第4話

二日後、先輩と人気のない公園で待ち合わせをした。電車で一駅先の榊公園でだ。国に狙われている先輩のことだから、人気のないところを選ぶとは思った。しかし、この公園とは…。

「やっと、ついたぁ、しっかし、今日は寒いなぁ。」

春先なのに、今日は特別気温が低いみたいだ。 まるで、冬に逆戻りしたような感じがした。

俺は震えながら、先輩が来るまで少し公園を、探索しはじめた。

 ここは、見た目は普通の公園だが、何でも、近くの神社の神主が子供が好きで、みんなが遊びに来てくれるようにと、造った公園らしい。それで、神社にならってか、登る階段がすごく長い。昔はテレビでも、一時期有名になった公園だ。しかし、その有名も長くは続かなかった。俺の母さんが子供の頃、ここの滑り台から子供が一人落ちて亡くなった様なのだ。それから、すっかり寂れてしまったと、小さい頃母さんが言っていた。

 俺は、そう言うのは苦手なので、滑り台から一番遠い、階段の傍で先輩を待った。

「うぅ、寒いし、怖いし、先輩早く来て…」

「はいほーい、よんだ?」

んぎゃー!!

俺は本当に驚くと、息を飲んでしまうことを今日学んだ。

「あはは!何よ〜その顔!化け物でも見たみたいな顔じゃない。なに?私の顔そんなに変なのか?このやろー」

「な、なんだ先輩かぁ。」

もう、本当ににびっくりして、心臓止まるところだった…

先輩は俺の驚く顔を見て、ふふふっと笑っている。俺はそんな先輩に見とれていた。

 やっぱり先輩は本当に絵になる。言葉遣いはちょっとアレだけど、漆黒のツヤツヤした、黒髪のショートヘアに、澄んだ色をした目。寒さによらず、ほんのりピンクになったほっぺたは、ちょっと触りたくなるほど。綺麗な真っ白い肌は、雪の精霊のようだ。笑うと、一段と美少女の輝きを増す。

 そんな先輩と関わることになるなんて…本当に思いもしなかったな。しかし、こんなに目立って大丈夫なのだろうか、先輩は、自身の美貌を理解しているのだろうか。

 しんみり物思いにふけっていると、先輩が、俺の顔を覗き込んで、パチンっと目の前で、指を鳴らした。

「こら、目を覚まして。今日は事情聴取なんだから。」

そう、今日は事情聴取、もちろんアポはない。

 俺たちは、先輩が集めた情報をもとに、関係がありそうな人物を搾ったところ、なんと、この公園の所有者である神主が関係していることが分かったのだ。俺はしっかり身なりを整えて、緊張しながら、神主のいる宿舎に向かった。

 公園を通り、ゲートをぬけて、宿舎の前に着くと、先輩は小声でこういった。

「さぁ、入る前にひとつ約束よ。私を呼ぶ時は絶対に私を名前で呼ばないこと。私を呼ぶ時は福原さんって呼んで。」

え?どうして?

「なぜなら、どこで奴らが目を光らせてるか分からないから。じゃあ、いくわよ。」



インターホンを鳴らす。すると、直ぐに出てくれた。

「はい」

「すみません。関内高校の生徒なんですけど、日本史の授業で、神社について調べることになったんです。少し、お話伺ってもよろしいでしょうか?」

先輩がそう言うと、インターホンが切れて、少しして玄関から、くたびれたシャツを着た細身の女の人が出てきた。

「いらっしゃい。どうぞ。」

「ありがとうございます。私は福原 サナです。失礼します」

「僕は内藤 桜真です。失礼します」

中に入ってみると、神社の宿舎らしく、色々な仏具が置いてあった。

 だけど、その中に一つだけ、違和感のある置物があった。赤い目をしたウサギの置物だ。しかも隠れるように。きっと部屋の雰囲気に合わないから、隠すようにおいてるんだろうな。その時は何気なく、通り過ぎた。

