夏が消えたら

友川創希

夏を消す

「今日も、暑いな……」


 夏の気温が40度など当たり前になってきているこの時代、夏をなくしてほしいという依頼が私のもとに何通も何通も届いている。自分で言うのもあれだけれど、私は高校生ながら世界的な発明家で、今まで多くのものを発明してきた。


 そこで今回、私は夏休みという期間をおよそ半分使って夏のみをなくすことのできる――つまり言うと、春、秋、冬の3つの季節だけにすることができる機械を発明することに成功したのだ。これでたぶん多くの人の役に立つことができるだろう。


 私は早速その機械のスイッチボタンを押し、夏の季節を一瞬にしてなくした。


 その瞬間、一気に気温が下がり、このあたりは一瞬で秋になった。


 外に出れば紅葉の絨毯じゅうたんが広がり、どんぐりなどもそこら中に転がっていた。周りの人の服装も半袖を着ている人など、一人もいなかった。どうやら私の発明品は見事に成功したようだ。


 この涼しい気温の中、残り半分の夏休みをどう満喫しようかな。カラオケやボーリングをしたり、美味しいものを沢山食べに行きたい。そしてやっぱり家でゴロゴロしながらスマホをいじっていたい……そう思って私は家に戻ると早速ベッドに寝転んだ。すると、お母さんが僕の部屋に入ってくる。そして僕に向かって何かを言ってきた。


「あれ、学校は……?」


 そうだ、夏を消してしまったから夏休みなんてものはこの世に存在しないのだ。


 何かを豊かにすることは、何かを犠牲にするということとはこういうことだったのか。

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夏が消えたら 友川創希 @20060629

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