第3話
そして、その日の下校中。
夏樹は、サッカー部なので今日も俺一人で、ぼんやりと家へ帰っていた。
あのあと、夏樹と一言も喋らずキツネにつままれたような気分で、教室に入った。
ちなみに、行平先生は学校での喫煙がバレたわけではなく、全校集会に連絡もせずに遅れてくるとは、何事か。と、校長に怒られたらしい。それもあってか、先生は俺達が遅れてきたのを何も言わなかった。というか、怒る気力がなかったんだと思う。すっごくしょんぼりしていて、生徒に慰められていた。
しかし…本当についさっきまで起こっていた出来事とは思えないほど、現実味を帯びていない出来事だった。先輩のあの言葉も、何故、時間がずれていたのかも、何もかも気になって仕方ない。
しかし、警察も
だから、今日のことは忘れて、寝てしまおう。明日になったら何事もなく一日が始まっているはずだ。
そう言い聞かせて、家に帰ったんだ。
「なんで!?なんでいるんですか!?先輩!」
「うるさいなぁ、もう夜だよ?お邪魔しますって、ちゃんとお母様には言ったよー。」
いや、そーゆー問題ではない!
「先輩、警察に、むぐっ」
「あら、そーなの。ごめんあそばせ〜。」
なんと、帰ってきたら、警察に捕まったはずの先輩が、制服のまま、俺ん家のベッドでポテチ食べてました。そんで、ポテチ口に突っ込まれました。なんて言ったら、誰が信じるだろう。
「むご、もぐ」
バリバリとポテチを噛み砕く俺を、先輩はおもしろそうに見てニコニコしている。美人の微笑だ。ちょっとほだされそう。そんなことを考えていると、
「あらー、仲良しさんね。まさか桜真が女の子を連れれくるなんて・・明日は雨かしら?それともケーキが降ってきたりしてっ。ふふ。なーんて、今日はスーパーで特売だったケーキ買ってきたの。折角だから食べて」
なんて言いながら、俺の部屋に母さんがバーンと入ってきた。
あっぶねえ、危うく本気でほだされそうだった。母さんありがとう!神!
母さんは嬉しそうに、先輩の前にケーキを置いた。
「わあ、ありがとうございます!」
「いいのよ、泉さん。これからもサクちゃんと仲良くしてあげてね。」
ぎゃわぁーー!
「母さん!サクちゃんはやめろっていつも言ってんだろ!」
前言撤回!神ではない!恥ずかしすぎて顔から火が出そう。
「じゃあねー。ごゆっくり」鼻歌を歌いながら母さんは出ていった。
静になると、俺は今しかないと思い、
「先輩!なんでうちにいるんですか?それと、今朝のは一体何だったんですか?」
早く答えが聞きたくて、めちゃめちゃに、まくしたてて切り出した。
「まあまあ、落ち着きなよ。心配しなくてもちゃんと話すから、その前に、」
先輩はそう言うと、俺の前に、先輩の分のチョコレートケーキを差し出した。
「はい、どうぞ。お邪魔したお礼に。」
「え、いいんですか?」
「うん。さっさと食べて。」
先輩は、なんというか、俺にあげたい言うよりかは、ここからケーキが消えてほしいみたいだ。
「ありがとうございます。あ、」
「なによ」
「まさか毒とか入ってませんよね?」
「あるわけないだろ。さっさと食べて。」
そんなきつく言わなくてもいいではないか、一応こっちだって疑わないと、怖いのだ。容疑者だし。
というか、先輩ところどころ口調が・・・
「口調が変っておもったでしょ。」
「…エスパーですか?」
「…表情よ。だいたい分かるの。」
ふーん。と、思いながら、ケーキをほうばる。美味しい。
ケーキを食べ終わって、落ち着いたので正座をして先輩に向き直る。そしてやっと質問タイムが始まった。
