イマジナリー

あげあげぱん

第1話


 私は椅子に座り集中する。そうして目の前に置かれた椅子を見つめる。


 ほどなくして彼女も席に着く。私と瓜二つの姿を持つ彼女。肩まで伸ばした黒髪と面長の顔が特徴的な若い女。私の友達。


 私は集中する。座ったままの彼女が両手を前に伸ばす。私も同じように座ったまま手を前に伸ばす。


 お互いの手がふれあう。私には彼女の手の感触が分かる。長年訓練したことにより彼女のイメージはしっかりとしたものになっている。今の彼女はしっかりとしたイメージをもった霊体なのだ。


 私が幼い頃、彼女はただのイマジナリーフレンドに過ぎなかった。幼い私が産み出した稚拙な存在だった。だけど、今の彼女は違う。私は長年の訓練によって稚拙で曖昧だった存在を生霊にまで昇華させた。

 

 訓練によって昇華されたイメージは現実に干渉する力を持つ。いわゆる超能力だとか霊能力だとか呼ばれる存在は強いイメージによって作られた力なのだ。少なくとも、私が作り出す彼女はそういう存在だ。


 私の母は霊能力者だった。母も私のように強いイメージの力を持っていた。かつてオカルトブームの時には東京のマスメディアが母のことを取り上げたりもした。


 マスメディアの力によって母は有名になる。一時期は多くの人間が母のことを持て囃した。でも、そんな時代は長く続かない。続かなかった。


 オカルトブームが世から去り、母もすっかり飽きられてしまった。それだけなら、まだ良かったけれど、母の力を疑い、難癖をつける学者が現れる。世の中の人間たちは学者に味方をした。


 人間のイメージは強い力を持つ。多くの人間のイメージが集まると、それが力を持つこともある。母は日本中の人間からインチキ霊能力者という印象を作られ、そのために母は霊能力を失ってしまった。母はインチキだと信じられた結果、そのような存在に成り果ててしまった。


 母は日本中の人間から嘲笑われ、失意のうちに亡くなってしまった。だから、私は母が力を失うきっかけを作ったあの学者を許さない。


 学者によって否定された霊能力によって学者に復習を果たす。そのためにこの力を訓練してきたのだ。


 私は集中する。虚空にナイフが現れ、目の前に座っていた彼女がナイフを握った。私の強いイメージと憎悪によって作り上げた彼女。彼女に物理的な壁は存在せず、出現する場所だって自由自在だ。今こそ彼女を使い、あの学者に復習を果たすのだ。強い憎悪によって産み出された霊は強い呪いとなる。


 さあ、私のイメージよ動け。そうして私が呪う存在に復習を果たすのだ。


 目の前の彼女が立ち上がる。そして。


「今まで私の存在を世界に定着させてくれてありがとう。でも、もうあなたは要らないわ」


 空想のナイフが私の胸を刺していた。始め、何が起こったのか分からなかった。次第に胸が痛む。彼女がナイフを引き抜くと、地がどくどくと溢れ始めた。私は椅子から崩れるようにして、床に倒れた。


 どうして。


「どうして? 私はあなたが作り出した呪いなのよ。それがあなたには制御しきれなかっただけ」


 そんな。私は私を殺すためにおまえを産み出したんじゃない。私の想像が私を殺すなんて、そんなことがあってはならない。


「でも仕方ないのよ。あなたはあなたの母から習った中途半端な知識で呪いを作ろうとした。これはあなたの自業自得なのよ」


 そんな。嫌だ死にたくない。血が止まらない。苦しい。


「苦しい? そうね。あなたは私をこの世に定着させてくれた。そのお礼にね」


 彼女は私の前にかがみこむ。そして。


「あなたがこれ以上苦しまなくていいように、楽にしてあげるわ」


 彼女は私に空想のナイフを振り下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イマジナリー あげあげぱん @ageage2023

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