僕と彼女が仲良くなったキッカケ2

 毎月買い替えを申請している限界寸前の台車に去り人を乗せると、ハジさんはスプレーを取り出し全身に吹きかけた。

 それを見たレイさんは頭を叩き、水筒を取り出し3人分のコップに注ぎ入れ配る。中身は掃除人の必須品である酒だ。

 「掃除を終えたら、先に酒で清めるんだよ」

 「僕今...飲める体調じゃないんですが......」

 「ハジさん、これは掃除人の決まり事だから飲まないと——」

 「飲まねぇと金は出ねぇぞ」

 僕の言葉を遮って、レイさんが被せてきた。金が貰えないと生きていけないのは、この街も外と同じだ。諦めたハジさんは酒を口に入れるが、顔を盛大にゆがめる。アルコールと塩と変な苦みを合わせた不味い酒なのでしょうがない。

 清めを終えた僕らは、レイさんを先頭にして台車を進めた。目指す先は火葬場。この街で数少ない上位の仕事場だ。


 ——

 

「押しが弱ぇぞ。もっとしっかり押せよな」

 想定よりも遅くなった——まあいつも通りの僕らは普段通りの道順で進んだ。

「...僕らがここを通るのは大丈夫なんですか?」

「大丈夫ではないですね」

 腐り落ちて、看板だった物の下を進み”商店通り”に入る。道行く人が道を開けるので、狭い通りでもギリギリ不便なく台車を押せた。ただ道が開く理由は、親切や譲り合いなどではない。

「おいおいっ、もう通るなって何度も言っただろ!! あんたらが通るたびにうちらの売り物に臭いが付くだろうが!!!」

 当然の主張が僕らに跳んできた。火葬場に一番近い道とはいえ、去り人を運んでいる僕らは慣れたけどそうではない人間にはキツイ臭いなのだろう。

「うるせぇなぁ。私らも仕事なんだから諦めろよ」

 面倒くさいと言わんばかりに、レイさんは手を払う動作をする。

「第一、臭いが移らないようにするなり、工夫は幾らでも出来るだろうよ。それをする前に他人に指図するのは傲慢なんじゃないのかい?」

 僕もそれはそうだと思う。「ならそっちもしろよ」の様な事を言う店主を無視して僕らは押し進んだ。

「——良いんですか? あのまま通ってしまって......」

 「良い悪いの前に、この街では掃除人の仕事を邪魔するのはダメなんですよ」

 地位は低いし、嫌悪されるのに何故か仕事中の掃除人を妨害するのはダメだとされている。新入りが移住したら真っ先教わるし、それを破った人間は思い罰を与えられるとされている。直接見たことは無いが、過去には何人か罰せられた奴はいるらしい。

「それは僕も教わりましたけど、常識というかマナーじゃないんですか? 人の邪魔をしてはいけない的な?」

 緩めの坂道に入り、僕らは一層力を入れた。ここで押す力を強くしないとレイさんが怒るので、熱い身体を鼓舞する。

「この街で一番上の地位にいるのが火葬場なのは誰かに聞きましたか?」

「所長さんに失礼しない様に言われました」

「遅死病の人が沢山居た頃に、火葬場が出来たんですよ。死んでも放置していたのを、きちんと燃やす事で遅死病になる去り人を減らすって言う目的のために」

 つまりはその火葬場が仕事をする為に僕ら掃除人がいる訳で、だからこそ邪魔をするのは絶対してはいけないのだ。

「なるほど...」

 慣れた僕は感覚で分かったが、レイさんが僕らに言葉を投げた。

「お前ら無駄話は終わりだ。火葬場に着くぞ」

 これで今日の仕事は終わりだ。

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