草むら
今が「古き良き時代」であるかのような、未来の若者が私に恋い焦がれている気配をかすかに感じた。私の脳の虫垂では爽やかな牛乳が川となって流れ出した。
ふと上を見上げると、草木の揺れる隙間に白い壁が現れた。私はその壁に心奪われ、草むらをかき分けていった。私は壁に触れた。純白でまぶしく、しかしどことなく人肌の生温さを思わせる。ザラザラとした壁に指先を這わせながら形を確かめた。円柱型のその建物は小丘に半分飲み込まれたように埋まっている。
四角い穴がただ切り抜かれたように一つ空いていて、その先には暗い階段が続いていた。階段は円柱の内壁に沿って螺旋状になっている。壁に等間隔に並べられた小さな丸い穴から時折風の音とともに日光が指す。やがて私は最上部までたどり着いた。
はるか下には私が以前住んでいた街があった。今でも私があの街に居て、通行人を睨んでいるような気がしてくる。
人々から忘れ去られてもその美しさを保ち、今こうして私のもとに現れた。それはまごうことなき私の、私だけの要塞であった。
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