マッドミクス

@itukatoomaki

レッツミクスバトル!


 マッドミクス。それは最新鋭のホビーバトル。

人工的に生み出された特別な生命体を育てて戦う大迫力のミクスバトル。

様々な部位を生成する生体パーツを集めて配合、カスタマイズ。生み出される生物は育つ環境や背景によって千差万別。どれ一つとして同じものは生まれないあなただけの特別な生命体。

世界においてもっともクリエイティブでエキサイティンなエクストリームホビーバトル。

それが、マッドミクスだ。

人生の縮図。生命のロマン。さあ君も、レッツミクスバトル!



聖ミクス女学園。

国内でも有数のマッドミクス特化学園であり、マッドミクスを極めたい少女たちだけが集まった奇妙な学園である。聖ミクス女学園が保有しているミクスバトル専用のバトルコロシアムには、今日も生徒、外部の人間諸々沢山の観客が押し寄せている。コロシアムは賑わい、元気にミクスバトルが行われていた。


「行きなさい!私のセイントユニコーン!!」


金髪少女が指示を出し、それに従って彼女のミクスモンスターが雄たけびを上げた。

大きな一本の角。馬の体に大きな鷲の翼が付いている。

有翼のユニコーン。かつては現実に存在しなかった生き物も、マッドミクスの浸透により実現可能になった。

セイントユニコーンは少女の号令に合わせて自慢の角を前に突き出し、対戦相手のミクスモンスターを串刺しにする。

ぶよぶよの毛糸玉に一つの目玉が付いた生き物、としか表現しようのない奇妙なミクスモンスターは、胴体を豪快に突き破られ、目を回して気絶した。


「あ、ああ~~!私のぷにょりんぱよりんが~~!」


『ぷにょりんぱよりん戦闘不能!よって勝者、セイントユニコーンとユニ子!』


ミクスバトルに勝利したセイントユニコーンのミクサー、ユニ子は片手をあげて観客の歓声にこたえた。

ミクサーとは、ミクスモンスターを育てて戦わせる、親のような存在の事を言う。


ミクスバトルが終了し、対戦した二人のミクサーがコロシアム中央に集まる。

負けたミクサーは、目を回して気絶しているぷにょりんぱよりんを抱きしめながら泣いていた。


「はい。生体パーツをくださいな。」

「うう~~……」


少女は泣きながら未だ気絶中のぷにょりんぱよりんに薄く透明なカードを当てる。

カードはぷにょりんぱよりんの構成パーツを読み取り、《ぶよぶよ属性》の生体パーツを指定して抜き取った。

カードによって《ぶよぶよ属性》を抜き取られたぷにょりんぱよりんはぶよぶよの毛糸玉から、一つだけ目玉が付いた毛糸玉に姿が変わり、短くきゅう~と鳴き声をあげる。


「うわ~ん!私のぷにょりんぱよりん、ぷにょりん要素もぱよりん要素もなくなっちゃったよ~~!」


生体パーツを抜き取った透明なカードは、ミクスプレパラートと呼ばれている。

このミクスプレパラートは、生体パーツ単体を指定して外部に保存することが出来るメモリのようなもので、勝負の報酬として取引されることが多い。


勝者は色々な属性を集めて好きなだけミクスモンスターをカスタマイズしていくことが出来、敗者はミクスモンスターの体の一部を失う。これがミクスバトルの醍醐味だ。


ユニ子は連日、ミクスバトルをしている。そして今日は九十九回目の勝利となった。

ユニ子の快進撃はとどまるところを知らない。


そんな二人のバトルを、コロシアムの観客席から一人の少女が見守っていた。


「あちゃ~……ぱに子、また負けちゃった。」


未だ自分のミクスモンスターを持たない少女、ミクだ。



「ミク~~!どうしよう。ぷにょりんぱよりん、ぶよぶよじゃなくなっちゃったよう。これじゃあぷにょりんでもぱよりんでもないよ~~!」

「だいじょうぶだよ、ぱに子。また新しい名前を考えたらいいんだよ。」

「そっかあ、そうだよね。」


ぱに子は自分のミクスモンスターが姿を変えるたびに名前を付けなおしている。

ぷにょりんぱよりんは、歴代でも一番長い期間使われた名前だったが、とうとうその名前もお役御免のようだ。ぱに子の腕に抱かれているぷにょりんぱよりんだったミクスモンスターは、また名前が変わることを知り、「きゅっ!?」と驚きの声を上げていた。


