こんな世界でも良いのなら

ルピナ-Lupina-

序章

「こんな世界でも良いのなら、…」

その言葉の続きを君に伝えることは無かった。

そうだ、こんな世界で良いわけが無い。

幼かった頃、眩しかった大人達の姿は、今は薄汚くて仕方ない。

父親を追い詰めたのは、必要以上に任せられた仕事と、それによる家族との時間の減少。

母親を追い詰めたのは、父親のストレス発散に家中に響く罵声。

幼い頃の家族の温もりは、いつの間に消えたのだろう。

つい先日、友人は交通事故で死んだ。

もう1人の女友達と、とにかく泣いた。

泣きわめいた。

世界はこうも残酷なのだ。

いつか皆で酒を飲みかわそうと約束した。酔いつぶれてしまおうと、呑気に語り合った。

今、僕らは世界から逃げ出そうとしている。

君とふたりで、逃げ出そうとしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る