第12話 まだ見ぬ明日

「んん…ここは……?」


俺はゆっくりと目を開けた。

辺りを見回すと、ダンジョンにいるのだと理解する。

横には気持ちよさそうに眠っているミミ。


「まるで事g……」


途中まで言って、ハッとし、俺の手に握られていたスマホを見る。


(いきなり倒れて、意識失ったかと思ったら、事……なんだって?w)

(心配して損したわぁww)

(マサト君…不潔です……)

(まぁ、そんなとこも含めて、お前は面白れぇよwww)


時すでに遅し。

しっかり聞かれていた。


やらかしたなぁ…

まぁいいけどさぁ……


俺は半ば諦め気味に自分に言い聞かせる。


「と、ところで、俺たちに何があったか教えてくれるか?」


誤魔化すように俺は状況を整理しようとリスナー達に声を掛ける。


(コイツ…誤魔化しやがったww)

(何があったも何も、さっきも言ったけど、いきなり倒れて、意識を失ったんだよ)

(目を覚ますまで…二~三分くらい?)

(見間違えかもだが、倒れる時になんかフワッと浮いたような……)

(フワッと着地♪ってか?どこの重力BBAだよww気のせいだろw)

(それはいいとして、モンスターがここを避けてたような気はするなぁ)

(そうそう!なんか結界でもあるみたいだったよね!!)


俺は身体を動かしていろいろと確認をする。

痛みどころか、傷までもが、ある程度塞がっている。

モンスターも近付かないようにしてくれたみたいだし、

どうやら丁重に扱われてたってのは

本当の事のようだ。


すやすやと眠るミミも大きなケガはなかったようで

俺はようやくほっと一息を吐いた。



——その後、俺は目覚めたミミと共にギルドへと戻り、

カエデに事情を説明した。


「ドラゴンに神、邪神に世界の終焉、そして人類の真の姿ですか……」


俺とミミが説明を終えると、

彼女は難しい顔をしながら、考え始める。


まぁ、こんなこと突然言われても、

すぐには信用できないよな。


かくいう俺も、あの状況を経験していなければ、

絶対に信じられなかっただろう。


「にわかには信じられないですが、マサト君が言うのですから

 本当のことなんでしょうね。

 それで?

 マサト君はこれからそうするの?」


「どうって……」


俺は、ドラゴンのことや神球の話が、

あまりにも現実味が無さ過ぎて、

何かおとぎ話を聞いているような感覚だった。


今、カエデに聞かれて初めて

現実として捉えることになったため、

この先のことなんて何一つ考えていなかった。


「正直、これ以降のことなんて何も考えていない。

 突拍子もなさ過ぎて、俺には

 まだ、現実として受け止めて

 『この世界を救ってくれ!!』

 みたいなこと言われても、そんな覚悟は持てない

 ただ……」


俺は、カエデとのやり取りを

隣で静かに聞いているミミの方にチラッと視線を移す。


「そんな俺だって今までたくさん苦労をした女の子一人くらいは

 救ってあげたいと思うし、救えると思う」


「マサトさん!?そ、それって……」


ミミは驚きを隠せないまま聞いてくる。


「まぁ…その……これからもよろしくな」


こんなこと言うことになるなんて、思いもしなかった。

めっちゃ恥ずかしい!!

素直にミミの目を見ることが出来ず、俺はふいっと顔を逸らした。


きっとミミはまた泣きそうになってるか、泣いているんだろうな。


そんなことを考えていたら、口の端から笑みが零れる。


そんな中、ふとカエデと目が合う。

ムスッとした表情で、頬を膨らませながら、

プルプルと肩を震わせているように見えた。


怒ってるのか?

あー……

キザなこと言ってないで

もっとすんなり誘えよってことか?


それとも女の子泣かせてんじゃねぇ!

お前をそんな子に育てた覚えはありません!!ってことか?


へいへい、女の子の扱いが下手ですいませんねぇ。


俺は、カエデの言いたいことを予測して、不満そうにする。


カエデは、いつもそうやって姉ぶるんだよなぁ。

まったく……


はぁ、と俺は大きなため息をつく。


片や泣いていて、片や怒っているカオスな空間に身を置きながら、

俺は、これから先の未来に不安を感じる。


でもきっと、ミミやカエデと一緒なら何とかなるような気がする。

……今はこんなんだけど、頼りになるんだから大丈夫!!

だと思う、たぶん、きっと、自信はないけど……


それにミミだけじゃなく、

俺やカエデにも思い出したくないトラウマはある。


いつかは俺もカエデも乗り越えなければいけないが、

それは今じゃない。

今は……今だけはこの一時の平和を楽しみたい。


ミミにとってようやく大きな壁を乗り越えた瞬間で、

初めて心を許せる仲間を見つけたのだから、水を差すべきじゃない。


「マサトさん?

 ぼーっとしてどうしたんですか?

 私たちの冒険はまだ始まったばかりですよ!」


「冒険を始める前からフラグを立てないでくれ」


涙を拭いながら話すミミの言葉にツッコミを入れると、

何のことかわからない様子で、ミミはえ?え?と慌てている。

そんなミミを見て、俺とカエデは笑う。


俺は二人の顔を交互に見つめ、願う。


どうか、この二人の笑顔が

ずっと続きますように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダンジョン配信していたら真実に辿り着いた 月星 ゆう @hoshino-yuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