二十二本または二十三本



<7月25日 くもり> タイトル:一ひき目 さい集

場所:池

方ほう:かんさつ

大きさ:六センチメートル

足の数:二十二本

 まずは、庭の土を虫かごの中にしいて、きりふきでしめらせておく。さい集したヤドムシを虫かごにいれ、かんさつする時に動かないよう、ふたまたにわかれたえだを使ってこ定した。はだの色はうすいピンク色をしていて、しめっている。さわった感じはやわらかく、細かいひだがザラザラとしていて、人のベロにそっくりだ。足は太くてシワシワなので赤ちゃんの指みたいだと思った。ナメクジのようなしょっ角が四本生えていて、そのうちの二本は長く、あとの二本はあまりはったつしていない。エサはなにをやったらいいんだろう? とりあえずカブトムシのゼリーをおいてみた。


<7月26日 晴れ> タイトル:一ひき目 しいく

 カブトムシのゼリーは食べないらしい。ずかんで調べると、にている形の虫を見つけた。ヤドムシとはちがうようだったけれど、その虫は小さな虫を食べるのだそうだ。ためしに、今日は羽をもいだコオロギをあたえてみることにした。虫かごは家族に見つからないよう、ベッドの下にかくすことにした。

 

<7月27日 くもり> タイトル:一ひき目 しいく

 朝起きると、コオロギはいなくなっていた。食べている様子が見たかったのに、ざんねんだ。手に乗せていたら、かみつかれてしまった。口の中をかんさつしたら、ギザギザの歯が生えているのがわかった。


<7月28日 雨> タイトル:一ひき目 実けん

方ほう:切だん

けっか:うまれた

 体がやわらかいので、ミミズと同じようにじょうぎで切れるかと思ったが、しっぱい。内ぞうと肉はぷちぷちとあっぱくされて、つぶれている感しょくがあった。だん力のあるぶあつい皮ふがぼよんとおし返してくるので、うまく切だんできなかった。ちょうこく刀でさすと、半とう明のたいえきがたくさんあふれてきた。だんめんからは、はい色の細長いがたくさんのびていたので、虫めがねでかんさつした。はしゅうしゅくをくり返しながら、ヤドムシの体から次々と出てきた。さいしょは消化きかんだと思ったが、どうやらちがうみたいだ。ピンセットでつついたら、くるくるまきついて、うでまではい上がってきた。ヤドムシのようちゅうだろうか。こちらの虫かごはようちゅうせん用に使おう。


<7月29日 雨> タイトル:ようちゅうかんさつ

 今日は大雨でヤドムシがさい集できなかったので、ようちゅうをかんさつすることにした。ようちゅうたちは、出てきてすぐはヤドムシの肉を食べていたけど、ヤドムシが動かなくなるときょうみをなくしてしまった。ようちゅうはみんな同じくらいの長さで、はかってみるとやく五ミリメートルだった。十ぴきくらいのようちゅうが虫かごのすき間からにげていってしまったので、食品用のラップですき間をふさぎ、つまようじで空気あなを作った。


<7月30日 雨> タイトル:ようちゅうかんさつ

 今日も雨がふっていた。ヤドムシの死体がくさりはじめてきた。部屋中に下水のようなにおいが広がって、いやな気分になった。ようちゅうたちはあまり元気がなくなっていたが、ぼくが虫かごをのぞきこむといっせいに集まってくる。もしかしたら、親と同じで生きた虫を食べるのかもしれない。雨がやんだら、コオロギをたくさんさい集しないと。ヤドムシの死体はマドからすてた。


<8月1日 くもり> タイトル:二ひき目~六ぴき目 さい集

場所:池、庭の生けがきの下、土ぞうのうら

方ほう:かんさつ

大きさ:やく五センチメートル×二ひき、やく八センチメートル、

       やく十センチメートル、やく十二センチメートル

足の数:二十二本×四ひき、二十三本×一ぴき

 今日は五ひきもさい集できた。ヤドムシ用の虫かごを三つしか持ってこなかったので、二ひきのかごを二つ、三びきのかごを一つで分けた。エサのコオロギもたくさんとった。これでしばらくはこまらないだろう。足が二十二本のと、二十三本のがいた。二十三本のは一ぴきだけだったので、めずらしい個体なのかもしれない。ようちゅうちの虫かごにも何びきかコオロギをやると、うぞうぞとたかってきて、みんなコオロギに食べられてしまった。コオロギは、なんでもなかったかのようにぴょんぴょんとびはねている。ぼくはがっかりしてしまった。