「それでは、1つ目の質問です。何故先輩はここに?」
「君に頼み事があったからよ。あ、ちなみに長居はしないわ。心配しないで。」
ほうほう、
「では2つ目。なぜ今朝、逮捕されたんです?」
「ちょっといざこざがあって、それに巻き込まれたって感じね。まったく、嫌になるわ、私は容疑者扱いよ。」
えぇ…それって…
「あの、大丈夫なんですか?こんな所にいて、捕まりません?」
こう聞くと、先輩はきょとんとした後、ケラケラと笑い出した。
「あなたねぇ…くっははっ!おっかしいぃー。私の心配より、自分の心配したらどう?犯罪者の目の前にいるのよ?しかも殺人犯かもしれないのに。」
あぁ、それは、
「全く気にしてないです。」
「え?」
「だって先輩、俺を殺す瞬間なんていくらでもあったのに、手を出さなかったじゃないですか。」
そう、ケーキを食べているときとか、今朝の疲れてクタクタのとき、とか。
その言葉を聞いて、先輩はニヤリと笑った。すごく綺麗で妖艶な笑みで。
「なるほどねぇ、やっぱり、君を選んで正解だった。ちょっとカッとなる所はあるけど、そこは御愛嬌よね。」
「えっと…」
「単刀直入に言うわ。私の協力者になって欲しいの。もちろん断っても構わないわ。でも、この話を聞いてから判断して。」
先輩は、淡々と、今まで起こったことを話してくれた。凄く衝撃だった。その一言では片付けられないほど。
「私、普通とは違う形で、国の保護下に生まれたの。だけど、生まれて直ぐに職業に就いた。殺し屋としてね。その過程で、少し…いざこざがあってね、私は国を裏切って、とある情報を持って逃げ出した。彼らは、それを私がいつばらまかくか、気が気じゃないのね。だから、」
「ちょ、ちょっと待って!」
さすがにキャパオーバーだった。今日は情報量が多い。国?殺し屋?裏切り?わけがわからない。
「なあに?質問があれば挙手を。」
先輩はいつもの優しい先輩になって、微笑んで俺の手を指さした。
「はい、えっと、まず、殺し屋って、あの、映画でよく見る、アサシン的なやつですか?」
「んー、そうなのかな?私、映画見た事ないからわかんないけど。私は基本的に、国から依頼された任務をこなす。相手を殺すことでね。ま、だから、人殺しに変わりはないわ。」
ふむ、つまり、今までは国の保護可にいたから、犯罪という範囲からは免れてきただけということか。
「な、なるほど、では、裏切りって…どうして裏切ったんですか?」
そう聞くと、先輩は黙ってしまった。
「あの、先輩、答えるの無理にとは…」
「いいえ、これから危険なことに巻き込むのに、私が何も話さないんじゃ、礼儀になってないわ、それに聞かれることはわかっていたし。」
先輩…でも、ならどうして、そんな顔をするんですか?
聞きたかったが、先輩の苦しそうな表情を見ていると、何も聞けなかった。
しかし、先輩はやっと顔を上げ、俺をじっと見つめると、こういった。
「私が国を裏切った理由は、国が私の両親を自殺に見せ掛けて、殺したから。」
え、そんな…
先輩は続けてこう言った。
「私は、小さい頃から、父と母は自殺したと聞かされていたわ。でも、それは間違いだった。私は国から依頼されたとある任務で、当時の父と母を知る人物と関わることになった。その結果。明らかに矛盾していたのよ。国とその人の言葉が。」
先輩はグッと下唇を噛み締めて、また俯いた。
「それで私、今まで信じてきたことが嘘だったんだって思って、全部の証拠をかき集めて、国にどういうことだって言ったの。そうしたらなんて言ったと思う?」
