第6話 聖魔王

 シェディの持つ黒い十字架は、アルデがシェディの要望を組み込んで作った、シェディ専用の魔道具であり、彼の身体能力と魔力を増幅させるという効果を持つ。

 そして、それに加えてもうひとつ、特別な機能が備わっている。それが、シェディたっての希望で搭載された、使用すると外見が変化する変身機能であった。これを使用して変身すると、シェディ曰く、眠っていた聖魔王の力が呼び覚まされ、聖魔王状態になるそうだ。

 

「聖魔王? 何言ってやがるてめぇ」

 だが、そんな事を知る由もないリーダーの男は、苛立ちながらシェディにそう言った。

「ふっ、知らんのか、無知な奴だ。いいだろう、教えてやる! 聖魔王とは、光と闇の魔力で持って、かつて古の時代に地上を支配した伝説の王の名! この我こそ、その力を身に宿した、現代の聖魔王である!」

 それに対し、シェディも余裕たっぷりでこの返し。

 だが言っていることは大嘘である。聖魔王などというのは、シェディが勝手に作った存在なのだから、無知も何もあったものではない。

「そ、そうか……」

(そんな奴いたか……?)

 男は内心、シェディの言葉に疑問符を浮かべた。大丈夫だ。その認識で正しい。頑張れ、騙されるな。


「さて、挨拶はこのくらいにしておこう。喜べ、聖魔王たる我が直々に貴様らを叩き潰してやるのだ」

「はっ、上等だ。姿が少し変わったくらいでてめえなんぞに俺らがやられるかよ」

「その意気や良し! では、まず初めに――」

 瞬間、シェディの姿が男の目の前から消えた。

 一瞬の出来事であったが、それに驚きつつも男は「まさか」と顔をある方向へと向けた。

 その方向とは、男の後方。ナイフを投げることで男を援護していた、盗賊の仲間のいる方向であった。

 

「後方支援をされていると厄介なのでな、少し眠っていてもらおう」

 シェディが、盗賊の仲間の腹に膝蹴りを食らわせ、一瞬のうちにその意識を刈り取ってしまった。

「なっ!?」

「ふふ、さあ、これで邪魔者はいなくなった。一騎打ちと行こうではないか、盗賊の長よ!」

「て、てめえっ! 俺の仲間をよくも……! 許さねえ!!」

 仲間をやられたリーダーの男は、怒りを露にしてシェディへと怒鳴った。随分と仲間意識の強い盗賊団なのだろう。

 それを、シェディは嗤う。

 

「はははははははっ!! 散々人を襲っておきながら、仲間に危害が及べばいかるか! 下賤な盗賊風情が良いご身分だな! 貴様は我のことを許さんと言うが、それは我にとっても同じこと。我も貴様を許さん。この街の人間に恐怖を与えた罪は、貴様ら盗賊団全員に必ず償ってもらうッ!!」

「そうかよ! ならやってみろ!」

 リーダーの男が叫びながらシェディへと突撃する。

 男は手に持った二本の剣を力に任せて振った。それを、シェディはまっすぐ見据える。

 シェディは剣が迫ってくるのを、ただ冷静に見つめながら、右手に魔力を集中させる。

 そして、シェディが空気を掴むように指を曲げる。すると、彼の手に白と黒の光が螺旋を描いたような形をした、光の束が現れた。

 シェディはその光の束を掴み、それを使って迫りくる二本の剣を受け止めた。

 

「何っ!?」

「我が魔力は変幻自在。形を変え、性質を変え、我が武器と化して貴様を討つ!」

「ちっ、具現化魔法か……!」

 剣を押し返された男は舌打ちをした。

「然り!」

 具現化魔法、それは魔力に様々な性質を与えて具現化させる魔法。

 例えば魔力に硬さを与え、棍棒のようなものとして具現化させたり、その棍棒をしなるように変えて鞭にしたり、変幻自在な利用方法が可能な魔法だ。シェディはこれが得意であった。

 彼の手に握られている白と黒の螺旋を描く光の束は、斬撃の特性を与えられた魔力でできた剣。彼が最も得意とする具現化魔法である。

「聖魔剣ジェヘナエデン!」

 故にこの魔法で作り出される剣に、シェディは名をつけていた。その名も聖魔剣ジェヘナエデン。なんとも大層な名前だが、伝説の剣などではなく、本質的にはシェディの魔力の塊である。


「では、今度は此方からゆくぞ!」

 攻守交替、今度はシェディが動き、男へと攻撃を仕掛けた。ジェヘナエデンによる斬撃を、男は二本の剣を交差させて、受け止める。

 十字架により身体が強化されているシェディの力は強く。両の剣を使わなければ受け止めきれない程である。

「くっ……! なかなか、やるな!」

「ふはははははははっ! そちらこそ、我が剣を受け止めるとはな! だが!」

 段々と、男はシェディの勢いに押され、一歩、また一歩と後ろに下がっていく。

「我の方が優勢のようだな!」

 額に汗を浮かべながら、男はじりじりと追い詰められていく。

「っ……“ダブルインパクト”!!」

 追い詰められながらも、男は魔法を発動してシェディの剣を弾いた。

「ほう、やるではないか」

 ニヤリとシェディが笑った。

 弾くことは出来たものの、力の勝負ならばシェディが有利だ。今のでリーダーの男はそれを察する。

 ならば、戦法を変える必要がある。そう考え、剣に目一杯魔力を流し込む。そして、踊るかのようにして剣を振り回すと、魔力が無数の斬撃となって、シェディへと襲い掛かった。

 

 全身を切り裂く斬撃の嵐。まともに喰らってしまえばひとたまりもないことは明らかだ。

 シェディは手に持った魔力の剣を前に掲げ、魔力を込め始めた。

 剣の形をしていた魔力から、斬撃の性質を取り除き、防御の性質を与える。白と黒の光は大きな新円を描き、シェディの身体を隠すほどの大盾へと変化する。

 それは嵐をものともしない防壁。白と黒の真円は、迫りくる斬撃からシェディを守った。

 

「防がれたか……!」

「ふはははっ! なかなかの攻撃だ。だが残念だったな! 我には届かん! では、また此方から行かてもらうぞッ!」

 シェディが盾を剣の形に戻して、リーダーの男へと振ると、剣の形をした魔力の塊が伸びた。

 伸びた魔力の塊は、ロープの様に男の腕に巻き付く。男がそれを振り払おうとして腕を動かすが、巻き付いたそれが腕から離れる気配はない。

 シェディは男の腕に巻き付いた魔力の塊を、力任せに引き寄せた。

 男の身体は引っ張られるようにして宙に放り出され、シェディの方向へと飛んでいく。


 そこで、腕に巻き付かれた魔力がようやく離れた。シェディの手に握られた魔力は、棒状に変質し、彼の方へと落下するリーダーの男の身体を迎え撃つ。

「はっ!」

 男の脇腹に、棒状の魔力が振り抜かれた。凄まじい衝撃に、骨は軋み、リーダーの男は一瞬にして意識を持っていかれ、力なく地面を転がった。

「斬らんでおいてやった。感謝するんだな」

 シェディは十字架による変身を解く。

「あとは、リーダーとメルトがどうなっているかだが。……ま、どちらも心配はいらんだろうな」

 異空間の空を見上げながら、シェディはそう呟いて笑った。

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