短冊に願いを込めて

雨宮 徹

短冊に願いをこめて

 ショッピングモールを歩いていると、家族連れ、カップルに学生たちが一箇所に集まってワイワイとしている。何かイベントでもやってるのかしら。





 近づいてみると、そこには短冊に願い事を書く人々がいた。そうか、明日は七夕か。すっかり忘れていた。私も何かお願いしよう。





「ねえ、お父さん。応援している野球チームの優勝をお願いしてもいい?」子どもが問いかける。





「それもありだな。お父さんも一緒にお願いするよ」





 子どものお願いは純粋無垢だ。でも、「政治・宗教・野球の話はするな」という言葉もある。心ない人が破り捨てるかもしれない。





「私たちの付き合いが続くようにお願いしようよ」





「でも、それって破局する前提じゃないか? 俺は君と別れるつもりはないよ」彼氏がささやく。





 彼氏の言うことも一理ある。でも、私には関係ない。私には恋人がいないから、そんなお願いをする必要がない。悲しいけれど。





「やっぱ、世界平和を祈ろうぜ!」





「お前、天才じゃん!」





 学生たちの願いが実現して欲しい。でも、現実的ではないかもしれない。人間が生きる限り、争いが絶えることはない。憎しみが殺戮を生み、また憎しみを生む。それが現実だ。





 さて、私は何を祈ろうか。短冊を前に考える。そして、一つの願い事を書いてみた。願いが叶う可能性はないけれど。





「これでよし」一人つぶやく。





 私の願いはこうだった。「花粉症に悩まないよう、スギが絶滅しますように」と。

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短冊に願いを込めて 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993

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