ぱに子を励ましながらミクは廊下を歩く。廊下には幾つかの生徒たちが集まって雑談をしており、賑わいを見せていた。皆、色々な姿をしたミクスモンスターを連れており、ミクスモンスターを連れていないのはミクだけ。

ほんの少しの肩身の狭さを感じるミクをよそに、ぱに子はあ~でもないこ~でもないと悩みながらミクスモンスターの名前を考えていた。


「ここはあえて一番最初に付けたきゅー太に戻すとか、どうかな!?」

「う、うーんどうだろう。その子にも聞いてみたら?」


ぱに子はきゅー太に乗り気のようだが、元ぷにょりんぱよりんはそうは思っていないようだ。

激しく首(ほぼ球体のような生き物に首が存在するのかどうかはさておき)を左右に振って否定している。


「うわ!きゅー太、激しくダンスを踊るくらい気に入ってるみたい!決めた、きゅー太はこれからきゅー太だね!」

「う、うん。ぱに子がそう思うのなら、そうかもね。」


ぱに子ときゅー太の仲は長く、かれこれ五年近い付き合いがある。幼馴染のミクはそれよりも長い間、ぱに子と付き合いがあるが、どうやらぱに子はミクスモンスターの意思をくみ取るのが苦手なようだ。

そういうところにもまた、ぱに子が負ける要因につながる。


「あっ」


ぱに子の動きが止まる。急いで、すたすたと廊下の端に寄った。

なんだろうと、思ったが、ミクもすたすたと廊下の端による。理由はすぐに分かった。


五メートル程奥の方から、先ほどまでぱに子と戦っていたユニ子がやってきた。

横には、人よりも背丈の高いユニ子のミクスモンスター、セイントユニコーンが歩いている。


ぱに子のミクスモンスター、きゅー太は両手で抱えられるほどの大きさ、直径およそ五十センチくらいの球体モンスターだ。それに比べると、セイントユニコーンは倍どころか四、五倍ほどの体格差がある。勝てるわけがない。体格差で勝負が決まるわけではないが。


先ほどまで賑わいを見せていた廊下だったが、ユニ子の姿を見かけてからと言うもの、楽しく雑談をしていた生徒たちはみな静まり返ってしまった。それもそのはず。ユニ子は、彼らとは一線を画した異質な存在だからだ。

ここは中等部一年生の教室がある一年生棟。

対して、ユニ子は高等部三年生、限りなくこの場には不釣り合いな存在である。


ユニ子はセイントユニコーンを見せびらかしながら廊下を練り歩き、一年生を品定めしている。

彼女が九十九連戦九十九連勝と言う偉業を成し遂げていられるのは理由がある。それはこの、勝利を得るためだけに徹底した異常なまでの初心者狩り戦法だ。

決して同学年とは戦わず、わざわざ中等部の一年生の教室まで足を運び、一人一人弱そうな生徒を品定めしてまで決闘を申し込むその様には、高いプロ意識を感じさせられる。

ユニ子の高名を知っている生徒たちは自分のミクスモンスターを隠して目につかないようにし、対策を取る。決して彼女に話しかけてはいけない。話しかけたら、勝負を挑まやられる。


