第1話

「最低な春は、何度も来る」

その歌詞が常に頭の中で繰り返す。

あの日、大切な友人が死んでから、空虚な日々が続いているように思う。あともう1人の女友達である奏美も、同じような感じだ。

「陽斗、今大丈夫?」

何も無い窓の外を見ていた僕に、奏美は不意に話しかけてきた。

奏美の声も、どこか切なそうだ。

屋上に2人で行く。風が吹きぬけ、奏美の肩より下まで長い髪が揺れる。

「どうしたの、奏美」

ずっと向こう、海の見える向こうを見ながら、奏美はずっと立っている。

「…あいつが死んでからさ」

奏美は、そう呟きながら、振り向いた。

(…あいつが死んだ…そうだよな…)

友人1人死んだ、たったそれだけかもしれない。

でも、俺たちにとっては、凄く辛いのだ。

「あいつは、死んだよ…」

俺が呟くと、奏美は少し俯き、そして、顔を上げて、青空を見ながら

「3人でさ、約束したよね」

と、少し声を張りながら言った。

俺は、小さな声で、「したよな…」と呟いた。

「私たち、理想ずっと語ってたのかな」

奏美も、少し悲しい声でそう言った。

理想を語ってたことは、分かっている。

大人になるまで、3人でいるかすら分からない。

実際、3人じゃなくなってしまった。

「…そうかもな、理想ばかりだったのかもな」

「…理想と現実、全然違うね…」

俺たちは黙り込んだ。二人の間を、涼しく静かな風が吹きぬける。

「…ねぇ、陽斗」

奏美が口を開いた。顔を上げる。俺も、奏美の顔を見る。奏美は少し笑顔になっていた。

「理想、叶えよう」

俺は、思ってもいないことを言われ、腑抜けた声を出してしまった。

「こんな世界から、抜け出しちゃおう!」

奏美は、笑顔でそう言った。

その笑顔は、死んだあいつにそっくりだった。

奏美の言う理想。それは、あいつの言い出したことだということに気づいた。

『いつかさ、長期休みだろうがなんだろうがどこでもいいからさ!』

あいつの懐かしい声が、脳の中に残る、あの無邪気な声が、鮮明に響く。

『家出しようぜ!』

「家出しよう!」

奏美の声は、遥か向こうの海まで響いただろうか。

天にいる、あいつの元まで聞こえるくらい、大きな声だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こんな世界でも良いのなら ルピナ-Lupina- @Lupina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