第11話 林間学校②
…1日目は移動がメインで、駐車場から今回泊まるホテルまで、何故か遠回りして移動した。意味がわからないほど遠い。
だが、収穫はあった。朔馬と雪村は、この移動の時間でかなり打ち解けたようで、キャンプ場へ着く頃には朔馬は雪村のことをかなり気に入っている様子だった…そのせいかわからないが、雪村が腰巾着に見えた…それはともかく。
「へぇ〜、ここが私たちの部屋かぁ〜。」
「…なんか、コメントに困るな…可もなく不可もなく…。」
夕食を終えた俺たちは自分たちの部屋に来ていた。ベージュを基調とした、シンプルな部屋だった。3人部屋で、ベッドが川の字に3つあるが、あいにく3人目は休みらしい。
「…なんか、こういうのわくわくしますよねぇ。」
「…なんでお前もいるんだよ。」
「まあまあ、消灯時間までに戻れば文句は言われませんよ。」
にやりと笑うリリー。
「それが風紀委員の言うことか…。」
「そんなことより、それまで時間があるので、少し遊びませんか?トランプとか、UNOとか…」
「その前にシャワー浴びさせて…汗ベタベタで気持ち悪い…。」
俺は誘いを断り、シャワールームへ歩み出す。部屋にはシャワールームがあり、各々それを利用するように言われているのだ。慣れた手つきで服を脱ぎ、カゴへ放り投げる。鏡に映る自分の身体を見る。本来の蓮華には申し訳ないが、すでに自分の身体という認識が強くなってしまったために、最初みたいな興奮はない。シャワーのハンドルをひねってお湯を出す。
「フッ…俺も強くなったもんだ…。」
「なにがです?」
「!?…えっ!?はぁ!!??」
後ろを振り向くと、リリーがいた。俺と同じ、一糸纏わぬ姿…なるほど、少し心配になるくらい細い身体だ…いや、見るな、見てはいけない…俺は紳士だぞ!
「ちょっ!なんでここに…!?」
「いいじゃないですか。一緒に入ればお湯、節約できますよ。」
「家じゃ無いんだからそんなの気にしなくていいから!!狭いから早く出てって!!」
「ちょっ…暴れないでくださいよ!!」
「誰のせいだよ!」
俺が無理やりリリーを押し出そうとしても、その細い身体のどこから出てるのか知らないが…とにかくその見た目と不釣り合いな力で抵抗してくる。しばらく押し問答をしていると、突然シャワールームの扉が勢いよく開けられる。
「二人だけで楽しそうにしてて妬けるんだけどぉ〜?私も交ぜてぇ〜。」
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!?」
またもや俺たちと同じく、全裸の桃香が勢いよく入ってきた…なるほどなるほど、リリーとは対照的にふくよかだな…って違う!俺は紳士!!いや、それも違う!というか本当に狭い!
「私も二人といちゃいちゃした〜い。」
「えぇー…狭いんですけど…というか、当たってます。」
「にゃはは、羨ましい?」
「…別に。」
二人の問答が耳に入らないほど、俺は追い詰められていた。物理的にも、精神的にも。シャワールームは腕を横に広げることができないくらいに狭い。そこに3人も人が入っているのだから、狭くて息苦しい。汗を洗い流すつもりが、かえって汗だくになっている。そして目の前には生娘2人の裸体…目のやり場に困るし、2人の匂いが混ざり合って充満する。前世童貞には刺激が強い。
「ちょっ…ほんとにこれ以上はっ…!」
そんな状況に、俺はついに音をあげた…正確には、俺の身体が。
「あっ…ちょっ、大丈夫ですか!?」
「あちゃ〜、のぼせちゃったかぁ。」
思考が湯気で遮られたあと、俺は力が入らなくなりその場に倒れ伏した。
………………
「…………。」
「…………。」
「……何か言うことは?」
全員がシャワーを浴びた後、体調が戻った俺は、窓際の唯一ある椅子に座っていた。足を組む俺の目の前で2人が正座をしている。お説教の構えだ。
「…意外と身体、弱いんだねぇ。」
「そうじゃない。他にもっと言うことあるだろ。」
「桃香さんが勝手に入ってきたせいだと思います。」
「自分の行動棚に上げんな。」
「あ、そうそう、髪の毛はもうちょっとちゃんと洗った方がいいよ。さっきみたいにわしゃわしゃ〜って洗うの、せっかくきれいなのにもったいないよ。」
「いや…だって髪の毛の洗い方とか知らないし…ってかまた覗いたのかよ!!ふざけんな!」
「まあまあ二人とも、この話はその辺で終わりにしませんか?」
「なんでお前が会話の主導権握ってるんだ…。」
とはいえ、このまま問い詰めたとてからかわれるだけに違いない…というか、もしかして俺ってナメられてる?
