第6話自首

それは、川崎巡査長が部下に運転をさせて、ワトソン君からの話しを聴きに向かっていた。

鑑識係長の話しでは、懐中電灯からは立神の指紋しか検出出来なかった。また、体内に大量のアルコールが残っていた。

すると、スマホが鳴る。

「はい、川崎……な、何だって!うんうん、すぐに黒井川さんを連れて、そっちに向う」

黒井川は、現場で防犯カメラが無いのか捜査していた。

車は現場に到着した。

「黒井川警部、本件の犯人が自首してきました」

黒井川は汗を拭きながら、

「ほぅ、誰だ?」

「岡田純一です」

「何て、言ってるの?」

「立神を殴って殺して、防潮堤から落としたと」

「そうか。署に戻ろう」

「はっ」


取り調べ室に、黒井川と岡田が椅子に座り話しを聴いた。

「あなたが、立神昇を殺害したのですか?」

「はい」

「どうして?」

「立神は、寺前邦郎を陥れて自殺においこんだのです。そして、不明金は全てアイツが持っていきました」

岡田はうつむき加減に話した。

「岡田さんは、その情報はどこで聴いたのですか?」

「元同僚の松本さんからです」


1ヶ月前。

居酒屋まさきの閉店時間が過ぎ、暖簾を平岡厚子が取り外し、残っているいつもの客に松本は話した。

「厚子さん。あなたのお兄さんは立神と言う男に陥れられたのです。横領したのは立神です。寺前さんと僕らは騙されました。我々の書類を改ざんしたのです。それで、クビになり多額の弁償金を払いました。1千万円でした。私は300万円しか作れず、残りは結婚式とマイホームの為の頭金に使う予定の財産を全て寺前さんは失い、失意のうちに自ら命を断ったのです」

平岡厚子は倒れそうになり、主人の利樹に支えられた。

「結婚って、どなたと結婚するつもりだったんでしょうか?」

と、利樹が言う。

「それは、私は知りません」

その場にいた、小林千紗は松本に質問した。

「それが事実なら、今頃どうして話したんですか?」

「アイツがまた、横領してこの立松町に逃げ込むらしいからです。経理部の後輩から聴きました。来月辺りには現れるのではないでしょうか?私は15年前の体型と変わりましたので万が一、この店に来たら顔を見せます」


「あなたは、それを聴いてどうされようと考えたのですか?」

「私は、殺そうと思いました」

「何故?」

「アイツは1人殺しているんです。野放しにしたら必ず同じ事をします。現にまた横領してクビになったのですから、昔の様に誰かが犠牲になるのを放っておけなかったのです」

黒井川はため息をついた。

「皆さんは、既に私が店で立神と会った時は、あの男が立神と理解していたんですね?」

「はい」


取り調べが終わると、黒井川は喫煙所でタバコを吸っていた。

近くの川崎は、

「これで、事件は解決ですね?」

と、ホッとした表情で言った。

「いや、まだ、彼らは隠している」

「誰を疑っているんですか?」

「管理官には言うなよ!あの懐中電灯が見つかった直ぐ側にはクリニックがある」

「クリニック?あっ、小林千紗ですか」

「うん。ちょっと、今からクリニックに行こうか?僕は全て分かった」

「松本は犯人じゃ無いんですか?」

「いや、犯人に一番近いだけ」

2人は、小林クリニックに向った。

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