俺はじっと先輩を見つめる。先輩は自嘲したまま言葉を続けた。
「しらない、そんなことは。もう終わったことだ。忘れろって。」
なんて残酷な言葉だろう。実の親が、信頼してきた相手に殺されたことが証明されて、先輩は勇気を出して言葉にしたのに…全て無かったことにされたのだ。
先輩が震えていた。だから、俺は泣いているのかと思い、肩をさすってあげようかと、オドオドしていると、先輩はガバッと顔を上げて、
「だから、私、言ってやったの。これを無かったことにするなら、あんたらの下で働くの辞めてやる!って。で、出てきたの。もー、本当にスッキリしたわ!ずっとアイツらのやり方には腹が立ってたから!」
ガッツポーズをしながら、晴れやかにこう言った。
なんだ、心配して損した。まぁ、なるほど理解はした。
「まぁ、流れで言うと、こんな所ね。他に質問は?」
先輩はさっきの、しんみりした様子と打って変わって、ニコニコ笑いながら俺を見ている。
…先輩って思ってたより、お淑やかでは無いのかも、お転婆とはちょっと違うけど、表情豊かな人なんだなぁ。ペースがハードすぎてちょっとしんどいけど。
「それと今朝、警察が来た理由って何か関係があるんですか?」
「あるよ。話すと長くなるけど。」
「いいです。知りたいです。」
俺は早く知りたくてグッと先輩に、顔を近づけた。
「はいはい、分かった分かった。あのね、君、毎回親友君と遅刻してくるでしょ?あのーなんだっけ、夏樹くん?」
「そうですね。」
「それを利用して、あの、警察の格好をした、国から派遣された殺し屋たちを、ちょっと嵌めようと思ったの。」
え??俺は、全く意味が分からず、すごく間抜けな顔をしていたと思う。
「訳が分からないって顔ね。まぁ、聞いて」
あ、やっぱりバレたか。ちょっと恥ずかしい。
先輩は、一人恥ずかしがっている俺を置いて、顔を見て比較的ゆっくり話し始めた。
「まず、私は、国の下から逃れて身を隠していたの、そうしたら、ある匿名の手紙が私の隠れ家届いたの。これよ。」
そう言うと、先輩はカバンから一枚の紙を取り出した。そして、机の上に置く。見た感じ、何ら変わりない封筒だった。
「さわってもいいんですか?」
「ええ、もちろん。指紋も一応調べたけど、何もついてなかったし。」
僕は!封筒から、1枚の髪を出した。それは、普通の紙に新聞文字を貼っている、刑事ドラマで、よくある予告文のようなものだった。ただ、いくら読んでも意味がわからない。内容はこうだ。
『2 EP tnl現れ。tnly』
EPって、体育ことか?俺は首を傾げていた。すると、先輩が教えてくれた。
「あなたには分からないと思うわ。これは私たち、国専属殺し屋の情報文よ。上から日にち、これは何日後、ね。EPは体育。これは分かるわよね。次にtnl。これは奈良・平安時代、天皇・皇族・貴族のそばに仕えて、雑事を処理する役目の人、
先輩は一息ついてこう言った。
「2日後、体育に現れて、殺し屋があなたを殺す。」
衝撃だった。まさか、先輩が、同じ殺し屋にねらわれていたなんて。でも、同じぐらい違和感もあった。
「あれ?」
「ん?どうした?」
「先輩、体育の時間って…今日は体育の授業無かったじゃないですか。」
先輩は、それを聞いて、じとーっと俺を見た。え、なんだ。ヤバいこと言ったか?オドオドしていると、先輩は、はぁ、とため息をついて説明してくれた。
「あのねぇ、体育の授業はない。ってなると、今日、体育と似た状況になるのはいつだった?」
俺はそこでハッとした。
「全校集会!」
いつも体育館に集合する!
