第7話動機

小林クリニックに黒井川は向かった。

診療終了後に川崎を連れて、話をした。

「小林さん、岡田准一さんが自首しました」

小林は、小さな声で、えッと言った。

「私はこれが事件の真相とは理解しません」

小林はソファーに座り、黒井川と対峙した。

「私には何の事かさっぱり」

「あなた、立神昇を殴りましたね?」

「……」

「10年前に、あなたと寺前邦郎さんは婚約していた。そして、立神に殺された恨みで酔っ払って帰る立神を殴ったんです」

「私はやってまんよ。どうやって、転落死させるんですか?黒井川さん」

黒井川は座り直して、

「そこが事件のカギなんです。あなたは立神を殴って殺したと勘違いしました。実は生きていたんです。たまたま、目撃した岡田さんは気絶した立神を現場から運び防潮堤から落としたんです」

「……」

「岡田さんは、あなたとの関係を知る唯一の友人です。その友情が今回の事件の真相です」

「……」

「どうですか?小林千紗さん」

小林は涙を流しながら、首を縦に振った。


岡田准一は殺人の容疑で逮捕され小林は傷害の罪で書類送検された。


知多大学で、また、特別講師として黒井川は教壇に立ち、夕方は居酒屋「まさき」で、刺し身とビールを楽しんだ。

長い夏は終了した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

知多海岸線殺人事件 羽弦トリス @September-0919

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