僕と彼女が仲良くなったキッカケ3

 「いつもお疲れ様です。今から焼却するので少々お待ちください」

 「私は外で吸ってるから、ミツとハジで木札を貰っといてくれ」

 「分かりました。シィーさん、僕もいつもの場所で待ってますね」

 けだるそうにレイさんが外に出ると、休憩場所に向かう僕にハジさんが小声で木札の事を聞いてきた。

 「木札ってのは焼却証明ですよ。これが無いと給料が出ないので一番大事な物です。他に何か聞きたい事はありますか?」

 「火葬場ってイメージより綺麗ですけど、出来てからまだ新しいんですか。他の場所は話に聞いた通りの状態でしたけど」

 「ああ、ハジさんって取材か何かでここに来たんでしたっけ。そうですね、火葬場自体は古いんですけど、火葬する設備を付ける時にボロイ所は直したので新しく見えるのはその所為ですね」

 暑い日の作業のときは、冷えていないただの水でも美味しいと感じる。

 休憩場所に着く頃には、火葬が始まり煙が見えた。神様なんて信じていないし、知らない人が燃えているだけだから何も思うところは無い。ただいつの間にか、仕事終わりにその煙を見るのが日課になっていた。

 「——さん、ミツさん!」

 「ッ1? ...え、ええと、すみません。何ですか?」

 いけない、いけない。日課をしている時はいつもボーっとしているから、ハジさんの存在を忘れていた。

 「火葬し終えたら、木札を受け取って仕事は終わりなんですか? 遺骨はどうしているんですか?」

 「木札は仕事を終えた証明ですけど、遺骨は僕らで捨てています。流れは遺骨を捨てる、木札を所長に渡すの順番ですね」

 「捨てるって、お墓とかは無いんですか?」

 質問ばっかり受けるのは疲れるな。自分から質問があるかを聞いたけど、長い会話が苦手な自分にはそろそろ苦痛だ。

 「その様な土地はこの街に無いですよ。足し引きで人口こそ増えませんが、それでも土地を無駄に使う余裕はこの街には無いですし、元々適当な場所に土葬する文化でしたからね」

 シィーさんありがとうございます。

 「貴方、最近来た方ですよね。あんまり外の常識を考え無しに言うのは止めといた方が良いですよ。新参者って公言している様なものですからね」

 「もう終わったんですか? 普段よりも早いですね」

 普段は去り人が燃え尽きるまで、仮眠出来る程度の時間はあったはずだ。

 「今回の去り人はかなり燃えやすい方みたいですね。もしかしたら遅死病だったのかもしれませんね」

 「あー、そういうの久々ですね」

 遅死病は死んでるのに生きてる様に動くだけで、肉体の劣化は進んでいる。見ても分からないが、この状態になったら肉体は様々な損傷に弱くなるらしい。だから良く燃えるとレイさんに聞いた事がある。

 「あの...遅死病って、最近はもう出ないんじゃないんですか?」

 「違いますよ。症状として明確に出た人間がいないだけで、死ぬ時にこの病気になっている可能性はありますよ」

 「まあまあミツ君、世間話はこの辺りにして、そろそろ下に戻りましょうか。この街にいればその内大体の事は知れますからね」

 日が落ち始め、そろそろ夜の時間だ。去り人が直ぐに燃え終わったのが幸いだったなと思う。レイさんの機嫌が悪くなる前に給料を受け取れる。


——


 「よーし、今日はこれで解散だ。お前らスリには気を付けろよな」

 「レイさんも飲み過ぎには気を付けてくださいよ。前みたいにレイさん抜きで仕事はしたくないので」

 「あいよー」

 早く飲みたいのだろう。レイさんは急ぎ足で飲み屋へと向かった。

 「ハジさんも今日はお疲れ様です。明日は休みですし、ゆっくりと街を観光してください。明後日は今日と同じ時間に集合するので遅れないでくださいね」

「分かりました。では...お疲れ様でした」

 ハジさんは宿屋の方へと疲れた足を向けた。移住し始めた人間と、一時滞在している人間が主に使う宿屋だけど、ハジさんはボッタくりの宿に泊まっていない事くらいは祈っておくか。まあ殆どはぼったくり宿だから無駄だろうけど。

 ハジさんを見届けた僕は帰路についた。

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彼女の骨、灰の味 りんご飴 @AppleCandyPP

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