第17話 大切なもの

卒業近くになると忙しなくなってくる。

製作に追われて慌しい。


かじかもその一人で、できれば葉月が喜ぶようなものを作ろうと彼が好きなものを取り入れた映像を作っていた。


出来上がる頃には一般公開される。

公開日、客足の途切れた展示物の前でかじかが立っていると後ろから葉月がやって来た。


『お、凄いな。これ。』


多くの生徒たちの力作だ。

かじかが頷くと葉月はポケットに手をつっこんだ。


『さっき、かじかの作品見てきた。』

『ほんと?どうだった?』


『うん、良かった。俺の好きなやつ。』

『うん。教えてもらったとおりに、モチベ上げてる。』


『ハハハ。そっか。』


葉月は少し真面目な顔をして唇を噛む。


『あのさ・・・俺の作品見た?』


『ううん、まだ。さっき行ったとき混んでて見れなかった。』

『じゃあ、今からどう?ちょうど休憩中だから。』


『え?いいの?』

『うん、調整もかねて確認もするから。』


葉月が言ったようにブースには人がいなかった。

機材の調整が済んでいたようで入れ替わりに状況説明を受けて葉月が交代する。


ブースは写真パネルがずらりと並んでいる。

その奥に葉月の作品があり、今回は写真を映像として流していた。


『違うんだ?』


『うん、今回は結構撮ったから。』


二人きりで作品の前に立つ。

葉月が作品をスタートさせると美しい朝焼けの海が映った。


写真は一枚ずつ変わっていく。色合いを変えて波が動いている。


『綺麗だね。』

『うん・・・。』


かじかは作品を見つめながら葉月が見つめていた世界がこれほど綺麗なのだと実感した。


だからいつも一生懸命見つめていたのだ。


ゆっくりと切り替わる写真の中に遠く人影が映る。


かじかだ。


何か言いたげな顔が見えて、あの時だと気付いた。


唇が『優雨』と名前を呼ぶ。


きっとかじかだけが気付いたことだろう。


撮られていたなんて知らなかった。


それでも聞こえていたはずがない、葉月は遠くにいたから。


作品がかじかの横顔で終わり、少し恥ずかしくなって俯いた。

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