「ビンゴ。まぁ、あとは私があっちの事情を加味して…あ、もしドンパチやってる所に目撃者が出たら、その人も殺さないといけないからね。天地がひっくりかえっても無いけど、皆殺しにならないように私は全校集会が終わったあと、1人で体育館に残ったってわけ。」
そこで、と、先輩は続けた。
「私は、殺し屋達とドンパチする前に、君たちを体育館に連れてきた。」
え、
「…もしかして、時計の時間がズレてたのは先輩が?」
先輩はちょっと苦笑いして、こう言った
「そうよ。朝早く、学校に来て君たちが通るであろう廊下の時計を全て時間をずらした。君達がいつも通り、全校集会のことを忘れて、遅刻してきてくれれば、今まで通り、教室までの道をたどってそのまま体育館に来る手はずだった。そして君たちはいつも通り、遅刻してきてくれた。」
なるほど、それで、時間があんなにズレていたのか…それにしても、今日の俺、遅刻しすぎじゃね?どんだけ寝てたんだ。まぁ、母さんは朝仕事に行ってたし、起きようがなかったとでも言っておこう。
先輩の方に向き直る。
「ま、先生というイレギュラーもあったけど何とかなって良かった〜。中々来なくて、焦ったわよ。」
なるほど。
でも…俺は最後の質問を投げかけた。
「
先輩はうん、と、首を縦にふった。
俺はその仕草に怒りが湧いた。つまりそれは、俺たちが少しでも遅れてきていれば、俺たちは、夏樹は殺されてしまっていたということだ。
「答えは出ました。先輩。絶対に協力者にはなりません。」
「…どうして?」
不思議そうに先輩は俺を見つめる。
俺はそんな先輩に余計に腹が立って、ほぼ叫び声で、こう言った。
「なんでって!?当たり前でしょう。人の命を、なんだと思ってるんですか!?俺たちを男達が、殺してしまうリスクもあったのに!そんなリスクに巻き込む先輩の協力者になんて絶対にならない!なんで、頭いいのに、そんなことも分からないんですか!」
先輩はにっこり笑ってこう言った
「君、勘違いしてるね。」
「は?どこが!つっ」
先輩は手で俺の口を塞いだ。
「落ち着いて、廊下にまで漏れるよ。」
俺は怒りで震えながらも、そこまで子供じゃないと、自分に言い聞かせ、じっと耐えた。
「んー、ごめん。言葉が足りなかったね。君たちは絶対に殺されたりなんてしないよ。なぜなら、これがあるから。」
そう言ってカバンのなから出てきたのは、なにかのスイッチだった。そう、テレビでよく見る、爆弾のスイッチみたいな、
「ま、まさか先輩、爆弾で体育館ごと爆破させる気だったんじゃ。」
「ちゃうっちゅーねん。話を最後まできけい!」先輩はハリセンで俺を叩いた。「痛っ、どこから出したんですか、そのハリセン。そして、何故急に関西弁?」
先輩はむくれ顔で俺を見ている。どうやら少し怒らせてしまったようだ。
でも、ちゃんと続きを話してくれた。
「ったく、これは、火災報知器作動装置。これで、殺し屋たちが来た時に作動すれば、君たちは放送で、体育館に近づいたらダメだってわかるでしょう?まぁ、これが、ほんの昨日起こった火災報知器誤作動事件の原因なんだけどね。」
「なるほど…すみませんでした。怒鳴ってしまって。」
先輩は微笑む。
「いいのよ。私も言葉が足りなかったわ。さて、話の続きよ。そこでよ、貴方には、私の冤罪を晴らす手伝いをして欲しいの。」
先輩はまっすぐ俺の目を見た。
「もう一度聞くわ。君は私の協力者になってくれるの?」
俺は深く頷いた。人の心は単純なものだと思う。何故か、この人なら俺の命を任せても大丈夫。そう思えたのは、きっと、先輩があらゆる手を尽くして、俺たちを守ってくれる体制を取っていてくれたからだ。
「はい。なります。協力者。」
俺はまっすぐ先輩の目を見つめて答えた。
「よ、良かったー!」
先輩は安心したように伸びをした。よっぽど嬉しかったようだ。
でも、俺も命を張るのだ。条件はある。
「ただし、条件があります。」
「ほう、条件とは!」
ずいっと顔を乗り出す。綺麗にととった顔が間近で、ドキドキした。声が出そうなのを押さえ込んで、口を開いた。
「俺の父親の、本当の死因を解明することです。」
それを言うと、先輩はぱぁっと顔が明るくなった。
「もっちのろーん!先輩に任せなさい!」
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