<8月2日 晴れ> タイトル:二ひき目、三びき目 実けん

方ほう:かいぼう

けっか:足の数がちがうと、体のつくりもちがう

 足が二十二本のヤドムシと二十三本のとでは、何がちがうのか気になった。二十三本足は一ぴきしかいないので少しもったいないけれど、かいぼうしてみることにした。まず、二十二本足のほうからはじめる。なぜなら、二十二本足は、しっぱいしても数によゆうがあるからだ。ぼくは、左手の親指と人さし指でヤドムシをつまむと、そのままトレーにおしつける。するとネバネバのえきたいをいきおいよく口からふき出して、ぐねぐねとあばれだした。ほっぺについたのを手でぬぐうと、糸をひいてしまって、なかなかネバつきが取れなかった。さいあくなことに、口の中にも少しだけ入ってしまった。味は、すっぱ苦い。カッターでタテに引きさいて、ピンセットでそっと内ぞうを取り出した。のうみそは小指のつめくらいの大きさだ。頭のほうでは何本かのが内がわに向かって生えている。口の近くにはふくろがついていて、切り開くとさっきのネバネバが入っていた。消化きかんは下に向かっていくにつれて太くなっていた。やき上げる前のパン生地を思い出して、おなかがなった。体の下のほうにはツンととがった場所があって、それをたどっていくと小さな内ぞうがぶら下がっていた。二十三本足の方は、このとんがり部分がなかった。ぼくは、何回も見くらべたり、ずかんでにた生き物を調べたりしていた。トンガリはせいしょくきで、二十三本足の方はメスなのではないかと予想を立てた。また今度つかまえてみよう。

 

<8月3日 くもり> タイトル:七ひき目 さい集

場所:神社の下

方ほう:かんさつ

大きさ:九センチメートル

足の数:二十三本

 今日はヤドムシが家のまわりにいなかったので、ほかの場所もさがすことにした。ヤドムシが取れそうな池や森の中は、立ち入りきんしの場所が多い。一日じゅうさがし回って、やっと一ぴきだけ。神主さんに見つかりそうになったけど、二十三本足の方が見つかってラッキーだ。二十二本足と同じ虫かごに入れて、しばらく様子を見ることにした。


<8月4日 晴れ> タイトル:四ひき目 実けん

方ほう:たたく、すりつぶす

けっか:皮の強度がたかい。オスの体に赤ちゃんがいる?

 ヤドムシはやわらかい体をしているが、皮ふがぶあついので切りにくい。それに、きりふきでぬらしても、小さな水の玉になって落ちていってしまう。では、たたいたり、落としたりなどのしょうげきには強いのだろうか?

 まな板にヤドムシ(二十二本足のほう)をおいて、すりこぎぼうでたたいてみた。だん力があって、ゴムみたいだ。ぎおんにしてみると、「ぼぬん」というかんじ。全体をまんべんなくたたいていると、「もちゅん」みたいな音にかわっていって、そのあとはあまり音がしなくなった。またベトベトのねんえきをはいていたので、スポイトですって、しけんかんに入れておいた。体は、たたく前にくらべると二倍くらいに大きくなっていて、だん力はきえてぶよぶよになった。口からぐちゃぐちゃになった内ぞうがはみだして、くさいにおいを出していた。二十二本足にはトンガリのせいしょくきがあるのに、内ぞうにまざってようちゅうが出てきた。オスでも赤ちゃんができるのか、それともぼくの予想がまちがっているのか、どちらだろうか。

 ようちゅうといっしょに、すりばちでつぶしてこねると、ダンゴになった。皮がなかなかつぶれなくてたいへんだった。できた肉ダンゴをほかの虫かごに入れてみたら、よろこんで食べていた。おどったり、ジャンプしていたので、きっとおいしかったんだろう。まな板やすりこぎやすりばちはきちんとあらったが、へんなにおいがこびりついてしまった。


