第6話

「先輩、ここ…」

魔窟って…

「そ、私の魔窟。」

連れてこられたのは、榊公園の階段を登った先。

「さっきの神社の宿舎じゃないですか!」

「そ。さぁ、もう一回入るわよ。」

そう言って、インターホンを三回も押した。押しすぎでしょうが。

そうつっこもうとしたその時。

「どーぞ」と、さっきの女の人とは違う、少女ぐらいの声が聞こえてきた。

 あれ?娘さんかな?

「君たち、私の言う通りに動くんだよ。でないと、超怒られるから。」

先輩は俺たちを見てにっこり笑った。怒るって、あの緑子さんが?ないない。俺とルーパス君は顔を見合わせて、首を傾げ、どういう事だ?そんな疑問を抱きながら、玄関に入った。

「まずは、君…桜真君。必ず靴を揃えて、あの壁際に寄せて置いて。ほら、そこにスイッチみたいなのがあるでしょ、その上に置くのよ。」

 俺は言われた通りに置いた。すると、カチッと音がして、俺の靴が、奈落の仕組みで下に沈んで行った。

「え、俺の靴!」

「大丈夫よ。別の場所に移っただけだから。さて、次はルーパス。そこの靴棚を開けて、今度はど真ん中にあるウサギの置物を退けて、そこに普通に靴を置いて。」

ルーパス君は何が何だかって感じだった。けど、先輩が怖かったのか、素直に従って置物を退けて、靴を置いた。

 すると、今度は、戸棚の後ろから、ロボットアームみたいなのが出てきて、靴を持っていった。最後に先輩が俺が最初ここで見つけたウサギの置物をぐるっと一回転させて、靴をウサギの左どなりに置く、すると、ルーパスと同じように持っていかれた。

 いや、なんなんだ一体…めっちゃかっこいい。これを作った人と友達になれそう。

 そんなことを考えていると、突然ガガガッと地響きみたいな音が聞こえた。

「うわ、地震!?」

俺とルーパス君とでびっくりしていたが、その音が止むと、気にしていないように、先輩はこう言った。

「ついてきて。こっちよ」

そういった方向を見ると、ただの壁。そして、先輩はそのまま真っ直ぐ歩き出して、なんと、壁を貫通した!




「え」

むりむり!何がどうなってんの!?行きたくない!

 しかし、そんな怖がっている俺の事はいざ知らず、ルーパス君は、

「俺は先に行くぞ。」

と、言ってさっさと言ってしまった。凄いなぁ、やっぱスパイってすごい。精神力が半端じゃい。

 異次元すぎて、わけが分からなかったけど、結局、ルーパス君にについて行った。さっき、銃撃戦とか、あんな経験しといてどの口が言ってるんだと思うかもだが、やっぱりちょっと壁を通り抜けるの怖かった。何せ、前が見えないから。通り抜けた先は、奈落の底なんじゃないかなとか思ってしまったのだ。

 そんな不安を心の底に追いやって、いざっ!と踏み込むと 、その先には、なんと…


草原が広がっていて、そこに一軒の小屋が建っていた。




「ちょっと!早くしなよー。」

目の前の光景が信じられなくて、硬直していると、先輩が小屋の前で手を振って、ルーパス君と待っていた。

 急いで駆けつけて、小屋のドアを叩く。すると、ドアの向こう側から、こんな声が聞こえた

「開いてる」




中に入ると、大量の電子機器と、パソコン、地面に散りばめられた資料の中に、ポニーテールでメガネをした俺達と同い年ぐらいの女の子が居た。よく見ると、ムスッとした顔をして先輩を睨んでいる。

「あのさ、常識的に考えてインターホン三回も押すとかありえないから。

にっこり笑って先輩は言い返した。

「あら、あんたにも常識っていう言葉はあったのね。」

「何が言いたい」

「そのまんまの意味よ。というか、そもそもいっつも実験ばっかりで、インターホンの音に気づかないあんたが悪いんでしょ。ちゃんと玄関通ってきただけ感謝してよね。」

女の子はチッと、舌打ちをすると、今気づいたかのように俺とルーパスくんを見て、なにか理解したかのように、ああ、という顔をした。すると、先輩は俺達の方に向き直って、口を開いた。

「えっと、説明遅れたけど、ここは私のシェルター兼、こいつの家よ。」

そういって、女の子のほうを指さした。

「こいつってなんだ。私にはちゃんとした名前がある。それと人を指差すな。お前こそ常識がなってない。」

…ちょっと思ったけど、この二人、なんだか仲悪いのかな?

俺が場を和ませようとあくせくしていると、ポニーテールの女の子は、先輩を見るのをやめてキッとルーパス君を睨みつけながら、こう言った。

「いいか?覚えておけ、特にそこのスパイ。」

ルーパス君はえっという顔になる。

「私の名前は上杉絢音うえすぎあやね。お前の上司になるサディストだ。」

ルーパス君はギョッとしたような顔になる。そりゃそうだろう。たった今会った人で、しかも、自分のことサディストだと言う人に従うことになるということなのだから。

「何言ってるんだよ!俺の上司は生涯ティグリス様…」

そこまで言って、ハッとした顔をして、元々白かった顔が真っ青になった。

 すると、絢音さんは、はぁ、とため息を着いて、頭をかいて話し出した。

「お前、そのボロの出し方でよくスパイで生きてこれたな。ハッキリ言う、お前はスパイに向いていない。私の部下となり、手足となり、働け。」

 ルーパス君は悔しそうに、グッと拳を握りしめた。下を向いていたので、表情は読めなかったけど…絢音さんはそんなルーパス君に追い打ちをかけるかのように、でも、優しい声でこう言った。

「そのティグリスとやらより素晴らしい職場環境を提供するし、それに…いじめもない。」

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アサシンと、探偵と? 成瀬 比七 @sakura_tyan

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