第2話

俺たちは飛行機に乗り込んで真逆の島、沖縄へと向かった。飛行機に乗り込む前にお母さんは号泣していたが、横で由紀が不思議そうに背中をさすっていたのが印象に残った。彼女は感情が理解できていないのか、それともなぜ今そんな気持ちになるのかが分からないのどちらなのかが分からない。なので付き合っていく中で分かっていくしかない。


「由紀は飛行機に乗るのは初めて?」

「そうですね。データとしては入っていますよ。ハイジャックが起こる確率は……」

「そんな確率なんてどうでもいいんだよ」


奏多がツッコむと、由紀はつまらなさそうな顔をした。彼女は感情がないというわけではないらしい。それなら、人間の感情が起こる理由がわからないのほうが正しいのかもしれないな。


「ていうか、僕のことはどれくらい知ってるの?」

「奏多さんのことですか?奏多さんは現在18歳。学力、運動神経。ともに優秀。しかし、持ち前の根暗な性格のせいで彼女はおろか、友達すらも少ない。顔も世間一般で見るとイケメンの類ですが、寝不足のためにそれも台無し。そして女の子にも慣れていない童貞」

「おお。嘘偽りな事実だが、もっとオブラートに包むことはできなかったのかな?」


奏多が若干引きつった顔で、提案をしたが由紀は不思議そうな顔をした。


「私はただ記憶させられた情報をお伝えしたまでです」

「じゃあ、僕はお父さんをしばかないといけないな」

「しかし私は奏多さんはかっこいいと思いますよ」


そういって、二人掛けの椅子から奏多のほうに身を乗り出した。由紀の左手は、奏多の太ももに置かれている。これは女性経験のない奏多にとっては非常事態だった。好みのタイプの女性(ロボット)の手が触れている。その事実だけで賢いといわれている頭がパンクするには事足りた。


「あ、あの由紀さん?まずは人間との距離の取り方を覚えようか?」

「私は間違えましたか?情報では仲良くするためにはボディータッチが重要と……」

「め、メディアリテラシー!?」


奏多は恐る恐る由紀の手を自分の太ももから外すと、ひと呼吸を置いた。どう説明すればいいのだろうか、と奏多は思考を回した。


「仲良くするためにボディータッチは重要かもしれないけど、僕たちは一応、異性なんだよ。まずはおしゃべりから始めよう?」

「では異性ではボディータッチはしてはいけないということなんですか?」

「まあ、特別な関係になったらいいんじゃないか?」

「特別な関係とは恋人ということですか?」

「まあ、そうともいうね」


奏多の言葉に理解したのか、していないのか。中途半端な反応のまま飛行機からの美しい景色にへと視線を移した。奏多は困惑した。自分の言葉は由紀とは親しい中ではないと突き放したように聞こえたのかもしれないと。


「まあ、僕たちが特別な関係にならないことも……」


奏多が動揺してはなった余計な言葉に反応した由紀は奏多のほうに視線移した。そしてただ一言だけ呟いた。


「奏多さんはえっちなんですね」

「ち、ちがっ!?そういうわけで言ったわけじゃ」


奏多の言い訳はもう由紀には届いていなかったようだった。

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一年後に死ぬ僕と無限を生きるロボットの君 伊良(いら) @hirototo

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