恋のシュガーは控えめに、笑いはたっぷりで

バーゲンナッツ

0.プロローグ

「カフェバイトは女の子の夢なの!」


そうやって僕に詰め寄ってくるのはバイトの先輩、星野美咲だ。金髪、いやクリーム色に近い髪色に両耳についたピアス。うん、風貌は完全にギャルだ。いや、中身もギャルか。


「はい。それは分かりましたが、その夢はこんなホイップクリーム山盛りのコーヒーを作ることなんですか?」


そのように僕が言うと美咲は食い気味で反論してくる。


「かわいいじゃん!映えてるじゃん!人気出そうじゃん!!」


すかさず僕も反論する。


「映えって。そもそも店の雰囲気に合わないです。だいたい...」


言いかけてる途中に美咲が反論してくる。


「新しいことも取り入れなきゃだめなの!悠斗みたいにモブメガネ掛けてる感性じゃだめなの!」


なんだモブメガネって。メガネにモブもクソもあるか。


そんな言い合いをしていると、カツカツとヒールの音が聞こえてくる。


僕と美咲はその音を聞いて察した。


「あ、やべ」


そう言って逃げようとしたが遅かった。


バシッ、バシッ


頭をメニューで叩かれる。

頭を叩かれてから振り返ると、そこには黒髪ショートで、いかにも男まさりな女性がいた。

バイトリーダーだ。身長も僕より頭一つ高く、「強そう」の一言が似合う。


「ダブル星野、お前ら本当仲良いな。でも忘れるな。バイト中だ。お客様もいる。」


見つかってしまった。

元はと言えば美咲が喧嘩を売ってきたから。と言い返そうとした瞬間。


「美咲から喧嘩を売ってきたからとでも言いたそうげな目だな、同罪だ。」


流石バイトリーダー。手強い。


バイトリーダーが続けて言う。


「仲良し2人で、仲良く掃除して帰れよ」


僕と美咲は声を揃えて


「はーい」


と返事する。バイトリーダーに勝てないことなんて分かりきっているからだ。


なんか、毎週2人で掃除してる気がするな。


普段と何も変わらない一幕。


今日も、ここ喫茶「夢の住処」でのバイトが始まる。



**********************


「ゆーとー。棚の上届かないから掃除頼んだー。」


美咲がテーブルの木目を水拭きしながら声をかけてくる。


「はーい、了解。」 


今は20時。一般的な飲食店よりも早く、ここ喫茶「夢の住処」は19時半に締まる。

本来であれば今頃は帰宅の準備をしているような時間だが、例によって僕と美咲は清掃をしている。


棚の上やるか。僕と美咲じゃそんなに身長変わらないんだけどな。


そんな事を思いながら、足場を持ってきて棚の上を水拭き、乾拭きする。


僕と美咲はあまり身長差がない。頭半分僕が高いくらいだろうか。最も、学年の差もあるが。


「そういえば美咲ってバイト始めて1年経つんだっけ?」


ふと、問いかけると美咲は満面の笑み、いや、満面の得意げな笑みでこちらに詰め寄ってくる。


「そー。だから生意気いっちゃダメだぞ!”後輩”の悠斗くん。」


思いっきり「後輩」の部分に力を入れて言ってくる。


であれば、丁重に返事をしよう。


「分かりました、星野さん」


「あー、だめだめ!星野だと悠斗も星野じゃん!ややこしい。美咲様と呼びなさい!」


あ、調子乗った。


「分かりました、美咲」


「あー!なんで!!」


美咲が思いっきりツッコミを入れてくる。それはもう、水拭きした雑巾ぶん投げてくるくらいには。


そもそも、僕も最初から美咲に敬語を使ってた訳じゃない。バイトを始めた当初は、思いっきりぎこちない敬語を使っていた。



**********************


「初めまして、今日からこのお店で働かせてていただきます、蒼生高校1年の星野悠斗です。よろしくお願いします。」


高校1年生の5月、僕はここ喫茶「夢の住処」でバイトを始めた。

バイトを始めた理由は至ってシンプルで、高校生になったらバイトをして自分でお小遣いを捻出するよう、親に言われていたからだ。


「はい、よろしくね。皆さん、星野さんはバイト初めてなので、しっかりお仕事教えてあげてくださいね。」


そう言って僕の紹介をしてくれたのは、この店のマスター、翁長景明さんだ。

白髪になった髪も様になる、落ち着いた雰囲気の、正にカフェのマスターな風貌をしている。面接の時もそうだったが、ベストとタイを着用しており、その姿もまた様になっている。


「はいはい!私も星野だから、悠斗さんでいいですか!」

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