第16話 ゆう

葉月はかじかに答えは求めなかった。


ただ傍にいてとだけ。


だから、かじかは頷いて今までのように二人で会うことになった。


それでもぎこちない空気が時々襲う。


お互いの距離を試すような、どこか甘く切なくなる空気。


友達の距離感は恋人の距離とよく似ている。


手を繋がないだけ、それでも肩は触れる。


唇が触れそうな距離でなくても息がかかる。


春先の海、葉月はカメラを持って撮影をしている。


かじかはぼんやりと空を眺めながら、手で砂を遊ばせている。


こうして何気ない時間を過ごしているのが好きだ。


葉月がああして楽しそうに何かをしているのを見るのがとても好きだ。


顔を上げて少し離れた場所にいる葉月に向かって呟いた。


きっとこの距離なら聞こえないから。


『優雨・・・。』


今まで名前では呼べなかった。

恥ずかしくて。


きっと彼が聞いていたら口に出すことなんて出来なかっただろう。


『好きだよ。』


零れた言葉に涙が出そうになった。


滲んでいく葉月の姿にかじかは目を閉じる。


綺麗な風景に溶ける葉月の微笑みが遠くに見えた。

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