第3話 シロの恩返し

 神崎は、暗闇の中にいた。どれくらい時間が経ったのだろう。

 何か音がする。


「もしもし」

「もしもし」

 人の声?


 目を開けた。


「あっ、目があいた。」

「大丈夫か?」

 サングラスをかけた茶髪の軽い感じの若者が覗きこんでいる。


「よかったー。死んでなくて。」

 横で軽薄そうな金色の髪のお姉さんが安堵した様な表情をしている。


 二人とも知らない人だ。服装も軽装で山の奥深くに入る様な服装には見えない。

 

「人が倒れてるのが見えたから、声をかけたけど、死んでたら面度臭くなるとこだった。」

 お姉さんの方が何気に失礼な事を言う。


「あっ、俺、遭難してしまって。」

「あなた達は、そんな格好で山に入って、山の達人ですか?」

 神崎が虚ろな目をして二人に尋ねる。


「何それ、おかしいんだけど。」

 お姉さんにうけている。


「遭難って、こんな分かりやすい所で遭難か。」

「俺達は、車で通りかかったら草の中に人が倒れているのが見えたから、車を脇に停めて降りてきたんだよ。」

 茶髪の男が応えた。


「車?」

 神崎は横を向いて目を見張った。そこには、さっきまで無かったアスファルトの2車線の道路が通っていた。


「な、なんだこれは。さっきまでこんな道路無かったのに。」


 確かに、さっきまであまりにも深く、見渡す限り木と草しかなかった森の中に立派な道路が出現していた。

 神崎は、車の中で再び意識を失くすのだか、この二人によって救出された。かなり衰弱していたが、その後順調に回復した。


 170年前、シロは何年も何百回も神崎を捜して同じ場所を歩いた。

 やがてシロの歩いた場所は土が固くなり、草が生えなくなった。

 歩き易くなったその場所を他の動物が通るようになった。イタチが通り、キツネが通り、タヌキや熊や他の動物も通るようになっていった。

 やがて、森の深くまで行くのが容易たやすくなるため人も利用するようになった。

 すると荷車も通るようになり段々広く長くなっていった。

 そして現在、その道は山の中を突き抜けるための道路として本格的に整地されアスファルトが敷かれ、森を突き抜ける車道になった。



 シロは神崎にお礼をしたくても、その願いはかなわなかったが、シロが神崎を捜して歩き続けたからこそ、170年をかけてここに道ができ、そのお陰で神崎を助ける事ができたのだ。

 

 

 

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ウサギの恩返し 九文里 @kokonotumori

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