女神一人目

女神一人目

 月曜日、また普段と変わらない学校生活が始まる。

 席に着き蓮を後ろから眺める。一昨日の件もあり、大丈夫だろうかと少し心配していたが、いつもの笑顔を振りまいているので安心した。いや、安心していいのか?ま、俺には関係ないからいいか。


 暇つぶしにスマホを見ていると一人の少年が近づいてくる。

「よぉ颯斗。一週間ぶりだな。まさか入学早々に風邪をひくとは思ってなかったわ」

 野坂翔のざかかける。中学からの友達で、お互い人冗談を言い合う仲。ポジティブで行動力が高く、初対面の人にも臆せず話しかける。親しみやすい人間性を持ち普段はヘラヘラしているが、細かい気配りとリーダーシップがあるので誰にでも好かれる性格をしている。

 

「馬鹿でも風邪を引いたことには気づくんだな」

「お前は体調も口も元気そうで安心したよ」

 翔が良かった良かったという表情を見せる。

「お前、今年から一人暮らしなんだろ?大丈夫だったのか?」

「ま、なんとかな」

 いいなぁ、一人暮らし。俺もしてみたかった。

「そんなら、何か困ったことがあったら遠慮なく言えよ。看病くらいならしてやる」

「あら、お顔によらずお優しいことで」

 なんだとこの野郎。

 翔を鋭く睨みつける。

「そういうところだぞ。お前は普段から表情が硬すぎるんだよ。もっと柔らかくすればモテると思うけどな?」

 そんな事言われてもどうしようもないだろ。

「余計なお世話だ」

 せっかく優しくしてやろうと思ったのに……今度行ったとき毒でも持ってやろうかな?

 

「てか話変わるんだけど、さっき宮島のこと見てたよな。ふぅん。へぇ、お前が?いがーい」

「やめろ、変な勘違いするな」

 気怠さと共に言い返し、はぁ…とため息をつく。

「別に隠す必要なんて無いんだぜぇ。容姿、完璧だもんな」

「……うるさいぞ」

 流石にここまで言われると面倒くさい。

 声を低くし、不機嫌な態度で言い返す。

「すまんすまん。お前が女子に興味を持つことなんて滅多にないからよ。ちょっとからかってやろうと思っただけだ」

「まぁでも、可愛さは頭一つ…いや、腰一つ抜けているよな」

「何その微妙な部位」

「でも、付き合いたいとは思わないし、付き合えるとも思わん」

「言ってることは分からんでもない」

 なんだかんだでこいつもあまり女子に興味を持ってないんだよな。

「もうこの話は終わりにしよう。さっさと席に帰れ」

「せっかくの高校生活なんだ、ちょっとは自分を変えてみるのも良いかもしれんぞ」

 そう言って席に帰って行った。

 

「颯斗ー、部活動見学行こうぜー」

 放課後、帰りの支度をしている俺に翔が誘ってくる。

「俺部活入る予定ないんだけど」

「いいじゃんいいじゃん。見学しに行くだけだから」

 正直帰りたいが、見学くらいなら付き合ってやるか。

「分かった。で、どこの部に行くんだ?」

 即座にジャージに着替え、荷物を背負い教室を出る。

「ズバリ、テニス部。あそこに俺の知ってる先輩がいるんだよ」

 テニスか。俺は中学の頃テニス部に入っていたからある程度はできるのだが……。

「お前テニスやったこと無いだろ」

「だから少しコツを教えてもらおうと思って」

 

 靴に履き替え、テニスコートへ向かう。

 確か、テニス部は男女混合だったっけか。夢はあるな。

「翔、先輩は見つかったか?」

「うーんと、あっいたいた。あの人」

 一人の女子生徒を指差す。

 たしかあの人って……。

菅原礼恵すがわらあやね先輩。この学校に通ってりゃ名前くらい聞いたことあんだろ」


 女神の一人、管原礼恵。文武両道で常に成績上位、県大会の出場経験もあるそうでテニス部ではエースとして活躍している。

 彼女の評判はかなり高く、話を聞くに人を放っておけない面倒見の良い性格で、男子からも女子からも好かれている。

 黒髪黒目のロングストレート、薄っすらと日焼けした肌は彼女をより魅力的に見せてくる。高身長でスタイル抜群。まさに理想の体型ってやつだ。 

 おそらく現状この学校一番人気なんじゃないだろうか。


 こちらに気付いた礼恵が小走りで近づいてくる。

「翔くん来てくれたんだね」

「もちろんですよ。友達も連れてきました」

 挨拶はしておかなきゃか。

「はじめまして風凪颯斗です。よろしくお願いします」

「颯斗くんね。よろしく。それじゃみんなコートの近くに集まってー」


「はぁ〜つかれたな」

 やばい。何がやばいって足がやばい。破裂しそう。こんなに動いたの何ヶ月ぶりだろうか。

「……きつすぎる……」

「お前体力なさすぎだろ。部活やらないんだったら、たまには体うごかして体力つけておけよ」

 そうします。明日の筋肉痛が恐ろしい。

 息を整えているところに礼恵がやってくる。

「ふたりともお疲れ様」

「先輩もお疲れ様です」

「今日はここまで、また明日ね」

「はい、明日も来ますね」

 俺は行かんからな。

「「ありがとうございました」」


「てか、なんでお前管原先輩と知り合いなんだ?」

「ヒ・ミ・ツ!」

 声のトーンを上げ、人差し指を口に当てる。気持ち悪いことするな。

 まあ、無理に聞く必要もないか。

「ねえ、なんで黙るの?問いただしてよ。俺がただのきもいやつになっちゃうじゃん」

 なんだコイツ。自覚あるだけましか。

「そんな事言わないで教えてくれってー」

「幼馴染なんだ」

「ふーん」

「もっと関心を持ちたまえ」

 幼馴染ね。そういや、あいつもこの高校に来るって言ってたな。

「明日も一緒に行かね?」

「明日からは有料だ」

「んぁー、体験版終了しちまったか」

 入るつもりもない部活に時間かけてやってんだ。それくらいはしてもらわないと。

「そういや、来週校外学習だな。俺、今度服買いに行こうと思ってんだけど、お前着ていく服とかあんの?」

 神鶴高校の校外学習は、制服ではなく私服での参加となっている。ファッションセンスが問われるな。

「俺はあるから大丈夫だ」

 校外学習……無事に終わるといいが。

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