第11話 本当の姿

『これはこの世界にダンジョンが出来る前……

 あなたたちの単位で言うと今から十五年ほど前になります。

 この土地に蔓延る負の感情が集まり、とある邪神が誕生しました』


邪神……名前だけでよろしくないモノなのはよくわかるが、

負の感情か。

そんなもんから、邪神なんておかしなのが生まれるなんて

考えたこともなかったな。


『邪神と言っても、生まれたては

 そこまで強い力は持ち合わせていません。

 今までも、何度か邪神は誕生し、そのたびに私が対処……

 消滅させていました』


なるほど。

コイツが言っていた“守護”ってのはそう言うことか。

俺は、少しずつ頭の中で話を整理しながら聞いていた。

ドラゴンが言っていた“神”というのは、状況的に間違いないのかもしれないが、

だからと言って信用できる奴とは限らない。

慎重に判断する必要がある。

ミミの方を見ると、難しい顔をしてうーんうーんと唸り、考え込んでいる。


……引っかかるの早すぎない?


そんなミミを知ってか知らずか、神と名乗る球体は話を続ける。

呼び方長いな…一旦、神球とでも名付けるか……

語弊がないように言っとくが、別に七つ集めても願いは叶わないからな?


『しかし、その邪神は今までのモノとは違ったのです。

 突然変異、とでも言うのでしょうか。

 その邪神…【エボル】は、最初から逃走の術を持ち合わせていました。

 それも、私から逃げおおせることが出来るだけの力を』


つまり邪神は力を付ける前に、神球が消滅させるから

本来であれば逃げられることも、反撃を受けることもなく、

被害は拡大しないわけだ。


しかし、今回の邪神は特別だった……

そんなことがあり得るのか?

何か裏がありそうな気がする。


そんなことを考えるも情報が足りな過ぎて、結論まで導くことが出来ない。

神球の話に改めて耳を傾ける。


『その後、いくら捜索を続けても、

 エボルの痕跡すら見つけられませんでした。

 私から逃げ、隠れ、反撃の機会を窺っていたエボルは、

 ついに、十二年前に【邪法:表層隔離】を発動させました』


十二年前……?


『その邪法によって、表の世界は、

 対となるモンスターが存在する裏の世界へと入れ替わり、

 当然のように、モンスターが闊歩する地獄へと化しました。

 裏の世界は、私の力すらも減衰させ、邪神の力を増幅させます。

 私は追い詰められ、最後の力でモンスターをダンジョンへと封じ込め、

 自らの身体を精神空間へと逃がし、

 神の器足りうる者が現れる【来るべき日】に備え、

 力を蓄えている状態です』


俺は話を聞きながらも、

十二年前という言葉が、頭から離れないでいた。


『しかし、思った以上に邪神の成長速度が早く、

 強大になったその力は、裏の世界から漏れ、

 表の世界すらも浸食し始めています。

 このままだと、すぐにこの両世界は、モンスターが暴れ回る

 人の住めない終焉へと辿り着くでしょう』


世界の終焉、そして時間がないってのはそう言うことか。

でもその前に、俺にはハッキリさせなければいけないことがある。


「なぁ、一つ教えてくれ。

 十二年前……この世界が巨大な地震に襲われた。

 それは邪法の影響か?」


俺は真剣に神球を見つめる。

さっきまで唸っていたミミも、

ただならぬ雰囲気を感じとったのか、こちらを見つめている。


『……ええ、

 たぶんそれは世界が入れ替わった際の余波のことだと思います』


それを聞いた瞬間、俺の中の何かが弾けたような感覚になる。


「マ、マサトさん?大丈夫ですか?」


ミミが不安そうな表情で

恐る恐る話しかけてくる。


「どうした?

 大丈夫だぞ?」


よく見ると少し震えているようにも見える。


「いえ……

 今の話を聞いてから、マサトさんの雰囲気が

 変わってしまった気がして」


さっきの弾けたような感覚、あれが原因か?


『とてつもない殺気でした。

 しかし、そのおかげで一つ目の覚醒の扉を開いたようですね』


殺気?俺が?

それに覚醒の扉?