にやにやしながら廊下を練り歩くユニ子の目が、ぱに子を捉えた。ユニ子と目があったぱに子は視線を地面に逸らして俯き、きゅー太を抱きしめる手に優しく力をこめる。

みすぼらしくなったきゅー太の姿をみたユニ子は、我慢しきれなくなったかのように噴き出して笑い、視線をぱに子たちから外した。

ミクはぱに子が気にしないように、肩に優しく手を置いて励ます。

ぱに子は、悔しそうに唇を噛みしめながら、目の端に涙を貯めた。きゅー太がぱに子の手の中で飼い主を気遣い、小さな鳴き声を上げる。


その姿を見た時、ミクの腹の底で何かがぐつぐつと煮えたぎった。



「あの。」


ユニ子の背後に声がかけられる。話しかけられたのが自分だと悟ったユニ子は、振り向いて声の主を確認した。

声の主は小さな一人の中等部一年生。手入れの行き届いた綺麗な茶色がかったショートカットに、ぱっちりとした目。薄い桜色の唇が細かく震えていた。

その少女の隣では、先ほど打ちのめしたミクサーが、一つ目の毛玉を抱えて困惑した表情でユニ子と茶髪の少女の間を交互に見ている。


「あの、私とミクスバトルしてくれませんか?そして、私が勝ったら――私が勝ったら、ぱに子の《ぶよぶよ属性》を返してください。」


茶髪の少女が滑稽なことを言い出した。腹の底から湧いてくる愉快感を堪えて、少女に様式を返す。


「あなたの名前は?」


名前を聞かれた少女は、ぐっと拳を固めて応える。


「ミクです。ユニ子さん。私と決闘をお願いします。」


そこで、とうとうユニ子は笑いをこらえきれなくなった。


「ええ、ええ!決闘をしましょうミクさん!では明日、朝八時、バトルコロシアムで!おーーーほっほっほ!おーーーーほっほっ!」


ユニ子は高らかに笑いながら、一年生の教室を去った。

これで、百連勝!!



「み、みみみミク!?何言ってるの!?大丈夫!?あんなこと言って!」

「大丈夫なわけないじゃない!だって私、まだミクスモンスターもいないんだよ!?どどどどうしよう!」

「きゅっきゅっ!きゅッ!?」

「きゅー太は何言ってるか全然わからないんだから、黙っててよ!」

「キュッ……!?」


飼い主の裏切りにきゅー太は絶望の表情で言葉を失った。ミクは、そんなきゅー太を優しく撫でてなだめる。


「だって、だってさ!」


ユニ子の振る舞いを思い出して、ミクの頭に血が上った。顔が、熱で真っ赤になる。


「私の友達を、二人もバカにして……許せないよあんなの……」

「ミク……」

「ミキュ……」


ぱに子の心の中に、暖かいものが広がった。これがきっと友情なんだ。


「分かった。私、ミクの事を信じるよ。でもさ、ミクスモンスターがいなきゃミクスバトルもできないじゃない?」


ぱに子の言う通りだ。問題が解決したわけじゃない。これからどうしようかと頭を抱えた。そんなミクにぱに子が優しく声をかける。


「だからさ!使ってよ、私のきゅー太!」


ぱに子がきゅー太を持ち上げてミクに預ける。

ミクの両手に、ずっしりとした重さがかかった。


意外なきゅー太の重さに、少しバランスを崩す。ぱに子が普段は抱えている都合上、きゅー太の重さを意識することはなかった。命の重さに、驚く。


そうか、重いんだ。ミクスバトルって……


知らずに背負い込んだ命がけのミクスバトルに、静かにミクの心が燃え上がる。

明日の戦いは、きゅー太と、ぱに子と、ミク。三つの命がかかった、大事な試合なんだ。


「……ぱに子、ごめん。私、今日はもう帰るね。先生にはうまく言っておいて。」

「うん!頑張ってね、ミク!」


ぱに子の思いを受け取って、ミクは走り出す。明日は、なんとしてでも勝たなきゃ!



