第2話

唐突の親友の引っ越しは心にくるものがあった。というか、何より周りの友達には言っていた癖に俺には言ってくれなかったのが一番腹が立つ。本人の口からじゃなくて第三者の口から教えてもらうなんて、しかも前日に。本当に腹が立つ。あいつなんて嫌いだ。早く転校するなり引っ越すなりしちゃえばいいんだ…

親友だなんて思ってたの…俺だけだったのかな。文化祭前日、他の人達は準備を頑張っている中こっそり抜け出してきて二人でサボりながらした会話を思い出す。お互いなんとも思っていないような素振りを見せあっていた。いや、あいつはなんとも思っていなかったのかもしれない。でも少なくとも俺は、悲しくて寂しくて涙が溢れそうになっていた。だけど絶対泣いてなんかやるもんかって涙が溢れそうなのを堪えて強がっていた。

「ご飯できたわよ〜。」

遠くから母さんの呼ぶ声がする。泣いてぐしゃぐしゃになった目を擦りながらリビングへと向かう。

「あんた、何その顔?」

母さんがびっくりした顔で覗き込んできた。

「あいつ引っ越すって。」

俺は消え入りそうな声で言った。母さんにはよくあいつとの出来事を話していた。俺高校に入って初めて親友って呼べる人が出来たんだって。本当に面白くてダメなことって分かってても二人でよくサボったりしちゃうんだって。サボった話をした時は流石にちょっと怒られたけど、怒った後にはまぁそれも青春よねって笑ってくれた。

「そう…今はいっぱい泣きなさい。お母さんずっと聞いてるから思ってること全部吐き出していいのよ。」

母さんのその言葉で我慢していた涙が溢れでる。なんで俺に一番に言ってくれなかったんだ。俺はあいつのこと親友だって、かけがえのない大切な友達だと思っていたのに。俺は…俺は…!母さんは黙って俺の泣いている姿を見ていた。その日はひたすら泣きじゃくった。こんなに泣いたのはいつぶりだろう。泣いて泣いて泣きまくって…俺の中で一つ覚悟が決まった。あいつが俺の事どう思っていたっていいんだ。俺は少なくともあいつに色んな景色を見せてもらった。あいつがどう思っていたって、俺は親友だと思ってる。それはゆらがない。なら、親友相手に俺ができること。黙って背中をさすってくれている母さんの方を見て言う。

「母さん、俺覚悟決めたわ。あいつ明日の文化祭は出れるらしいから、引っ越したくないなって思わせるくらい楽しませてやる。俺と離れるの嫌になるくらいに。」

母さんは少し驚いた顔をした後、ゆっくり微笑んだ。

「うん、その意気よ。強くなったわね。」

机の上にはたくさんのティッシュのゴミと、冷えきったご飯。

「あーあ。なんか泣いたら腹減ったわ。」

「ふふ、そうね。いま温めるからちょっと待ってね。」

待ってろ親友。最高の文化祭にしてやるよ。

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青夏 みる=みさいくる @mill-mi

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