またよくわからん言葉が出て来たな。


『私が与えたギフト…

 あなた達に能力と呼ばれているモノは

 自身の強い感情や思いに触れることで、覚醒していくのです。

 その覚醒は三段階ありますが、一気にこの力を受け入れようとすると

 力に飲まれ暴走するか、最悪命を落としてしまいます。

 そのため、最初は力の大部分を、

 持ち主の精神に専用の空間を作り、封印しているのです。

 まぁ、部屋のようなものだとお考え下さい』


その扉が、今俺の中で開いたのか。

確かに何かの感覚はあったが、

……まさかあの事がキッカケになるなんてな。


「あのぉ……」


おずおずとミミは手を上げる。


「私も、その覚醒に至ることは出来るんでしょうか?」


神球は少しの沈黙の後、問いに答えた。


『私が与えた力はどんな能力でも

 等しく覚醒する可能性はあります。

 もちろん、その人の神としての適性や才能、

 多少の運なども絡んでは来ますが……

 どうやらあなたに覚醒は不可能のようです』


その言葉を聞き、ミミは泣きそうな顔になりながら

ガクッと肩を落とす。


『彼の【眷属】となったあなたは、彼が覚醒するたびに

 強化されますので、覚醒は出来ないのです』


「「ん??」」


今なんて言ったんだ?

ミミが、眷属?

誰の?


『見極めしモノは、ある一定の条件を満たしている者の前に現れます。

 そして、あなたを神の器の適性者として選びました。

 彼女は、そんなあなたと、お互いに信頼し合い、共闘し、

 絆が生まれたことで、能力同士が共鳴し眷属となったようです』


眷属か、つまり裏を返せば

神の器としては不適性だったから

相性がよく、適性がある俺の下についたってことだろうか?

そういえば……


「なぁ、神の器ってのは

 そもそもなんなんだ?」


ドラゴンからは、神に成りえる存在がどうのと聞いてはいたが

いまいち的を射ない。


『神の器というのは、私の代わりとなり

 世界を守護することが出来る資格を持つ者のことです。

 覚醒の扉を全て開き、才能を開花させたうえで、

 人格や思考などを含め、私が認めた人間を神の器と呼びます』


そういうことか。

まぁ力だけじゃ神なんて務まらないから、

いろいろ試して見定めようってことか。


『それと……』


神球がさらに続けた。


『人類は元々、私たち神の力をギフトとして分け与えられ

 様々な力を持っていました。

 私たちに何があってもいいように、

 あなた達は身代わりとして存在していた。

 つまり神の器とは、真の人類の姿なのです』


突然の話に俺は、さっき以上に頭が混乱していた。

そんなことはお構いなしに神球は続ける。


『ですが私は、その身代わりのシステムが嫌で

 全ての人類から力を回収しました。

 しかし、邪神のせいで、力を持たなければ

 生きていくことすら難しい世界になってしまった……

 私の力が及ばないばかりに、すみません』


あまりにもぶっ飛んだ話で、

まだ、全てを信じることも、受け入れることも出来ない。

だが、これだけは言える。


「あんたは俺たちのことを思って

 力……ギフト、だっけ?を回収してくれたんだろ?

 そんな奴隷みたいな状態から救い出してくれたんだ、

 まだ、信じることも受け入れることも出来ないが

 そこは感謝するよ。

 ありがとな」


俺の言葉に、神球は驚き、目を見開いてい…るように見えた。

金髪で美しい、白いローブを纏った女性が

球体に重なって見えた気がしたが、

とても優しい微笑みを残して見えなくなった。

幻だったのだろうか?


俺は目を擦り、もう一度、神球を見直す。


うん、ちゃんと球体だ。

疲れてるんだな、うん。

ドラゴンと戦った後だし。


『いいえ、こちらこそありがとう。

 あなたに出会えて救われました』


そう答えた神球。

ミミは俺の横で顔を赤くしながら

「マサトさんの眷属、信頼、絆……えへへへっ」

と繰り返している。


まぁ、ミミの場合はいろいろあったし

信頼とか絆が出来るって、嬉しくなるよな。

眷属は、もう言葉がカッコいいし、気持ちはわかる。

でも、俺なんかの眷属で申し訳ない。


俺はミミに向けて心の中で謝罪をした。

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