校外学習

校外学習

 神鶴高校で人気なイベントの一つ、校外学習。クラスの仲間との親睦を深めるのが目的で毎年4月に行われている。

 一年生の俺達は自然公園での班活動となっている。

 主な内容はカレー作り。その後、時間が余れば自由時間として班員で園内を回ることが可能。


 すでに班分けは終わっており、班長は翔だ。

「メンバー確認をするぞー。まず班長である俺、颯斗、倉石迅くらいししゅん松浦美麗まつうらみれい嶺田朱莉みねだあかり、宮島蓮。よし全員いるな。せんせー全員います!」

「おっけー」

 男女別に班を作りくじ引きで合体させる。先生も考えたもんだ。

「颯斗、おはよう」

「おはよう、楽しみだな」

 迅は話し方や雰囲気が優しい。クラスに知り合いが居らず、組む相手が見つからなかったところに翔が誘いに行った。

 翔の行動力は俺には真似できない代物だ。

 彼とはなんだか長い付き合いになる気がする。

 

「よーし、4組全員バスに乗れー」

 一斉にバスに乗り込んで行く。

 確か隣は……

「颯斗くん、よろしくね」

「よろしく松浦」

「名前で呼んでよ。何か距離とられてる感じしちゃうからさ」

 美麗はなんだか翔に近しいものを感じる。

 話し方とか行動の仕方とか。仲良くはなれそうだな。

「颯斗くんって、趣味は何?」

「料理とか、ゲームとか」

 最近はやる時間が少なくなってきているが。

「へぇ〜料理できるんだ。家庭的だねぇ」

「出来たほうが役に立つからな」

「私はね――――」

 美麗と話しながらバスに揺られていった。


「「「着いたー!」」」

 公園につき調理場へと向かう。

 施設の人からカレーの作り方、火の起こし方、注意事項など説明を聞き、ついにカレー作りが始まる。

「みんな何を担当する?」

 担当の振り分けは火、米、調理。

「俺は火を起こすわ」

「僕も手伝うよ」 

 翔と迅は火起こしに。

「俺は調理を」

「私も調理でお願いします」

 俺と蓮で調理を。

「それじゃ私たちは残り物をやるね。みんな頑張ろー!」

「「「おー!」」」

 美麗の掛け声に返答し、それぞれが持ち場に着いた。


「よろしく」

「よろしくお願いします」

 男子たちの嫉妬の視線が俺に集中する。

 天使との共同作業。彼らにとっては絶好のシチュエーションなのだろう。

 そんな視線を気にもとめず嫉妬の原因彼女は手慣れた包丁さばきで具材を切る。

 俺も負けていられない。にんじんは火が通りやすいよう薄めにと言っていたな。

 それにしても料理までお得意とは……本当にスペックが高い。


「……っ!」

 黙々と作業をしていた蓮から小さな悲鳴が上がる。

 どうやら包丁で指を切ったようだ。

「大丈夫か?」

「ええ、ちょっとした怪我なので。お構いなく」

 お構いなくったって放置してたら後々大変なことになるかもしれない。

 たしか財布の中に絆創膏を入れていたはず。

「指出してくれ。絆創膏貼ってやるから」

 心配されたくないといった表情で、左の人差し指をみせる。

 深くは無いようだ。本当に軽い怪我で安心した。

「よし、これでOK」

「ありがとうございます」

 ニコッと頬を緩める。唐突なそれは心臓に悪い。

 動揺する心を押しつぶす。

「残りも少ないし、あとは俺がやっておこう。お前は休んでおけ」

「いえ、そういうわけにはいきません。私も手伝います」

「だが、次は大きな怪我をするかもしれん。俺に任せておけ」

「……分かりました」

 渋々納得してくれたようだ。


 これで最後っと。俺達の仕事は終わった。翔たちのところへ行こう。 

「具材切り終わったぞ」

「お前ら早すぎだろ!やっと今火がつき始めたっていうのに」

 遅いぞ一年。しっかりしろ。

 数分後、翔から声がかかる。

「火起こせたぞー」

 炭にしてはそこそこの火力。これならいい感じに作れるかも。

「颯斗……後は頼みましたよ……」

「はいはい。お疲れお疲れ」

 鍋に肉を入れ、軽く火が通るまで待つ。

 こんなもんかな。野菜と水を入れてしまおう。

 後はしばらく放置。炭ではコンロ並みの火力は出せないのでかなりの時間がかかる。

「翔、硬さ確認を頼む」

「俺毒味役かよ。……うん、ちょうどいいかも」

 そしたらルーを入れてっと。


「料理ができる男子はかっこいいねぇ」

「うんうん」

 美麗と朱莉が話している。

 朱莉は美麗と真反対の性格をしている。口数が少なく、おっとりとしていて体格は小柄だ。

「そうでしょ颯斗くん」

「はいはい、ありがとさん。これで完成っと」

 全員分のご飯とカレーをよそい席に座る。

「「「いただきます」」」

 スプーンですくい口に運ぶ。

 美味っ!ふう、上手くできていたようで安心だ。

「美味しい〜!これは成功だな」

「みんなで作るカレーは別格だね」

 みんなも美味しいそうに食べているな。

 正面にいる蓮に視線を移す。

「宮島」

 口についているぞと自分の口元を指す。

 ジェスチャーに気づいた彼女は即座に口元を拭う。

 よほど恥ずかしかったのか、白い肌をうっすらと朱に染める。

 天使の色々な一面が見れて楽しいな。

「「「ごちそうさま」」」

 みんなでテキパキと片付けをする。

「こっからは自由時間だね。何か乗りたいアトラクションある?」

 美麗が声をかけ、これから何をするか決める。

「俺、乗りたいものが一つあってさ。ついてきて」


「翔、マジでこれに乗るのか?」

「マジです」

 いわゆるバイキング系のアトラクション。

 ご飯食べたばっかですよ。

「楽しそうじゃん」

「僕、こういうの初めて乗るなあ」

 みんな乗る感じですか。

「別に乗りたくなかったら乗らなくても良いんだぞ」

「いや、行くよ」

 大丈夫大丈夫と自己暗示をかけアトラクションに乗った。

 




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