とはいっても、一日だけの思いなどで何かが変わるはずもなく。

きゅー太は以前クソ雑魚で、ミクサーとして経験のないミクにはきゅー太に指示をうまく伝えることもできなかった。

ぱに子よりもうまくミクスモンスターの思いを読み取ることは出来ても、指示ができるわけではない。

きゅー太との相性は悪かった。そもそもぱに子もミクサー暦は長いくせに戦闘中きゅー太に指示を出していない。ぱに子もきゅー太も、超絶クソ雑魚だ。


「どうしよう……まったく勝てる気がしないよ……」


自室の学習机に座り、きゅー太を撫でる。外はすっかり暗くなり、きゅー太と一緒にお風呂に入って、就寝準備を整えたミクは、机に座ってうんうん唸り続けていた。


「きゅ~~♪」


ミクに撫でられてご機嫌のきゅー太は、鼻歌でも歌っているかのような音色で鳴いて喜ぶ。


「いいよね~きゅー太は気楽そうで。」

「きゅ~~♪」


明日、勝つにはきゅー太を強くするしかない。きゅー太そのものの戦闘能力には期待できない事には、今日一日きゅー太と暮らしてみてわかった。こいつじゃユニ子のセイントユニコーンには勝てない。

それなら、きゅー太を強くするには生体パーツを組み込むしかないが、自分のミクスモンスターすらいないミクには当然、生体パーツを持っているはずもなく……


「はあ……」


ため息を付いて机の上を適当に眺める。

学習机の上には、顔だけが入る小さな鏡があり、憂鬱そうな表情の美少女が映っていた。

見慣れた自分の顔、そしてよこに鏡に映ったきゅー太。ぼーっと鏡を眺める。


「……そういえば。」


ふと思いついたことがあり、ミクは椅子から立ち上がった。

急に立ち上がったミクをきゅー太が見つめる。


「きゅー!」


もっとなでろと要求を飛ばしてみるが、ミクは何やら忙しそうにがさごそと部屋を漁っていた。



翌日。


ぴんぽーーん。

ミクの家のインターホンを押す。ぱに子は、いつも朝ミクと一緒に登校しており、こうやってミクの家にやってくるのが日課になっていた。


「ミク~!早くいかないと遅刻しちゃうよ!」


いつもならすぐに出てくるはずのミクは、少し手間取っているようだった。


「うーーん。きゅー太、抱き枕としての性能は高いからなあ。もしかして、寝心地良すぎて寝坊しちゃった?」


ミクは優等生であり、ぱに子のような間抜けではないのでそんなへまはしないはずなのだが。


「ごめーん!遅くなっちゃった。」


ミクが慌てて家から出てくる。そんなミクに付きそうように、庭から謎の物体が出てきた。


「九ッ!!窮ッ!糾ゥゥォォオオオオッ!!」


家が震えるほど大きな雄たけびを上げる。その声に、少しの懐かしさを感じた。


「も、もしかして、それってきゅー太……?」

「そうだよ!あ、ごめんねぱに子!ちょっときゅー太、改造しちゃった!」

「か、改造……」


ぱに子の体から力が抜ける。

尻もちを付いて道路にへたり込んでしまった。

そんなぱに子を、ミクときゅー太が見下ろす。


「ぱに子?ふざけてる時間はないよ、早くいかないと、ミクスバトル始まっちゃう!私、先に行っちゃうからね!」


ミクは早口でそういうと、にこにこしながら学園へ向かって走って行った。その背後に、きゅー太がついて回る。きゅー太が足を踏み出すたび、地面が揺れて轟音が鳴る。ミクの速度に合わせて走っているものだから、もはや軽く自然災害だった。


尻もちを付いたままのぱに子が震える。腰が抜けてしまって立てそうにない。


「あ、あんなのきゅー太じゃない。だって、だってあんなきゅー太――カッコよすぎる!」


きゅん……

ぱに子の頬が赤く染まった。



『今日のミクスバトルが始まるぜ~!最初の対戦カードはこちらァッ!まず一人目、九十九連勝中の最強ミクサーッ!ユニ子!アーーンド、セイントユニコーン!!』


豪快な選手紹介と共に、ユニ子にスポットライトが当たる。いつもならライトが当たるとともに、片手をあげ、声援にこたえているユニ子だったが、今日は微動だにしなかった。彼女の視線は対戦相手に釘付けになっている。