「例えば…そうだな…あ、恋バナしませんか?」
「えぇ〜…。」
俺は顔をしかめた。また朔馬の名前を出されてなじられることを危惧したからである。
「じゃあまずは蓮華さんから…」
「いやいや、まずはリリーちゃんからでしょ。」
「え?」
桃香の言葉に狼狽えるリリー。好機だと思った。意趣返しである。
「そうだよ!こういうのって言い出しっぺが言うもんじゃん!」
「え…えぇ…?」
「いやー!私聴きたいなぁ〜!!リリーの恋バナ聴きたいなぁ〜!」
「私も聞きたいなぁ〜、聞かせて欲しいなぁ〜!」
「くっ…まさかさっきのこと根に持って…!わかった!わかりました!話します!」
「よっしゃ!」
俺は小さくガッツポーズをした。恨めしそうなリリーの目線が心地良い。
「はぁ…と言っても、何を話せば?」
「うーん…あ、そういえばさ、なんで朔馬の事好きなの?……あ。」
リリーが盛大に吹き出した。しばらく咳き込んだ後、俺に詰め寄る。
「な、なんでいうんですか!!秘密って言いましたよね!」
「え?ご、ごめん!!本人にはって意味かと思っちゃって…」
「え?むしろ今まで隠してたの?リリーちゃん。」
「桃香さんまで!?…あーもう!はい、そうです!私は朔馬さんが好きです!」
半ばヤケクソになったリリーは顔を真っ赤にしながらそう宣言した。そして、こう続けた。
「私、小学生の頃は両親の故郷…海外に住んでて、その頃に母親が趣味で集めている日本のマンガを読んでたんです。それで、そのマンガに出てくる不良が…。」
「……朔馬にそっくりだった?」
「…そうです。入学式の日の騒動で彼を知って…あまりにもマンガの彼そのもので、その、ひ、一目惚れというか…なんというか…風紀委員に入ったのも、どうにかして近づくためで…。」
「へぇ〜〜〜〜〜〜!!そうなんだ〜〜〜〜!」
「な、なんですかその反応!…え?なんでそんな悲しそうな顔してるんですか?怖…」
「別にぃ〜〜〜〜〜!!?」
くっそ〜〜〜〜!!!前世で知り合ってたら絶対付き合ってたのに〜〜!!自分で自分が羨ましいぜぇ〜〜〜〜〜!!!こんな子に好かれてたなんてよぉ〜〜〜〜〜!!!!
「………でも、最近はよくわからないんです。」
「え?」
「なんというか、朔馬さんのことは、変わらず好きなんですけど…最近、違う人のことをよく思い浮かべるようになっちゃって…。」
リリーが俺の方をちらりと見る。また馬鹿にされると思われたのか?…少しからかいすぎたかもしれない。
俺の反省をよそに、桃香が尋ねる。
「あ〜…好きな人が2人いる、みたいな感じ?」
「はい、多分、そんな感じだと思います。」
「ふぅ〜ん…なるほどねぇ。」
「……2人は、そういう経験、ありますか?」
「えっ!?いや〜…私はないかな…桃香は?」
「私も〜。」
リリーが俯く。
「…やっぱり、変なのでしょうか…その、2人同時に好きになるなんて…。」
「変なところで生真面目だなあ。別に変じゃ無いよ。」
「……そうでしょうか。」
「そりゃあ、2人同時に付き合うってことなら不誠実そのものだけど、そういうわけじゃ無いんでしょ?最終的に1人を選ぶなら、問題ないよ…多分。」
「…そう、かもしれませんね…ありがとうございます。」
胸中のもやが晴れたようで、彼女はいくらか明るい顔つきになっていた。しばらく沈黙が流れた後
「えいっ!」
という掛け声とともに、桃香が後ろから被さってきた。
「うわっ!ちょ、なにするのさ!」
「も〜、2人だけの世界に入らないでよぉ〜。私も混ぜて〜。」
「……ふふっ。そうですね。じゃあ、恋バナの続き、次は桃香さんが話してください。」
こうして俺たち…主に桃香とリリーは、例によって先生にどやされるまで話し込んだのだった。
転生したら幼馴染(♀)だった @mooooz
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