寝顔という名の危険物

「うっ……気持ち悪い……」

 胃の中がぐるぐるして吐きそう。あんなの人が乗るもんじゃないだろ。

「だから乗んなくてもいいぞって言ったのに」

 大丈夫だと思ったんだが。やめておくべきだったか。

 腹を揺すり前傾姿勢で近くのベンチまで歩いて行く。

「俺はここで休んでるからお前らは遊んで来ていいぞ」

「じゃあ俺次あそこに行きたーい」

 蓮を除いた四人が仲良くアトラクションへ歩いていく。

「宮島、俺のことは気するな。お前も行ってくるといい」

 だが、蓮は俺の言葉に反して隣に腰掛けて来る。

「私も少し酔ってしまって。よくあの人達は平気でいられますね」

 本当に。こんなことを気にせずに楽しめるあいつ等が羨ましい。

 俺達の間に沈黙が流れる。


「あの、一つ気になることがあって」

 蓮が沈黙を打ち破り、俺に質問を投げかける。

「どうしてあの時は声をかけて来たのですか?」

 あの時あの時……この前の土曜日のことか。

 理由は寂しそうで、見捨てられなかったから。いや、流石に恥ずかしすぎる。

「特に理由はない。なんとなくだ」

「私には言えない内容なのですか?」

 俺が曖昧に答えると蓮が少し意地悪く質問を続ける。

「別にそういうわけじゃないが……」

 なら言ってみてという表情でこちらを見てくる。はぁ、分かったよ。

「少し寂しそうにしてたから」

 やはり口に出すと恥ずかしい。キモいとか思われないよな。

 なんだか顔がアツい気がする。蓮に赤くなった顔を見られないよう反対側を向く。

「ふふ、そうですか。顔に出てしまっていたようですね」

 くそっ、なんか遊ばれてる気がする。こっちだって聞いてやろう。

「お前こそ、なんであんな格好で座ってたんだよ」

「っそ、それは……」

 蓮の顔がズンと暗くなる。あれ?地雷かこれ。

「ちょっとした悩みごとがあって……それをぼんやりと考えていただけです」

 すぐに嘘と分かる内容だが、深く掘ってはいけない感じだ。そういうことにしといてやろう。


「なんだか暗い雰囲気になってしまいましたね。体調はどうですか?」

「結構良くなった」

 話しているうちに回復していたようだ。これなら翔達に合流できる。

 腰を上げ、軽くのびをする。

「さて、あいつ等のところにでも戻るか?」

 俺の提案に蓮は少し考え込む。

「ほとんど時間は残っていないですし、お土産を買いに行くのはどうでしょう?」

 残りは20分。お土産屋と集合場所は近くにあったはずだし、その案にのろう。

「分かった。俺が翔に連絡しておこう」

「お願いします」



 スマホを取り出し連絡を取る。


 『宮島とお土産を買って帰るからそのまま四人で行動しておいてくれ』

翔『分かった。じゃあまたバスでな』


店に着き蓮と商品を選ぶ。

クッキーなどのお菓子からタオルやコップなどの日用品まで幅広いお土産がずらりと並んでいる。俺も何か買っておいてやるか。

 お菓子を三箱持ち、会計を終える。

「何にするか決まったか?」

「いえ…どれも魅力的で…」

 どうやら天使は優柔不断らしい。

 やっと商品を選んだかと思えば、今度は財布とにらめっこ。

 この商品を取っては戻し、あの商品を取っては戻し…って、ああもう!

「お金が足りないなら貸してやるぞ」

「さ、流石にそれは」

「だけど、またここに来れるか分からないだろ。だったら欲しいものは買っておいた方が後悔しないぞ。今度返して貰えばそれでいい」

「では、少しだけお借りします」

 足りない分を渡し蓮が会計を済ませる。

「本当にありがとうございます」

「買いたいものが買えてよかったな。そしたら戻るとしよう」

 残り時間は……え、3分!?


「やばいやばい時間がない!」

「熟考していて時間のことを忘れていました!」

 距離は近いし走れば間に合うだろう。

「荷物持ってやるから全力で走るぞ!」

「は、はい!」

 荷物を持ち、蓮の速度に合わせて走る。

「おー、二人共ギリギリだな。早く席に座れー」

 な、何とか間に合った。

 二人で息を切らしバスに乗り込む。

 ん?俺達が隣同士になるよう座席が変わってる。誰だ仕組んだやつは。

 時間もないので蓮を窓側にし席に座る。

「これ荷物な」

「ありがとうございます。間に合って良かった」

 爽やかで楽しそうな笑顔。疲れたろうに。

「そうだ班長これ」

 翔にお土産屋で買ってきたお菓子を渡す。

「さっきのお詫びだ。みんなに分けておいてくれ」

「流石は颯斗くん、分かってますな〜」


 バスが出発し、5分くらい経っただろうか。

 みんなが疲れでウトウトとし始める。

 俺も少し寝ておこうと目を瞑る。

 すると左肩にトンッと何かが乗っかってくる。

 まさかと思いつつ目を開けると、案の定蓮の頭だった。

 ち、近い。

 髪からは先程走ったのにも関わらず爽やかで良い香りが。長いまつ毛に肌荒れのない艶やかな肌。「……くぅ……くぅ……」と可愛い小さな寝息を立てている。

 って、寝ている人の顔を覗くとかキモすぎるだろ俺。

 なんだか久しぶりにドキドキしている。こりゃ、寝れそうにない。

 起こすのも悪いし、心を平穏に保ちこの時間を過ごそう。

 と思ってもついつい目がそちらに行ってしまう。

 どうやったらこんなサラサラでツヤツヤとした髪質になるんだ?というか、本当にパーツパーツが完璧だな。


「あ、あれ?わたし、ねちゃってた?」

 蓮が目を覚まし、寝起きのふにゃふにゃとした声を出す。

 そしてスマホを見てるふりをしている俺と目が合う。

「ああっ!ごめんなさい。重くなかったですか?」

「大丈夫だ。何も気にすることはない」

 ここからはただただ気まずい空気が流れていた――――




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クラスの天使が元男だった 音音音音 @FutaotoNeon

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