【探索の時代】宝器

――召喚士の魔力――

多くの魔力が必要になるため、実践レベルで召喚魔法を扱える人間は多くはない。

最も、1日に1回が限度である場合が多いが。

―――――――




アスタリアの街はいつも活気に満ち溢れている。

石畳の広場を囲むように並ぶ店々からは、商人たちの声や、商品を買い求める人々の賑やかな話し声が絶えない。

中央には壮大な王宮がそびえ立ち、その美しい装飾と高い塔は、街全体を見下ろすように存在感を放っている。

アスタリアの街路は広く、花壇には色とりどりの花々が咲き誇り、街を行き交う人々の顔には笑顔が溢れている。


そのアスタリアの片隅に、年季の入った鍛冶屋がある。

父親と共に鍛冶屋を営むユニカは、毎朝早くから仕事に取りかかる。

彼女の一日は、父親の声で始まる。


「ユニカ、もう朝だぞ。店を開けるから手伝ってくれ。」


ベッドの上で自身の描いた設計図にまみれながらユニカは目を開ける。

重い瞼をこすりながら、服を着替え、顔を洗い、軽い朝食を済ませた後に鍛冶屋の作業場へと向かう。

肩口程まである自慢の赤毛を結びながら作業場に入ると、既に父親が火を入れた炉が赤々と燃えており、その熱気が部屋中に漂っている。


「お父さん、今日はずいぶんと早いね。」


既に作業を始めている父親に声を掛ける。

振り返ることなく、大きな声で返事が返ってきた。


「今日はやらなきゃいけないことが多いんでな、今日は悪いが店番を頼むぞ。」


ユニカは鍜治場から店へ行き、軽く掃除をする。

窓を開け、飾られた武具の埃を払った。

店の中には、ひと際目立つ美しい剣が飾られている。

彼女は作業に集中しながらも、時折その剣に目をやり、見惚れていた。

それは代々受け継がれてきた剣であり、家宝であり、彼女の目標だった。

はっとして、気を入れる。

まずは店を開けなくては――。




来訪する客への対応をこなしながらふと窓の外へ目をやると夕方になっていた。

店を閉め、仕事を終えたユニカは家宝の剣の手入れを始める。

ユニカはその剣を丁寧に磨きながら、いつか自分も同じような剣を作る夢を胸に抱いている。


「いつか、この剣にみたいな宝器ほうきを作ってみせるんだ。」


ユニカはそう呟きながら、宝器を大切に元の場所に戻す。

そして、彼女は部屋に戻ると机に向かい、設計図を描き始める。

宝器ほうき神器じんぎに準ずる性能を持つ武具の総称で、一般のそれより性能が高く、特別な力を持っているものが多い。

彼女の夢は、宝器ほうきを自らの手で作り出すことだった。

こうして、ユニカの一日は静かに過ぎていく。

しかし、彼女の胸にはいつも大きな夢が燃え続けているのだった――。




ある日の昼下がり、店のドアが開き、二人の男女が入ってきた。

一人は短い茶髪の優し気な風貌の男性で、ユニカも見知った顔だった、冒険者のトムだ。

もう一人は銀髪と深い青の瞳が印象的な女性だった、エルフだろうか、見た目はユニカとそう変わらない歳に見えるが、その実長命であるため当てにならない。

彼女は慣れない様子でキョロキョロと店内を見まわしている。


「いらっしゃいませ!トムさん!」


ユニカは笑顔で声をかける。

その声に反応して、トムは軽く手を振る。


「やあ、ユニカ。預けていた剣を取りに来たんだ。お父さんはいるかな?」


ユニカは答える。

父からトムが来た場合、鍜治場に通してくれと頼まれていた。


「はい!鍜治場にいるので奥へどうぞ!」


じゃあお邪魔するよ。

そう言ったトムを案内しようとすると、彼の連れであるエルフの女性について紹介された。


「そうそう、彼女はミレア、魔法使いとしてうちのパーティに入ったんだ。よろしく頼むよ。」


ミレアは少し照れくさそうに微笑み、ユニカに向かって軽くお辞儀をした。


「初めまして、ミレアです。よろしくお願いします。」


ユニカは興味津々でミレアを見つめた。

彼女の美しい銀髪と深い青の瞳が、何とも神秘的で魅力的だった。


「初めまして、ミレアさん。私はユニカです。この鍛冶屋で父と一緒に働いています。」


ユニカは手を差し出し、ミレアはその手を取って軽く握った。

それを見届けたトムは店の奥へと入って行く。

そこでユニカはトムのパーティには魔法使いが既にいたことを思い出す。


「トムさんのパーティって確か、アディンさんがいたと思うのですが…ってすみません!余計なことを!」


ユニカは慌てて謝罪する。

冒険者は命がけの仕事になることが多い。

トムのパーティは今まで3人で活動してきたはずだ。

不幸がありパーティメンバーの入れ替えがあったかもしれないのに、軽率だったと後悔した。


「ああいえ、大丈夫です。トムさん、アライアさん、アディンさんのパーティに入れさせてもらってるんです。」


その言葉を聞きほっとすると同時に、内心自分を責めた。

そんな様子を見てか、ミレアは話題を変えた。


「それよりも、あそこに飾っている剣、あれも売り物なんですか?」


ミレアはカウンターの奥に飾られている剣を指差した。


「あ、あれですか?いえ、あれは売り物ではなく、我が家の家宝なんです。」


ミレアは飾られている剣に目を奪われている様子だった。

彼女は剣を使うのだろうか。


「すごくきれい…。神器みたい…。」


神器、その言葉を聞きユニカは期待に胸が膨らんだ。

鍛冶屋の娘として、一度は見てみたいと考えていたのだ。

もしかしたら詳しい話が聞けるかもしれない。


「ミレアさん、神器を見たことがあるんですか?」


ユニカの問いにミレアは答える。


「えーっと、私がトムさんのパーティに入れてもらえたのは召喚魔法が使えるからなんです。」


召喚魔法!あの神器を召喚できる魔法だ!

思わずカウンターから身を乗り出した。


「ミレアさん、召喚魔法が使えるんですか!?」


興奮気味のユニカに、ミレアは少しのけぞり、やや驚いた顔で答えた。


「つ、使えますよ?」


しまった、つい興奮して失礼なことを。

慌ててミレアに謝罪した。


「ご、ごめんなさい!私、神器を見たことが無くって、鍛冶屋として見てみたいと思ってたんです!」


そうじゃない、それではまるで見せてほしいと言っているようなものじゃないか。


「すっすみません!見せてほしいとかそういったことではなく…。」


慌てるユニカを前に、ミレアはあっけにとられていたが、ふっと笑い、答えた。


「大丈夫ですよ。召喚魔法は珍しいですからね。何と言っても必要な魔力量が多――。」


ミレアが両手を広げて言いかけた瞬間、彼女の後ろに置かれていた雑多に武具が数本放り込まれていた樽に尻がぶつかり、樽はバランスを崩し、倒れた。

盛大な音と共に床に武具が散らばる。

ミレアは顔を真っ青にして頭を下げた。


「ごっごっ、ごめんなさいーっ!」


慌ててミレアは樽を起こし、散らばった武具を片付ける。

その様子に親近感が沸いた、お姉さんのようなイメージがあったが、何だか同年代の子のような。

片付けはもちろん私も手伝った――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秘匠作りし剣の啓示 なべひとつ @nabehitotsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