第18話 呼んでよ

『どうかな?』

『うん、素敵だった・・・っていうか何時撮ってたの?知らなかった。』


『ハハ、いつも撮ってる。』

『え?』


葉月はかじかを見下ろすと優しく笑う。


『いつも、撮ってる。気づいてないのはかじかだけ。』


優しい瞳にかじかは視線を逸らした。


『ちゃんと教えてよ。恥ずかしいじゃん。』

『何気ないのがいいんだよ。被写体はいつも自然がいい。』


『・・・わかるけど。』


ふと葉月の手がかじかの手に触れて顔を上げた。


『何で呼んでくれないの?いつも。』

『え?』


『あの時、名前・・・呼んでくれただろ?』


かじかの顔が一気に熱くなる。ばれてた。


『な、き、聞こえてたの!!』


『聞こえないけど、そんな気がした。』


葉月が悪戯っぽく笑う。


『なら、今呼んでよ。』


ぐっと手を握られて、その手の熱さにかじかは息を呑んだ。


『呼んで。』


二人きりのブース。

誰もいない部屋を見渡してかじかは葉月を見る。

綺麗な顔は優しくかじかを見つめている。


『・・・ゆ・・・。』


『うん?』


『優雨。』


やっと出た言葉に葉月の顔が柔らかく笑う。


『もう一回。』


『ゆ、優雨。』


葉月の両手がかじかの頬を包んで顔が近づいた。


囁くような葉月の声が聞こえた。


『かじか、好きだよ。』


『・・・うん。』


『ずっと好きだった。かじか、知ってただろ?』


するりと葉月の腕がかじかを抱きしめる。


『・・・知らないよ、そんなの。』


『知らない?まじか・・・じゃあ、今知ったんだからさ。言って。』


『え?』


『俺の事、どう思ってるか。』


ぎゅっと抱きしめられて、かじかは葉月の胸に息を吐く。


きっとうるさい心臓の音は聞かれてる。

バレバレで嘘なんてもう意味がない。


かじかは両手で葉月を抱きしめた。


『・・・好き。』


『もう一回。』


『もう!』


葉月が声を出して笑うと、彼は体を離してかじかを見つめた。


『全部好きだ。まじで全部。照れ屋で可愛くて、ずっと何で俺のものじゃないんだろうって思ってた。』


『ちょ・・・。』


『そういうとこも好き。』


何度も好きといわれて耳がくすぐったい。

心臓も顔も熱くて息が止まりそうだ。


ぐっと引き寄せられて吐息がかかる。


『いい?』


『何?』


『キス。』


ゆっくりと葉月の顔が近づいてかじかはぎゅっと目を瞑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フィルター 蒼開襟 @aoisyatuD

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