第5話

風を切るような音の後、後ろから俺と先輩との間に、銀色のクナイみたいなのが飛んできた。と思う前に先輩が俺を突き飛ばし、姿勢を低くして、攻撃の体制をとる。次のクナイが飛んで来た。先輩はそれを交わすと、俺の手を掴んで、走り出した。

「せ、先輩、どうするんですかぁ!?」

「相手が何者か分からない。君、「見えた?」」

見えたって、まさか知って、

「て、うぁ!」

またクナイが飛んできた。

ここは神社の近くで人通りも少ない。人も呼べない。あぁ、こんなところ歩かなきゃ良かった。泣きそう。

「後輩、ちょっと悪いわね。」

「え、うぁ!」

先輩は俺をお姫様抱っこをして、人間とは思えない脚力で木の上に登って、木づたいに逃げる。

 けれど、そう上手くも行かなかった。相手も強い。俺でもわかる殺気。俺はよく頑張ったと思う。チビらなかっただけ偉い。

「降ろしてー!先輩!むり、怖い死ぬー!」

「死なない!私が生きてる限り!」

すると先輩は、最後の木をつたったところで、俺をおろし、袖から拳銃を出した。

えぇ、なんで持ってるの。

「後輩、私が合図したらあの物陰に隠れて、良いわね?」

「は、はい!」

「…いって!」

全力疾走でブロック塀に隠れた。その瞬間、バンッと発砲音が聞こえた。

俺の頭の中はたった一つ。先輩が人を殺してませんように。




「ったく、で?君はどこの誰?」

「言うかよ!人殺し!」

「あら、へっぴり腰が何イキってんのよ。」

結局、この俺と同い年ぐらいの男の子がクナイを打ってきていたらしい。

 捕まってすぐは、見ていなかったので詳しくは分からない。しかし、俺が発砲音がしたちょっと後に出てきたら、先輩は男の子の手を後ろに回して、絶対に動かないように、グッと縛っているところだった。

 かれこれ十分はこんな感じだ。先輩は呆れ返っていて、はぁ、とため息をついた。

 そしたらとんでもないことを言い出しのだ。

「まぁ、いいわ。知ってるし。どうせなら本人の口から聞こうと思ったけど…」

先輩は男の子を見下ろし、ニヤリと笑った。男の子がギョッとしたような顔になる。

 俺も思わず、聞いてしまった。

「え、先輩、この人誰か知ってるんですか?」

「うん。この子は、ルーパス・ルベライト。リンデア国のスパイ。スパイってたしか、コードネームもあるんだよねー。それもここで言おうか?」

 先輩が言葉を発する度、ルーパス君の顔は青くなって、最終的には、半泣き状態になった。

「せ、先輩、それ以上はやめときましょう?」

先輩は俺をじーっと見たあと、ため息をついて、ルーパス君に向き直った。

「…なんで、なんで知ってるんだ」

ルーパス君は悔しそうに俯いたまま話す。

「教えて欲しかったら、私たちを狙った目的を話す事ね。話はそれからよ。」

そう言うと、先輩はスマホを出してルーパス君を片腕で抑えながら、電話を始めた。

「こちら、鈴。…ん、そう。了解。今から向かうわ。」

先輩は電話を切ると、俺たちに向き直って、こう言った。

「さぁ、行きましょうか。我が魔窟へ」

ま、魔窟?

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