『つづいて、記念すべき百戦目の餌食、チャレンジャー……ミク!アーーンド、きゅー太ァッ!!なんと今日がミクスバトル初挑戦だぁッ!負けを糧にしてぜひ、研鑽を続けてく……?』


ユニ子の対戦紹介をするとき、学園専属の試合司会は手を抜く。何故なら毎度毎度ユニ子の勝利は確定しており、面白みがない。客は、蹂躙される弱者を見て楽しんでいるようだが、司会はもっと白熱したバトルを望んでいた。気持ちのこもらない試合に気持ちの入ったトークは入れられない。

今日もいつも通り、定型文の適当なトークで実況を終えようとしていた。

が、今日のチャレンジャーはどこか様子がおかしい。正確には、チャレンジャーが連れているミクスモンスターの様子がおかしい。

基本、ミクスモンスターはどれだけ大きくても自動車ほどの大きさを超えない。重量も二、三トンほどで収まる。

だが、チャレンジャーの連れたミクスモンスターは遥かにその規格を超えていた。

スポットライトを浴びて、その全容を観客が捉えた時、歓声で盛り上がっていた会場が静まり返る。そして、ざわざわとざわめき始めた。


遠目から見たら、木の幹に生えた巨大な花のように見えなくもない奇妙な姿。

巨大な触手が、四本。二メートルほどのタコの触腕がうねうねとうねりながら会場の床をびたびたと汚く水浸しにしている。足は四本、扇風機の羽のように付いており、付け根には巨大な美少女の顔が付いていた。それは直径三メートルほどのミクの顔だ。ミク本人の顔はとても小顔なのに対して、きゅー太にくっついているミクの顔はあまりにもデカすぎる。どんな超重量級のお姉さんでも並んで写真を撮れば、小顔に見えるだろう。

続けて、その巨大な顔から、総勢百万本からなる人の指の鱗が生えて、胴体を為している。

たこ足、顔、鱗で構成された大きな胴体を、白と黒の水玉模様が特徴的な太い六本の足が、バランスよく生えて支えていた。


きゅー太の姿を見た観客は、言葉を失い、何人かが泡を吹いて気絶した。SAN値チェックに失敗したようだ。


『な、なんですのそのミクスモンスターは……』


マイクで大きくされたユニ子の声が、会場に広がる。

その奇妙なミクスモンスターの姿を、誰も見たことが無かった。

百戦も戦っているユニ子ですら、こんな妙な生き物は初めて見たのだ。

震える声で尋ねるユニ子に、ミクもマイクを通して優しく答える。


『えっと、ユニ子さんに勝つには、生体パーツがどうしても必要だなあと思ったので、ダイレクトミクスしました。』


ダイレクトミクス。それは、ミクスモンスターの核に直接生体をねじ込んで配合させる、一つの手法だ。

現に、ユニ子のセイントユニコーンも生の馬一匹と、むしり取った鷲の羽、バキバキに折砕いたイッカクの角をダイレクトミクスしている。


『私は生体パーツを一切持っていなかったので、……その、冷蔵庫の余り物をいくつかダイレクトミクスして……えへへ。』


弁当の作り方でも話すかのように、ミクは恥ずかしそうに言いながらミクスの方法を話す。

入れたものは、タコの足と、牛乳、庭の花、鳥の卵、プロテイン等。いくつか効果を発揮していないものもあるようだが。


『あ、あと。切っちゃった、指。』


ミクが左手を差し出す。その人差し指は、包帯でぐるぐる巻きにされており、少しの血が滲んでいる。

これは弁当を作っている時に手が滑ってしまい、切ってしまった指だ。その切れ端を、きゅー太にぶち込みダイレクトミクスした。きゅー太の体はすべて弁当の材料で出来ている。