<8月5日 らい雨> タイトル:おでき

 おでこにおおきなおできがふたつできた。ヤドムシのツノみたいだと思った。

 お母さんがキッチンでひめいをあげた。まな板やすりこぎやすりばちにくさいしるがついていたからだった。ぼくは、なるべくふだんは使っていないものを持ち出したつもりだったけれど、すぐにバレてしまった。大きな声を出しながらぼくの部屋に入ろうとしたので、いすやたんすでバリケードを作って、入ってこられないようにした。虫かごを見られたら実けんをやめろって言うに決まっていたからだった。ぼくはまえがみでおでこをかくして、まどからそとに出た。げんかんから入ってきたぼくを見て、お父さんもお母さんもとてもおこった。夕ごはんがぬきになっておなかがすいたので、きのう作ったダンゴを口に入れてみた。苦くてまずい。


<8月6日 晴れ> タイトル:五ひき目 実けん

方ほう:やく

けっか:ヤドムシは火が苦手

 今日はヤドムシをやいてみることにした。皮ふをぱりぱりにやいたら切りやすくなるのではないかと予想したからだ。マッチではじゅうぶんな火力がなかったので、ぶつだんからターボライターを持ってきてあぶった。はげしく体をよじらせて苦しんでいたが、全体てきに茶色くこげ目がついたところで動かなくなった。火は苦手なのかもしれない。サクサクと音を立ててすんなりと切れた。生のままの内ぞうがどろりとあふれてきた。とろけるチーズみたいだ。少しなめてみると、けっこうおいしい。


<8がつ8にち ?> タイトル:お母さんの口

 お母さんがぼくに話しかけている。なにを言っているかわからなかったので、ぱくぱく動く口の動きをかんさつした。お母さんのくちびるにはこまかいひだがあって、ぐねぐねと動いている。口のなかで、ピンク色の虫がうごめいている。お母さんが口を開くたびに、たくさんのヤドムシが口を出たり入ったりして、ひしめいている。お母さんだけずるい。


<8がつ10にち 雨> タイトル:コオロギのツノ

方ほう:かんさつ

 今日は一日じゅう雨がふっていた。ようちゅうをすべて食べてしまったコオロギのことを思い出した。ぼくはがっかりして、そのまましまっておいたのだった。ベッドの下から虫かごを取り出すと、ともいのざんがいがそこにあった。一ぴきだけが生きのこっていて、ほかのものは頭と羽、足をのこしてきれいになくなっている。一ぴきだけのこったコオロギは、ぴょんぴょんとびはねたりくるくるまわったりしていた。ぼくを見てよろこんでいるんだ。コオロギにもヤドムシと同じツノが生えていた。わすれててごめんねといって、ぼくはコオロギを口の中に放りこんだ。


<8月12日 晴れ> タイトル:六ぴき目、七ひき目 しいく

方ほう:かんさつ

けっか:本物のようちゅうが生まれてきた。

大きさ:やく二~三ミリ

 いっしょの虫かごに入れていた二ひきは、交配にせいこうしていたらしい。二十三本足のヤドムシから、ようちゅうが十三びき生まれてきた。ヤドムシをそのまま小さくしたような形で、色は白い。ぼくが今までようちゅうだと思っていたものは何だったのだろう?


<8月14日 晴れ> タイトル:百ぴき目 天じょう

 ねむっていると、天じょうからヤドムシがぼたぼたとおちてくる。ぼくの顔に、口の中に、目の中に入ってくる。いつのまにかぼくのまわりはピンク色でうめつくされていた。ヤドムシがネバネバのねんえきをはきだして、目の前が白くにごる。ぼくは全部で何びきなのか数えることにした。八十ぴきもいた。


<8月16日 くもり> タイトル:モッコサタマシトラエルデ

 ぼくは「モッコサタマシトラエルデ」というのを図しょかんでしらべることにした。モッコというのは、バケモノのことらしい。「サ」っていうのは「ナントカにナントカする」というときの「に」と同じ。なので、「バケモノにタマシをトラレル」という意味になることがわかった。おばあちゃんはかんちがいをしている。ヤドムシを乗っ取っているのはバケモノではなく、ヤドムシの中にいるきせい虫だ。


 きせいされたやどむしにはつのがよんほんあるそのうちのにほんがきせいちゅうのつのですぼくにもはえています



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