#004.致死量の自由 その4

 (今考えるべきはコイツの能力だ。おそらく使ったのは二回...「壁」とボクの「身体」...むむむ、共通点は何だ?あの時「壁」はボクを挟むように迫ってきたし...「身体」は縛られたような感じだった...んもう、考えるのはボクの性に合わない!)


「ぅシャアアアァ!!」猫は目にもとまらぬ速さで天蓼に飛び掛かった。


(速いな、だが...)天蓼は足を素早く、猫を避ける。


「今の動き...ふむ、分かってきたぞ...」猫は再び隙を伺っている。

「さて、陽が沈む前に終わらせるかな」天蓼の足が元の形に戻る。猫に目を向ける。

「?何を...」


「んッ、んんん、けふッ、こぷぷ、コッ!」


猫が吐いた。


すかさず天蓼が襲い掛かる。猫は天蓼の足をすんでのところで躱し、背中側へ回り込

む。

「ねえ、キミのその能力『圧迫』でしょ?通路の壁もボクの身体もその『圧迫』によるもの..そして発動条件は『触れる』こと。どう?正解?」


「教えるつもりはない」

「返事を待ってた」猫がにやりと笑う。

「がッ」天蓼の背に鋭い痛みが走る。振り返ると、猫が爪を立ててしがみついている。

「ボクのフィルムを紹介するよ。名は『猫も杓子もスタンド・バイ・ミー』、能力は吐いた毛玉が分身になるッ!こッ、ペ...これで三対一だね」分身が背から飛び退き、二匹が天蓼を挟む。


「......」天蓼はジクジクと痛む背を抑え、身を屈める。

吐き捨てられた毛玉が猫の姿になる。三匹の猫は等しい距離から天蓼の様子を伺っている。


(この能力の...いや、ボク自身の弱点は明確にある...もう逃げようとは思わないぞ...ボクはコイツとの戦いでさらに成長できる!あの威嚇してきたヤツらに対してもそうだ...ボクは逃げない。あの『場所』も今に奪い取ってやる...ッ!強がることは強さじゃない。本当の強さは弱点を受け入れることから始まる)


 陽がさらに傾き、どこか遠くの建物に隠れた。通路からの光が失われ、一瞬にして闇が顔を出した。


ざっ、という小さな音とともに三匹は一斉に飛び掛かった。


「そういう一緒に来るところが...やっぱり獣って感じだな」天蓼は落ち着き払った態度で、身を屈めたまま頭上に砂を巻き上げた。

「もう遅い!すでにお前の姿はとらえたッ!」


「さっきの答えだが、『触れる』は正解だ。もう片方は『固定』...それと『収縮』だ。つまり不正解」


天蓼が立ち上がる。頭上に舞い上がった砂の一粒一粒から半透明の柱が伸び、三匹の猫はその勢いのまま柱の檻に顔面を打ち付けた。受け身も取れず、地面に打ち付けられた猫たちを見下して天蓼は続ける。


「お前から話したことだ、オレも話さなきゃ気が済まない...これはオレの狩猟技術だ。名前などない。能力は触れた二点を直線で結ぶ柱を造ること..と、さっき言ったように『固定』と『収縮』ができる。『伸長』はしない。これが全てだ」


「なるほど、感謝するにゃ」


「何?」天蓼が振り返ると、壁の残骸の上に一匹の猫がいた。耳は黒く、鼻と口が身体と同じ純白の長毛で縁取られている。青空よりも透き通った瞳が真っすぐに天蓼を見つめている。


 「ぁ...『主』...」地面に横たわったまま、猫は力なくそう呼んだ。








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獣に詩 水曜 あめ @no_name_1224

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