「急ゥゥゥゥゥッ!!」


きゅー太が巨大なミクの顔で雄たけびを上げる。初めて自分よりも巨大なミクスモンスターの姿を見たセイントユニコーンは、生まれたての小鹿のようにぶるぶると足を震わせた。ちょろちょろ。あえてこれが何の音なのか、明記はしない。


『……ふ、ふふ。なるほど、貴方中々やるようですわね。それならば私は、棄権して――』

『おっとお!時間が来てしまった!それではちょっと突然だが、試合開始ィッ!!!』

「急ゥゥゥゥゥッ!!」


司会が試合開始の合図を出したのを聞き取ったきゅー太がどすどすと巨大な足音を立ててセイントユニコーンに突撃。セイントユニコーンは、一切の抵抗なく体当たりを受け、その場に倒れた。

セイントユニコーンにきゅー太は猛烈な追い打ちをかけ、タコの足で拳を固めるなり、高速でタコ殴りを開始した。


「これはぱに子の分!これは昨日の復讐!これはミクの指の分!明日の晩御飯の分!昨日の残りのありあわせ!満足に食事も食べられない人々の分!」


きゅー太のミクの口から、罵声が飛び、そのたびにセイントユニコーンの体がどんどん破壊されていく。きゅー太の触手が叩き込まれるたび、コロシアムの地面に大きなすり鉢状のへこみが出来ていく。


『あ、あわわ降参!降参しますわ!!あわわわわ!』


恐ろしい大蹂躙を目にしたユニ子が腰を抜かし、その場にへたり込む。じょばー。あえてこれが何の音なのか、明記はしない。


『セイントユニコーン、戦闘不能!よって勝者、きゅー太とミク!』


試合は終わった。

きゅー太はセイントユニコーンの羽をむしり取り、大きなミクの口でかみちぎって食べていた。


「勝利ッ!勝利ッ!勝利ッ!」


きゅー太のミクの口が大声で叫び、勝利を喜ぶ。


『やったーー!』


ミクの喜ぶ声が会場に響き渡った。


「ミク~~!」


ミクの近くで待機していたぱに子が駆け寄る。


「やった、やったよミク!私たち、勝ったんだ!」

「うん!やったね、ぱに子!」

きゅう~~!」


きゅー太も急いでミク達の元に駆け寄り、長い触腕でミクとぱに子を抱きしめる。


「ILOVEYOU。愛しているよ、ぱに子。」

「きゅー太……!話せるようになったんだね!」


ミクの口を使ってうまく話すきゅー太の姿に、ぱに子は涙を流した。

ぬるぬるの触腕がぱに子の体を包み込む。きゅー太のミクの口には、まだセイントユニコーンの羽が挟まっていた。


「負けてしまいましたわね……」


スカートの下からジャージを履いたユニ子がコロシアムの中央を通り、ミクの元へやってくる。

手には、昨日ぱに子から取り上げた《ぶよぶよ属性》のミクスプレパラートが。


「やった~~!これできゅー太も元に戻れるね!名前も新しく考えなきゃ!ぼよよんぼよよんとかどう?」

「きゅッ!?」

「あ、あはは。ぱに子、もうぷにょりんぱよりんの事忘れてる……」


喜ぶきゅー太とぱに子を尻目に、ミクは少し落ち込む。

きゅー太はあくまでぱに子のミクスモンスターで、ミクのではない。早く自分のミクスモンスターをもたなきゃなあと心のどこかで寂しい思いを抱いた。


「ミクさん。いえ、ミク様……」


ユニ子が右手を差し出し、握手を求める。ミクは、それに気が付いて右手をとって握手を交わした。


「次は、二度とわたくしに勝負を挑まないでくださいまし。」

「あ、あはは。わかった。戦ってくれてありがとう。」


ミクスバトルを通して、沢山の絆が生まれる。

人と人との繋がり。種族を超えた繋がり。それは、ミクスバトルの醍醐味だ。


あなたも、レッツミクスバトル。してみませんか?


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