歪みなき弾丸を宿す「鬼」の子


 おこそずきんちゃんシリーズ第一章『さみしい魂』(https://kakuyomu.jp/works/16817330652008276880/episodes/16817330652008314774)において「鉄砲もろくに撃てない」と言われていた金五郎ですが、苦手とかいうレベルではなく何かの呪いかと思うほどです。


 十一歳の金五郎少年。
 この多感な年頃で、理不尽な悪意にさらされ、強い憤りに苛まれている最中のことです。
 ともすれば母親の話は「自分の苦しみをそんなお伽噺で誤魔化すのか」と反発しても不思議ではありません。
 しかし話の内容そのものより語る母の様子を見て「自分よりも母の方が苦しんでいたのだ」と感じ取った、まっすぐな情の深さ。
 感情に素直な性質はそのままに、自他を分けて自分の感情には自分で責任を持つ強さ。

 生まれた家柄、父親の才から周囲が期待されていたものを持たなかった劣等感。
 他人が勝手に期待をして期待外れだからと蔑むのもまた他人の勝手な理不尽であるのに、腐ることなく「それならば自分にできることは何か? 示せるものは何か?」と向き合い、選び、努力を重ね、文字通り命をかけて自身の力を正当に認めさせました。
 それは自分のためだけでなく、自分のせいで中傷を受けていた母のためでもあったかもしれません。

 それを「強い人」だと言うことは簡単です。
 しかし簡単にできることではありません。どうしようもない時は一人になって自分の感情を処理することに徹した金五郎の葛藤や苦しみは表からは見えにくい。
 それでいて明るさ・無邪気さ・情の深さという自身の性質も肯定して受け入れています。


 そうして彼は「でかい子供」のような愛嬌を持ちながら、懐の大きさと責任感、譲れない確かな芯を持ったマタギへと成長しました。

 『さみしい魂』にて、金五郎の父が「マタギの魂は歪みなき鉄砲の玉のようであれ」と解くシーンがあります。
 金五郎は鉄砲の才には恵まれませんでした。
 しかし彼の精神にもまた、歪みなき真円の弾丸が装填されているのです。


 少年時代にこういった経緯を持つ金五郎は、本編おこそずきんちゃんシリーズにおいては主人公・銀作の父親として登場します。
 父親であり立派なマタギとなった金五郎が第一章『さみしい魂』(https://kakuyomu.jp/works/16817330652008276880/episodes/16817330652008314774)にてどのような活躍をするのか? 是非、こちらもご覧ください。金五郎の「歪みなき弾丸の魂」に痺れます。




 さて、以下は完全に蛇足&ナンセンスな内容ですが、ネタバレの場ついで(?)に夢の中の話で少し考えてみたこと。

 「金の瓢箪」で真っ先に思い浮かんだのが豊臣秀吉の馬印である金の千成瓢箪ですが。
 昔から瓢箪は魔除けや無病息災、商売繁盛の縁起物の象徴として扱われていました。そして「子孫繁栄」の縁起物でもあります。
 金五郎は病弱な妻を娶り、子はたった一人だけです。そして後添いを迎える気は全く無いとのこと。

 とはいえ夢の話が本当のことかつそれが(呪いレベルの鉄砲の腕のように)影響していたとしても、夢が作り話だったり何の影響もなかったとしても、金五郎はセツという女性を選んでいたことでしょう。彼はそういう男です。
 作者の方がどういった意図で象徴としたかは不明ですし、蛇足すぎる話を失礼しました。
 むしろ「こんな話はナンセンス」と言い切れるあたりが金五郎らしい安心感がありますね。