「ごめんなさいね、急だったから何も出せないけど…ゆっくりしてってね。私は榊 緑さかき みどりこ子よ。」

「いえいえ、急に来たのに、ありがとうございます。緑子さん」

「いいのよ。さぁ座って。神社について知りたいのよね?聞きたいことは何かしら?」

先輩は、にっこり笑ってサラサラと言葉を並べる。

「はい、ここの神社って平安時代から続く、歴史ある神社なんですよね?建てたのはたしか、由緒ある御屋敷のお嬢様だったとか。名前はそう、舞姫。」

おぉ、さすが先輩ちゃんと調べてきたのか。この一日で…すごいなぁ。

「あらあら、ふふ、ありがとう。ちゃんと調べてきてくれたのね。そうよ。ここは平安時代から続く由緒正しきお家のもとで建てられた神社よ。舞姫は凄く可愛らしい人だったと聞いているわ。それこそ、あなたのようにね。」

先輩はそれを聞いて、素晴らしい笑顔でにっこり笑った。

「ありがとうこざいます。それでなんですけど、舞姫のお父様はどんな人だったのですか?」

「んー、そうね。厳格な人だったと聞いているわ。それこそ、マナーには厳しかったみたい。お箸の持つ位置が間違っていたら、お箸で手を叩くぐらいにはねぇ。でも、昭和もそんな感じだったわよ。ほんと、最近になってだいぶ生きやすい世の中になったと思うわ。」


「なるほど、厳しい人…となると、舞姫のお父様は絶対に悪いことはしなかったんでしょうね。」

「それがねぇ、そうでも無いみたいなの。」

えっ、

「実はこの神社、そのお父様が悪いことに手を出した後、輩に殺されて、その供養のために建てられた神社らしいの。しかも、その悪いことっていうのが、とある人と手を組んで人を神隠しに見せかけて、さらったとか。」

えぇ、やはり厳格な人でもとち狂ってしまうことはあるみたいだ。しかも、人さらいとか…やだな。

「へぇ、興味深い話ですね。なら、そのさらわれた人達はどこに行ったんでしょう?もしかして、実験とか?」

「きになるわよね。でも、そこまでは分からないわ。それに、家に代々伝わる話ではあっても、そんな大それた話、信じる人なんていなかったしね。私も、子供の頃聞いた話を覚えていただけで。」

「なるほど、ちなみにその人って誰だったのか思い出せますか?」

「えっと、たしか…一昨年なくなったのよ。千歳 亮平さん。八十一歳で。」

ふむふむ。俺は頷くが、ぶっちゃけどういう経緯で話が進んでいるのか全く見えない。ただ、面白い話だなーって程度に、メモを摂る。しかし、この女の人、すごく話しやすい。身内と話しているような感覚になる。

「あ、でも、そのお孫さんならまだ生きてるわ。たしか、その話をこっそり聞いた時、その人もいたはずよ。千歳 哲也さん。イケメンだったのよー。」

「あの、その人の連絡先を教えてもらうことって、できますか?」

「ええ、できるわ。えっと、これよ。」

そういって分厚い電話帳を出してきた。

「内藤くん。これメモって。」

「あ、はい」

俺は電話番号と住所をメモに取った。まあ、特にこんなことしなくても、俺は暗記できるのだけれど…俺のこの能力はまだ秘密にしておきたい。



「ありがとうございました。たくさんお話が聞けてよかったです!」

先輩がお辞儀をしたので、俺も、お辞儀をして、お礼を言った。

「いいのよ〜。私も若い子たちとお話できてよかったわ。」

本当に優しい人だ。俺達が見えなくなる最後まで、手を振ってくれた。

しばらく歩いて、先輩に、今日の事情聴取はどう言う経緯だったのか聞いてみようとした。

「先輩、色々聞けてよかったですね。」

俺が次の言葉を言おうとした次の瞬間。

「しっ、誰かに付けられてる、絶対に振り向かないで。そのまま歩いて。」

ぎょぇ、俺は先輩に言われた通りに振り向かず、怖くて、引っ付いて歩いた。なるべく怪しくないように。あぁ、早く終わって、どっか行ってよ、ストーカー!

「くる、」

え、

その瞬間、風を切るような音がした。

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