僕と彼女が仲良くなったキッカケ 1
「今日はここの掃除だ」
アパート前で集まった僕たちに向かって、男っぽい見た目のレイさんが言った。
「また随分とボロいアパートですね。他に住民っているんですか?」
僕より後に掃除人になった後輩のハジがレイさんに聞き返す。レイさんは指を一本立てて返す。
「大家一人だな。それ以外の住民はいねぇって話だ」
「今回はその最後の住民の掃除ってことですか?」
僕の質問にレイさんは指で丸を作った。
「そうだ。大家が言うには、2週間は会って無いらしい。遅死病の心配もあるし、さっさと片すぞ」
「遅死病って僕見た事無いんですけど、本当に実在するんですか? 都市伝説的な...」
「ああぁ、そう言えばここ最近は見てないな。私もフタツとミツとの3人で見た時以来だし、即火葬する様になった今だと知らない奴の方が増えたか」
『遅死病』とはこのゴミ捨て場の街で度度起きる現象の事だ。致死に達する怪我を負っても、直ぐには死なない人が少しの間だけ生きてる様に動ける病気らしい。動ける期間は個人差があるが、身体が動けなくなるまで──要は腐り落ちるまでの間。
「ミツは最近見たか?」
「僕もあの時以来無いですよ。掃除屋の僕らでコレなら、遅死病の人を最近見た人はいないかもですね」
「そうなんですか...」
世間話もそこそこに、僕らは以来の部屋に着いた。
「よーしお前ら。仕事開始だぞ」
レイさんは愛用の手袋を着けると同時に、ドアを勢いよく開けた。
──
「…大丈夫ですか?」
アパート近くのベンチでうな垂れながらハジさんは水を受け取り、僕に答える。
「大丈夫…ですハイ。一応は......」
「ミツ、ソイツを甘やかすな。あの程度の現場、この街じゃ珍しく無いんだからよ」
レイさんはハジさんを睨み付けながら、そう言った。確かにこの街では珍しくもない状態の部屋ではあったが、今回は熱気と湿気が特に酷く、正直な話僕自身もきつかった。
「ハジさんはレイさん程の経験者では無いんですから、しょうがないですよ」
「んな事言ったらいつまでもコイツは成長しねぇよ。こう言うのはさっさと慣らすに限るし、慣れなきゃ掃除人なんて務まんねぇからな」
レイさんは汗を拭きながら、タバコを吸い始めた。僕とレイさんの会話中も、ハジさんはうな垂れっぱなしで動く気配が無かった。
「ったく、これじゃあ火葬場に間に合わないし、ミツと私だけで今回は終わらすぞ」
「分かりました」
タバコを吸い切るのを待ってから、僕らはもう一度現場に向かった。
「改めて見ると、見た目の割に部屋自体は良いですねここ」
部屋は二つに、シャワーだけだが風呂場もある。この街基準なら、相当上位に入る類の部屋だ。それだけに、最期の住民なのが不思議でもある。
「考え事は後回しな。今日は夜飲みに行く予定だから、さっさと終わらせたいんだよ」
去り人を入れる為の袋を広げて、レイさんがテキパキと終い入れる。一人で何年も掃除人をしてるベテランだけあって仕事に無感情で早い人だ。
「ミツ、ハジを叩き起こせ」
袋を縛り終えると、レイさんはハジさんを指差す。人間一人を階段で運ぶのに、二人だと大変だからだろう。
(今日の酒代の足しも探したいんだろうな)
酒飲みで有名なレイさんの為に少しゆっくりと向かう。
ハジさんは未だにうな垂れていた。
「レイさんが呼んでますよ。......具合は大丈夫ですか?」
「...ああ、ハイ大丈夫でぅ......」
深呼吸を繰り返しながら、立ち上がったハジさんと共に部屋に戻った。
「よし3人でさっさと運ぶぞ。ハジは足の方を持て」
「......分か、ました」
持ちにくそうに膝の辺りを持ったのを支えるように、僕は腰を触る。柔らかくなった肉の感触はやっぱり気持ちが悪く、早く台車にのせたいと思う。
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