核融合
@hakuto-
核融合
6月になると、流石に雨の日が増えてくる。うっすらと白い雲から細かい雨が降ってくる、ちょっと鬱陶しい天気が続いていた。こういう季節は気分が落ち込むもので、かくいう私も堕落的な日々を送っていた。何となく、何もやる気が起きなかったのである。私を心配した級友からの連絡も暫くは続いたが、無視を通した結果、最近はすっかりご無沙汰になっていた。
ただ、週単位で外に出ないのは体によろしくないと思い、晴れた日には外に出ることにした。級友には何も伝えなかった。初めのうちは当てもなく2〜30分歩くだけだったが、ある日、公園で遊ぶ子供たちの姿を見つけた。その空間に、私は妙に惹きつけられた。子供たちの声で騒がしいはずの公園が、静かに感じられたのである。私は近くのベンチに腰掛け、実に1時間、子供たちの姿を眺めていた。静かだった。
帰ってふと携帯を確認すると、級友からの連絡が溜まっていた。安否確認の連絡がなくなった代わりに、友達と遊びに行ったであろう写真が大量に送信されていた。どれも見事な笑顔である。私は簡単な返事を返し、すぐに風呂に入って眠りに落ちた。級友は、私が学校に来ることを期待していないらしい。良い友達を持ったものだ、と思った。
そこから暫く、私の生活は変わらなかった。昼頃に起き、晴れていたら外に出て公園に行く、雨が降っていたら寝る。つまらない生活ではあるが、私には晴れの日が楽しみで仕方なかった。雨は、まだ止まないらしい。
目が覚めた。携帯電話を見ると、級友からの連絡がまた大量に届いていた。一旦放っておいて、いつものように天気予報を確認する。今日は晴れの予報らしい。急いで外を見た。暗かった。うるさかった。いや、明るいのかもしれない。意味が分からない。ふと目に留まった電子時計には、「20:52」の文字が映し出されていた。時の流れは川のようである。晴れの予報だったので、いつものように外へ出た。音が大きくなる。ただ、明るくなった。私の中の不安が、一気に掻き立てられた。
一目散に公園へ向かった。なぜか体が重くなってくる。心臓が口から吐瀉物として出てきそうだった。しかし、苦しみながらでも走っていれば、着くまでにそう時間はかからなかった。息の上がり切った体を落ち着かせながら公園へ入ろうとした時、私の目は大柄な男三人を認めた。私の足は完全に止まった。騒がしかった。間違いなく眩しかった。男達はどうやら、煙草を吸っているようだった。その煙が、濁った黒い空と同化していく。私はゆらりと帰路に就いた。
家に着いた。私は縋るように携帯を見た。級友からの連絡は、前と変わらず笑顔の写真だった。私は堪えきれず、泣きながら
「会いたい」
とメッセージを送信した。すぐに後悔したが、取り消すまえに意識が潰えた。
また目が覚めた。時計を確認する。7:41。携帯を確認する。メッセージに、「既読」の文字を見つけた。視界が真っ暗になる。窓を開けた。ベランダを飛び越える。足を引っ掛け、よろけて頭から落ちる。最悪の気分だ。晴れた空が、柔らかく目に染みる。そして、私の意識は潰えた。
核融合 @hakuto-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます