第1話 綾瀬さん
私は人前で喋ることが苦手だ。
目立ちたくないから、とか。
緊張するから、とか。
そういうことではない。
上手く喋ることができないのだ。
「吃音症」というものを知っているだろうか?
これは喋るときに同じ音を何度も繰り返してしまったり、1つの音を伸ばしてしまったり、その音自体を出すのに時間がかかってしまうというような、どもりのことである。
生まれつき私はこの症状に悩まされている。
この前もそうだ。
中学生になり、初めて見る人が多い中、自己紹介をしなければいけない。
本当に地獄と言っていいだろう。
ガタンッ ギーッ
(なんて言おうかな、どうしよう...!)
「綾瀬葉月(あやせはづき)です。」
(あ、もう自己紹介始まってるし!
...ってあの子私と同じ小学校の子じゃん。
やっぱ綺麗だな。)
「趣味は...。えーっと、音楽を聴いたり作っ たりすることです!
みんなと仲良く過ごせたらいいなと思って ます。
これから1年間よろしくお願いします!」
(綾瀬さん、めっちゃ真面目じゃん。
ていうか男子の顔。
確かにすごい可愛い顔してるけど!
そこまでニヤニヤしてると怖っ...!)
そう、綾瀬さんは怖いほどモテる。
顔が可愛いのはもちろん。
細すぎず太すぎない、無駄のないスタイル。
性格も良いのだろう。
まさに、アニメや漫画でよく見るヒロイン的な感じなんだろう。
彼女を嫌いだという人は見たことがない。
それほどすごい人だ。
そんなことを考えているうちに、そろそろ私の番だ。
(まあ最悪、名前とよろしくだけ言っておけばいいでしょう。)
「じゃあ、次15番ー。」
ガタンッ ギーッ
「た、たたた、たかっみねおっと、と(たかみねおと)です。」
やっぱりここで教室はざわつき始める。
「...よっ、よろし、くお、っね、ね、がい、しまっ、すっ!」
(やばい、いつもより緊張する!?
なんで、なんで...!
と、とりあえず、早く座ろう!)
その時、先生が口を開いた。
「どうしたんだ高嶺? その変な喋り方は。」
(良かった、終わったー!
まだちょっとざわざわしてるけど。
まあ、終わったんならいっかー!
...って! は? 何言ってんのこいつ!?
今もう瀕死状態なのに完全に殺す気かよ!)
「喋り方もそうだが...。
なんか他にはないのか? 趣味とかなんか。」
(ねーよ! うるせーなあ!
私の気持ち考えてよ...っ!)
本心ではそう思っているものの、正直に言うと大変なことになるのは分かっている。
「しゅ、しゅみはっ、どっく、し、しょを、するこっ、とで、すっ!」
一瞬静寂が流れたものの、すぐに元通りだ。
「音叶ちゃん、ちょっと何言ってるの?(笑)」
「もっとはっきり言ってくれないとわかんないんだけどー!」
「そのさー、何回も同じ音を繰り返して喋るのやめなよ!」
「聞き取りづらいし、時間無駄になるから早くして!(笑)」
こうなることは分かっていた。
今までと同じだ。
こうやって何も知らない奴らが勝手に勘違いして、馬鹿にして。
もう最悪だ。
(今日も早退しようかな...。)
ガタンッ! バンッ!!!
「ちょっと、君たちさ!」
誰かが声を荒らげて言った。
(誰...? こんなことになるの初めてだ...!)
「高嶺さんのこと何も知らない癖に、そうやって馬鹿にするのやめて。
高嶺さんが可哀想じゃん!」
「えっ! あ、あやっ、せ、さんっ!?」
初めて綾瀬さんのあんな声を聞いた。
寤寐思服 (ごびしふく) 古田依音 @Furuta_2010
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